第二十五話:こむぎ見守りたい(隊)にぇ!!
「外部さん!!お願いします!!見守りカメラ置かせてください!!」
事務所の一角で、Azukiさんが唐突にそんなことを言い出した。
その場にいた私は、思わず「え?」と声を漏らしてしまう。
「最近いろはちゃんが元気なくて…この間お邪魔したときに、こむぎちゃんを見ているいろはちゃんが、ほんとにいい顔してたんです。もしかしたら、こむぎちゃんが元気の源になるんじゃないかと思って…」
Azukiの言葉は真剣そのものだった。
しかし、私にもプライベートというものがある。家にカメラを置くなんて、正直抵抗がある。
「もちろん在宅中は見れないようにしてもらっていいです。あくまでも不在の時だけで!!」
必死に食い下がるAzuki。
その瞳はまるで「いろはを救いたい」という使命感に燃えているようだった。
「あと私個人的なんですけど…おうちをどうやって脱走して、隣家に行ってるか知りたいですし…」
その一言に、私は思わず言葉を詰まらせる。
そう、こむぎは時折、謎のルートを使って隣家に遊びに行ってしまうのだ。
そしてその隣家には――ぺこらが住んでいる。
Azukiは既にぺこらとオフコラボ済み。つまり、外部の家の隣にぺこらが住んでいることを知っている。
「もちろん隣にだれが住んでいるかは、みんなには内緒にしておきますので」
その言葉に、私は完全に押し切られてしまった。
「はい、負けました…居ないときは見れるようにしておきます。ただし録画だけは厳禁でお願いします」
こうして「こむぎ見守り隊」はAzukiといろは、外部にの承認より秘密裏に結成された。
見守りカメラが静かにリビングを映し出す。
「こむぎ~、おはよ~、かざまだよ~」
スピーカーから、いろはの柔らかな声が響く。
ソファーで丸くなっていたこむぎが、ぴくりと耳を動かし、顔を上げる。
「こむぎ~、おはよ~、げんきしてる~?」
こむぎはちょこんとカメラの前に座り、右手を挙げて返事をする。
その仕草はまるで人間のようで、見ているこちらが驚かされる。
「そぉか~、きょうもげんきか~」
「にゃ~?」
「かざまもげんきだよ~」
いろはとこむぎのやり取りは、まるで意思疎通ができているかのようだった。
いや、もしかすると本当に通じ合っているのかもしれない。
こむぎはただの猫ではなく、賢さと愛嬌を兼ね備えた存在なのだ。
「きょうはとなりにいかないの~?」
「にゃ!!」
「そっか~、きょうは~おやすみなんだね~」
「にゃ~…」
「かざまも~きょうは~、おやすみ~なんだよ~?」
二人の会話は、まるで幼い子ども同士が秘密を共有しているような温かさに満ちていた。
いつものやり取りの最中、突然こむぎが走り出した。
「どうしたの~?こむぎ~?」
いろはが呼びかけると、こむぎはたい焼きクッションとかざま人形をくわえて戻ってきた。
そしてブランケットを器用に引っ張り、二つを包み込む。
「ねろ~ってこと~?まだねないよ~」
「にゃ~…」
こむぎはブランケットに潜り込み、かざま人形を抱きしめるようにして添い寝を始めた。
その姿はまるで「かざまを守るよ」と言っているかのようだった。
「そっか~、こむぎがそいねしてくれるのか~」
いろはの顔がぱっと笑顔に変わる。
その笑顔は、Azukiが言っていた通り、確かに元気を取り戻した証だった。
「それじゃ~、こむぎ~、おやすみ~」
いろはの声が優しく響く。
こむぎは目を細め、満足そうに喉を鳴らした。
後日、Azukiと私は改めて話し合った。
「やっぱり、こむぎちゃんのおかげでいろはちゃん、すごく元気になってました!」
Azukiは嬉しそうに報告する。
私は少し照れながら「まぁ、こむぎが頑張ってるんでしょうね」と答えた。
「それに…こむぎちゃん、ほんとに賢いですよね。人形を持ってきて添い寝するなんて、普通の猫じゃ考えられないです」
こむぎはただのペットではなく、家族であり、仲間であり、時には心を癒す存在なのだ。
こうして「こむぎ見守り隊」は、Azukiと私の二人だけで活動を続けることになった。
誰にも知られない秘密の隊。
こむぎの一挙一動を見守り、時に笑い、時に癒される。
「次はどんなことをしてくれるんだろう?」
「今日は隣に行ったかな?」
「人形と添い寝、また見たいな」
そんな会話を交わしながら、私たちはこむぎの存在に支えられていく。
その夜、私は帰宅してこむぎを抱き上げた。
「お前、いろはを元気にしてくれたんだってな」
こむぎは「にゃ」と短く鳴き、私の胸に顔をすり寄せる。
その温もりに、私自身も救われていることを改めて感じた。
「ありがとう、こむぎ」
そう呟いた瞬間、こむぎは満足そうに目を閉じた。
見守りカメラ越しでも、直接でも、こむぎはいつだって誰かを癒している。
そして「こむぎ見守り隊」の物語は、まだまだ続いていく――。




