第二十一話:谷郷とホロライブと意識改革
ホロライブ本社・大会議場。
長机が整然と並び、役職付きの社員たちが一堂に会していた。重厚な照明が天井から降り注ぎ、会場全体に緊張感を漂わせている。誰もが「今日はただの定例会議ではない」と直感していた。
壇上に立つ谷郷は、ゆっくりと水を口に含み、静かに言葉を紡いだ。
「ホロメンや外部委託者は、下請けではない。あくまでも“パートナー”だ」
その一言に、場の空気が震えた。
「しかし社長、現場を回すには上下関係が必要です」
「効率を優先すれば、タレントの要望をすべて聞くのは難しいかと」
役職者たちの声は、どこか“慣習を守りたい”という保身の響きを帯びていた。彼らは数字やスケジュールを盾にして、現場の声を押し込めようとしていた。
谷郷は鋭い眼差しで一同を見渡した。
「効率だけを追えば、心は削られる。タレントが笑顔でいられなければ、ファンも笑顔になれない。ホロライブは“笑顔の連鎖”で成り立っているんだ」
沈黙が広がる。誰もがその言葉の重みを理解しながらも、簡単には受け入れられない。
神楽坂さんが静かに口を開いた。
「現場で摩擦が増えているのは事実です。ですが、外部マネージャーのようにタレントの生活面まで支える存在がいることで、彼女たちは安心して活動できている。これは数字では測れない“信頼の資産”です」
谷郷は頷き、手元の資料を掲げた。
「今日から新しい方針を打ち出す。
•第一に、タレントを“顧客”ではなく“仲間”と位置づける。
•第二に、外部委託者も含め、すべての関係者を“対等なパートナー”とする。
•第三に、現場の声を吸い上げる窓口を増設し、直接意見を届けられる仕組みを作る」
役職者たちは顔を見合わせた。
「それは従来の体制を大きく変えることになります」
「現場の負担も増えるのでは…」
谷郷は一歩前に出て、声を強めた。
「負担が増えるのではない。“責任を分かち合う”んだ。タレントも、スタッフも、外部も――同じ船に乗っている。誰かを下に見る文化は、今日で終わりにする」
その瞬間、会場の空気が変わった。重苦しい沈黙の中に、わずかな希望の光が差し込んだ。
廊下で待っていたみこちとすいせい、そして外部マネージャーに谷郷は歩み寄った。
「聞いていたか?」
「にぇ…聞いてたにぇ!谷郷、かっこよかったにぇ!」
「ようやく本気を見せたね」すいせいが腕を組む。
外部マネージャーは静かに頷いた。
「これで、少しは現場も変わるかもしれませんね」
谷郷は微笑み、たい焼きを差し出すみこちを見て苦笑した。
「……その文化は、変わらなくてもいいかもしれないな」
みこちは満面の笑みで叫んだ。
「ホロライブは、たい焼きと絆でできてるにぇ!!」
外部マネージャーは思った。
「大鉈を振るった後でも、結局たい焼きで締めるのか…」
だが――その笑顔こそが、ホロライブの原点だった。
外部マネージャーは新居のソファに腰を下ろし、こむぎを撫でながら会議を思い返していた。
「谷郷の言葉は、確かに重かった。だが、現場が変わるには時間がかかる。俺の役割は、その橋渡しなのかもしれない」
こむぎは「ニャー」と鳴き、膝にすり寄った。
「みこちが笑ってくれるなら、それでいい――そう思っていた。でも、今日の谷郷の姿を見て、もう少し大きな視点で考えるべきなのかもしれない」
窓の外には、都会の夜景が広がっていた。
その光は、ホロライブという巨大な船を照らす灯火のように見えた。
外部マネージャーは静かにたい焼きをかじりながら、心の中で誓った。
「この仕事…やっぱり、ただのマネージャーじゃ済まないな」
そして――新しい時代の幕が、静かに上がろうとしていた。




