第十六話:外部マネージャーと神楽坂さんと新居事情
引っ越しから数日が経ち、新居での生活にもようやく慣れてきた頃。
外部マネージャーは、ホロライブ事務所の応接室で神楽坂さんに呼び出されていた。
「神楽坂さん、少しお聞きしたいことがありまして」
「ええ、どうぞ」
「先日、偶然…隣の部屋の住人と顔を合わせたんです。ぺこらさんでした」
神楽坂さんは一瞬だけ目を伏せ、静かに頷いた。
「やはり、気づかれましたか」
「はい。こむぎがベランダから脱走してしまって…それで、ぺこらさんが保護してくれて。まさか隣が“推し”だとは思っていなかったので、正直、驚きました」
「……外部マネージャーさんには、話しておかなくてはいけないことがあります」
「はい」
「これは、みこさんや星街さんにも伏せている話です。どうか、ここだけの話として聞いてください」
神楽坂さんは、声を落として語り始めた。
「実は、あのマンションには…ぺこらさん以外にも、数名のVtuberが住んでいます」
「……!」
「表向きは“業界関係者NG”という審査基準になっていますが、それはあくまで建前です。実際には、地方から上京してきたタレントたちが、収入が安定するまでの間、会社が一部屋ずつ借り上げて支援しているんです」
「なるほど…」
「ただし、これは社外秘です。みこさんや星街さんには、あえて知らせていません。彼女たちはすでに自立している立場ですから、余計な気遣いをさせたくないのです」
「では、なぜ僕の入居が許可されたんですか?業界関係者であることは明らかだったはずです」
「今回の部屋は、もともと一般の方が契約していた部屋です。たまたま退去のタイミングが重なり、空きが出たところに、あなたの住居手当の条件が合致した。管理会社との交渉は難航しましたが、あなたの“個人契約”という立場が逆に功を奏しました」
「個人契約…?」
「ホロライブ所属ではなく、あくまで“みこさんの個人雇用”という形が、業界との直接的な関係性を曖昧にしたのです。もちろん、会社としてはあなたを信頼しているからこそ、交渉に踏み切れたのですが」
神楽坂さんは、少しだけ微笑んだ。
「あなたのことは、会社としても“信頼できる人物”と判断しています」
その笑顔は、穏やかでありながら――どこか、試すような鋭さを含んでいた。
「だからこそ、あの部屋を任せたのです。あそこは、ある意味“静かな最前線”ですから」
「最前線…?」
「ええ。タレントたちが、仕事と私生活の境界を探る場所。あなたのような立場の人間が、そこにいることは、会社にとっても“観察と支援”の両面で意味があります」
外部マネージャーは、ゆっくりと頷いた。
「……わかりました。責任、持ちます」
「それでこそです」
神楽坂さんは再び書類に目を落とし、淡々と次の業務に移った。
その背中を見ながら、外部マネージャーは思った。
「この仕事…やっぱり、ただのマネージャーじゃ済まないな」
でも、みこちが笑ってくれるなら――それでいい。
そう思えるようになっていた




