第十二話:がいぶまねーじゃーの家に行ってみるにぇ!
スタジオ収録が終わった夕方。
「今日は夜配信もないし、がいぶまねーじゃーの家まで行ってみるにぇ!」
みこちの突然の提案に、すいせいは目を丸くした。
「えっ、今から?けっこう遠いんじゃないの?」
「通勤時間1.5時間って聞いたにぇ!みこ、実際に体験してみたいにぇ!」
「まあ…確かに、どれだけ大変かは知っておいた方がいいかもね。じゃあ、助手席は私がもらうよ」
「みこは後ろでたい焼き食べながら、がいぶまねーじゃーの努力を感じるにぇ!」
「それ、感じる気ゼロじゃん…」
車内。
外部マネージャーが運転席に座り、すいせいが助手席でナビを確認。
みこちは後部座席で、たい焼きを抱えたまま、すでにウトウトしていた。
「すぅ…すぅ…」
「……寝たね。たい焼き抱えたまま」
「まあ、いつも通りだね」
車は静かに都内を抜け、郊外へと向かって走り出す。
夕焼けがフロントガラスを染め、ラジオからはゆったりとした音楽が流れていた。
すいせいは窓の外を眺めながら、ふとつぶやいた。
「助手席って、ちょっと特別な感じするよね。夕方の道を走ってると、ちょっとセンチメンタルになるっていうか」
「でも、後ろで寝てる人がいるから、ちょっと不思議な構図ですね」
「ほんとだよ。みこちがいるだけで、全部“ホロライブ仕様”になるんだよね」
ふたりは小さく笑い合った。
「着きましたよ」
「んにゃ…たい焼き…あと5個…」
「みこち、起きて。着いたよ」
「にぇっ!?もう!?なんか…案外近かった気がするにぇ…」
「……寝てたからね」
玄関を開けて部屋に入ると、ふわふわの茶色い毛玉が静かに近づいてきた。
「ただいま、こむぎ」
外部マネージャーが優しく声をかけると、猫は足元にすりすりと甘えてきた。
「えっ!?猫!?がいぶまねーじゃー、猫飼ってたの!?」とすいせい。
「にぇぇぇ!?みこ、初耳なのにぇ!!名前は!?名前は!?」
「こむぎです。うちの家族です」
「こむぎ…かわいいにぇぇぇ!!」
「ふわふわしてる…ぬいぐるみみたい…」とすいせい。
ふたりがテンション高く近づいた瞬間――
「シャッ!」
こむぎは驚いて、すばやく奥の部屋へと逃げてしまった。
「にぇぇぇ!?逃げたにぇ!?」
「えっ…私たち、そんな怖かった?」
「こむぎは人見知りなんです。知らない人が来ると、まず隠れます」
「でも、がいぶまねーじゃーにはすりすりしてたにぇ!」
「それは…毎日一緒にいるからですね」
「みこ、たい焼きで仲良くなるにぇ!」
「それ、人間用だから…こむぎにあげないで下さいね」
すいせいが笑いながら、部屋を見回したそのとき――
「……あれ?こむぎ、戻ってきてる」
足元に視線を落とすと、こむぎがいつの間にか戻ってきて、すいせいの足にすりすりしていた。
「えっ!?なんで私に!?こむぎ…もしかして、私のこと好きなの?」
みこちがそっと手を伸ばすと――
「シャーッ!!」
「にぇぇぇぇ!?またシャーされたにぇ!!」
すいせいがそっとこむぎを撫でると、こむぎは喉をゴロゴロと鳴らし始めた。
「……かわいすぎる…こむぎ、私のことほんとに好きなの?」
外部マネージャーは、ふたりと一匹のやり取りを見ながら、静かに笑った。
「この家、ちょっとだけ…にぎやかになった気がする」
すいせいは、こむぎの背中を撫でながら、ぽつりとつぶやいた。
「それって…みこちが騒がしいからじゃない?」
「にぇぇぇ!?みこ、騒がしくないにぇ!たい焼きで静かにしてたにぇ!」
「たい焼き食べながら“にぇにぇ”言ってたよね」
「それは…たい焼きの感想なのにぇ!」
今日は本当に騒がしく、そしてほんの少し暖かさを感じた。




