第十話:たい焼き本舗とコラボだにぇ
春の風が、事務所の窓を優しく揺らしていた。
「みこち、今年も来たよ。たい焼き本舗さんからのコラボ依頼」
神楽坂さんが差し出した書類には、毎年恒例となった“さくらみこ×たい焼き本舗 春の限定コラボ”の企画書が記されていた。
「やったにぇ!今年もたい焼きの季節が来たにぇ!」
みこちは満面の笑みで飛び跳ねた。
「しかもね、今回は“肉じゃがたい焼き”を商品化したいって」
「にぇっ!?あの、みこが作ったやつ!?」
「前回の料理対決配信を見て、興味を持たれたみたい。『家庭の味とたい焼きの融合』ってコンセプトで、ぜひ商品化したいって」
「うれしいにぇぇぇ!!」
みこちは歓喜のあまり、たい焼きのパッケージデザインまで妄想し始めた。
数日後、たい焼き本舗との試作会。
老舗の職人たちが、真剣な表情で肉じゃがの味を吟味していた。
「うーん…このじゃがいも、もう少し煮崩れしない方がいいな」
「甘みが強すぎる。もっと出汁を効かせて、上品に」
「皮の厚みも調整しよう。もっとパリッと」
みこちは、最初こそ「すごいにぇ~!」と感動していたが、試作を重ねるごとに、だんだん表情が曇っていった。
そして、ついに――
「……もう、これはみこのたい焼きじゃないのにぇ……」
ぽつりと、みこちがつぶやいた。
「みこが作った肉じゃがは、もっと素朴で、甘くて、あったかくて…がいぶまねーじゃーが“家庭の味”って言ってくれたのにぇ…」
職人たちは手を止め、気まずそうに視線を交わした。
神楽坂さんも、言葉を選びかねていた。
そのとき――
「すみません。少し、よろしいでしょうか」
静かに、外部マネージャーが一歩前に出た。
「本来、私が口を出す立場ではないのは承知しています。でも…」
彼は、みこちの作った最初の肉じゃがたい焼きを思い出していた。
「みこちのたい焼きは、確かに家庭の味でした。見た目は不格好でも、食べた瞬間、心がほっとするような…そんな味でした」
「……がいぶまねーじゃー……」
「もちろん、商品としての完成度も大切です。でも、“みこちの味”が消えてしまったら、それはもう別物です」
職人の一人が、腕を組みながらうなずいた。
「……なるほど。確かに、我々は“完成度”ばかりを追いすぎていたかもしれませんな」
「みこさんの想いを、もう一度聞かせていただけますか?」
みこちは、少し涙ぐみながら、ゆっくりと語り始めた。
「みこの肉じゃがたい焼きは…がいぶまねーじゃーが、みこのために頑張ってくれたことがうれしくて…そのお返しに作ったたい焼きなのにぇ。だから、あったかくて、ちょっと甘くて、ほっとする味にしたかったにぇ…」
職人たちは静かに頷き、再び厨房へと戻っていった。
数日後。
完成した新しい試作品は、みこちの味をベースに、老舗の技術で丁寧に仕上げられていた。
「うわぁ…これ、みこの味にぇ…でも、もっと美味しくなってるにぇ…!」
「“みこちのたい焼き”として、胸を張って出せる味になったと思います」
「がいぶまねーじゃー…ありがとうにぇ。みこ、また一歩前に進めた気がするにぇ」
「みこちの想いが、ちゃんと伝わったからですよ」
みこちは、たい焼きをひとくちかじって、にっこり笑った。
「これで、がいぶまねーじゃーも“みこ単推し”になるにぇ!」
「えっ、そこに戻るの…?」
こうして、春の風に乗って、“みこちのたい焼き”は全国へと羽ばたいていった。




