まちびとこぞりて①
魔法少女達の反応が途絶えてから既に30分が経とうとしている。
「本当にここで合ってるのよね?」
応援を待つ間、同僚の瀬野モモが俺に問いかける。
すでに同様の質問を二回されている。
かなり苛立っている様子で、手持ち無沙汰に何度も腕を組み直している。
「あのローレルとかいうのは何やってたのよ。あれ、神様なんじゃないの?」
異常な魔力を計器が観測したと思った瞬間、猫猫、サン、スイとローレルと思われる四つの魔力反応も同時に異常を示した。
明らかに普通ではない状況のはずだが、その現場であるこの場所は、何事も無かったように涼しい夜風が駆け抜けるだけだった。
「課長。実際どうなんすか? あんだけ異常な反応があったのに、ここに何の痕跡も残ってないってありえるんすか?」
「実際にありえてるんですよねぇ。……はい」
「あの機械、本当に信用していいんですか?」
彼女の疑問は最もで、実際俺もあの機械の精度に対してかなり懐疑的だ。
オフィスで見た幽霊の反応もきれいさっぱり無くなっているのも不信感に拍車をかけているが、ただ一つ、確かな事実がそこにある。
「こちら側のシステムでは、彼女達の反応は正常なんです。また何かしらの理由で連絡が取れなくなっている可能性は無いんですか?」
「モモちゃん。それって普通に異常事態じゃね?」
「今更あなたは……。!! だから下の名前で呼ぶなって言ってるでしょ!?」
猫猫ちゃんのチームが毎回異常すぎるせいで感覚がマヒしてしまったのか、連絡が取れなくなるくらい普通の事のようになってしまっている。
「……あ、はいはい……。ああ、そうですか……。はい」
突然、課長が独り言を言い始めたのかと思ったが、どうやら誰かと連絡を取っているらしい。
「分かりました。……はい」
「何が分かったんですか課長?」
通話がキレたと見るや否や、すかさず瀬戸ちゃんが課長に尋ねる。
「やっぱり彼女達は異空間にいるみたいですねぇ。……はい」
やっぱりと言うのには理由があり、実は彼女達のバイタルに関しては依然として異常無しと出ている。
ただし、システムが感知している彼女達の座標はメチャクチャで、こちらからも向こうからも指向性の信号が送信できない状況にある。
そしてどうやら、それは対象が異空間に存在するときの典型的な反応らしい。
「アラートが出るのが遅れたのも、どうやらモニタリング担当が毎回ピーピー鳴ってうるさいから音を切っていたらしいですよ」
「はぁっ!?」
魔法少女達に何かしらの異常があれば、当然ながらシステムによって通知が行くことになる。
しかし、その通知を最初に受けるのは専門のオペレーターであり俺達では無い。
今回はそのオペレーターがその通知を切っていたと言う事のようだ。
ようするに、仕事ねこ案件である。
「まあ分からんでもねぇな。あれ、些細な事ですぐアラートが鳴るから、猫猫ちゃんなら異常加速とか通常の魔力検知でも反応する可能性があるしな」
「岡ノ下君!?」
実は、俺はそのオペレータのバイトをやっていたことがあったりする。
「いやいや。だからって普通はアラート切ったりしねぇし」
「本当に異常でしたら、ミュートは貫通するはずですよ。……はい」
ということは、異空間に一時的に行っただけでは緊急アラートは発報しないわけで、実際に霊障による空間の異常は頻発しているので、さもありなんといったところである。
「だからって、女の子にこんな危険な仕事をさせてるのに、監視してる側がそんなんでどうするのよ!!」
あのアラートが任意で切れる事なんで初めて知ったし、本当にやってたとしたらまあ、多分一発クビだろうなぁ。
「で、神サマは何処に行ったわけ? 一人だけ信号が完全消失したんでしょう?」
そう。
他三人の信号に関しては、メチャクチャながら一応生きているのだが、一つだけ完全に消失してしまったものがある。
「あれなんですが、どうやらローレルさんではないみたいなんですよねぇ」
え?
「は??」
じゃあ誰なんだよそれ。
「じゃあ誰なんですかそれっ!」
「それは……」
そこで課長は自分の顎に手を当てて、上目遣いに俺達を見――。
「だからもったいぶるなって言ってるでしょ毎回っ!!」
「ふふふ、不明だそうですよぉ?」
モモちゃん怖っ。
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魔王に聞きたいことが山ほどある。
しかし、もう何というか理解が追い付かなくて頭がおかしくなりそうだ。
急に魔法少女にされて、神様が出て来たと思ったら今度は魔王。
RPG始めたら次の街でラスボスに出会いました(終)
「おねがいだにゃぁ~」
「う~む。どうしようかなぁ?」
目の前で魔王と使い魔たちが交渉のような事をやっているが、堂々巡りである。
最初は真面目に彼らの会話を聞いていたが、意味があるようには聞こえなかったので、私は既に頭の中で次のディアブラの新曲の構想を練り始めていた。
「うんこ」
その会話に終止符を打ったのは”うんこ”だった。
「? なんだ?」
「うんこ」
黄色は首を垂れたまま、そう呟いた。
「うんことは、大便の事であるな?」
「ああ、特に意味は無いから気にし――」
「うんこうんこうんこうんこうんこうんこうんこうんこ」
ああもう、また始まったよ……。
さっきまで妙に静かだと思ったらこれである。
「どうした、排便したいのであるか?」
「いや、そう言う事じゃないと思うにゃ」
「うんこ出るうんこ出る出るうんぱっぱ」
「だそうだが?」
「どうなんだにゃガウリンガル?」
「……阻害されて便意が調べられないガウ」
そういえばコイツら、そう言うの分かるんだったな。
「おおっとそれ以上は近づくでないぞ? そういう作戦かもしれないからな」
どういう作戦なのかと突っ込みたいが、しかし魔王がそう言うと言う事は、こちらに変な動きをされるのは困ると言う事だろうか。
って事は、もしかして私たちにもワンチャンあるのか?
「うんぱっぱ!」
そう言えば便意はもちろん、私は尿意も一切感じないが、ここにいる私はどういう存在だったんだっけか?
なんかそんな話を最初にしたようなしてない様な……。
「なあ、もし私が尿意を堪えきれなくなったらどうなるんだ?」
「それは、また漏らすだけだにゃ」
「ってことは、ここにいる私は実体……ん? またって何だまたって?」
私は確かに頻尿だが、ここ最近で漏らした覚えは——。
ぶりぶりぶりぶちゅちゅちゅちゅぅううう!!!!
「!?」
「!?!?」
激しい破裂音が、謎空間に響き渡る!
こいつ!
マジでやりやがった!!
「もう最悪だガウ……」
黄色の足に、茶色の何かが伝ってボトボトと落ちる。
まさかの下痢である。
「サンさん? お腹痛かった――」
うっ!?
「うごっ!? く、臭いっ!!」
魔王も思わず顔を背け、片手で口元を覆う。
「まさか貴様っ!? ”生身”か!!」
え、その”生身”というのはどういう意味で言ってる?
「げぼぉおおおおおお!!!!」
びしゃぁあああ!!
「!?」
「うわぁああああっ!!」
追撃とばかりに嘔吐した黄色から、咄嗟に飛びのく魔王。
「え、さすがにヤバくね?」
「あーやっぱりもらってたガウ」
もらってた?
「あ、そういえば何か、胃腸炎が流行ってるとか何とか……」
「なのに、欲張ってあんなに食べるからにゃ」
ってことは待てよ?
「おいっ! ってことは私もヤベェじゃんか!」
こんな密室で下痢ゲロされたら、まさにそれはテロ行為に等しい行いである。
「い、胃腸炎っ!? な、何だそれは! まさか病原菌ではあるまいな!」
ものすごいオーバーリアクションで、教室を模した空間の角まで退避する魔王。
「気持ちは分かるけど、そこまでっうわぁあくっせぇええええええ!!!!」
私も同じように、鼻をつまみながら後方へと後ずさる。
ゲロと下痢の混じった、まるでゴミ焼却場のような臭いがこの空間に充満してしまった!
「うっ!」
まずい、臭いで私も吐きそうだっ!
「や、やめろっ! これ以上やめろっ!」
なんか魔王が本気で取り乱しているように見えなくもないが、今の私にそれを観察する余力はない。
「派手にやりましたねー!」
そうだよっ!
何でこいつは毎度毎度……ん?
「!?」
「なっ!?」
顔を上げると、その声の主、ローレルが魔王をのぞき込むようにそこに立っていた。




