魔王②
……あれ?
もしかして、この魔王とか言う奴の方が、こいつ等よりワンチャン話が通じる可能性があるか?
「ええと魔王様? 具体的に、あなたは我々に何を望まれているのですか?」
「ん?」
「……え」
私が発言すると、急に静まり返って全員がこっちを見るものだから、私は驚いてたじろいでしまった。
「紫の小娘。貴様は、この世界について何を知っている?」
「この世界について?」
言われてみれば、私はこの自分の暮らす世界について何も知らない。
つい最近まで普通の中学生を送って、何の疑問もたずに生活して来ていたのに、ここ数日で急にそれが崩壊してしまったわけなのだが。
魔法や異世界の存在。
神に、そして目の前の魔王。
そういえば魔人とかいうのもいた。
「ん? どうした小娘?」
「この世界の人々は、そもそも魔法の存在すら知らないんだにゃ」
「たしかにそのようだが、我が連れて来た人間共は、全てが平均よりも高い魔力を保持していたぞ? それに、貴様らが転生者とか宣って我の世界に送り込んで来る人間共は、更に強大な魔力を有していた。常識として考えて、それがおかしくないかと聞いているのだ」
魔王と名乗る人物に常識を問われるとは、やっぱり向こうの方がまともなのではないか?
「それは、ボクの管轄外だにゃ」
「帰ってもらえるのなら、オレサマ達もそれに越した事は無いガウ! だから、一度サンを開放してもらいたいガウ!」
「やっぱり貴様らでは話にならんな。無駄な時間だった」
「待ってくれ! 私が知っている事を話すから、もう少しだけ話し相手になってほしい!」
「魔王様。あの魔人や幽霊の突然の活性化も、あなたの仕業にゃ?」
私を遮るように、テルミンが話を被せて来る。
本当にイライラする。
「だとしたら何だ?」
「あれはこの世界に対して重大な侵略行為と取られても仕方ないにゃ。ボク等なら管理者に見つかる前に、穏便に事を済ませる事が出来るにゃ」
この管理者というのが誰かと言う話になるが、ここ数日に見聞きした話を思い返すに、おそらくローレルの事だろうと思う。
「そういえばここ最近、我の事を探っているものがいたな」
「それが管理者にゃ!」
やっぱりローレルの事か。
あの、おしっこ索敵な。
「素朴な疑問なんですが、管理者も魔王様も、何でそんなまどろっこしいやり方するんですか?」
「ほら、小娘が知りたがっているぞ? 教えてやればよかろう」
「猫猫は少し黙っててほしいにゃ」
「あの小娘は少し頭が足りないので、気にしないで欲しいガウ!」
——かっちーん☆
「あのさぁ? ずっと聞いてたんだが、どう考えても魔王の方が筋の通った事言ってね? お前らはいつも知らない分からないばっかりで、今までろくな説明を私にしてくれたことあったか?」
「かなり譲歩してると思うにゃ。猫猫ほど世界のシステムについて知っている魔法少女は、現時点ではおそらく存在しないにゃ」
「コイツはタダのバカだガウ」
イライライライライライラ。
「小娘。貴様の知っている事を言って見ろ」
「猫猫は魔王について何も知らないからそう思うにゃ」
「じゃあ、それを今から説明してくれるんだよなテルミン?」
「何も難しく考える必要はない。そもそも魔王とか言って区別するのがおかしいのだ。貴様等の世界にも王はいるのだろう?」
現代の王でいうなれば、ほとんどがその国の象徴として存在する物である。
だが、ここではおそらくもっと前の、王が権力者として存在した時代の、今でいう大統領とかその辺の人物で捉えるのが妥当だろう。
「猫猫。キミが今までこの魔王に、間接的にではあるけど何をされたのかを思い出すにゃ」
「確かにそれは看過できるものではないが、こうやって本人と話が出来てるんだ。だったら、ここでしっかりと話をつけるべきだろう?」
「だから、そうしようとしてるガウっ!」
「お願いだから、今は猫猫は口を挟まないで欲しいにゃ」
「魔王様はどうです? こんな奴らよりも、私の方が話が通じそうじゃないですか?」
「ふふふ……。確かにそうだな」
「猫猫っ!」
「そもそも、我は言い争いなど望んでいないのだ。我が眷属を使っていたのも、我が直接手を出して事を荒立てない様にとの配慮なのだ」
実際それが事実なのかは怪しいが、今気になっているのはそこではない。
「その配慮に痛みいるにゃ。だからこそボクにあなたを元の世界に戻すための手伝いをさせて欲しいにゃ」
「我はそこの……猫猫と言ったな? その小娘と話がしたいのだ」
「待つガウっ! その小娘は何も知らない本当にただの人間だガウっ!」
「だから、お前らはそればっかりで、私はお前らの事を全く信用できない。それだったらまだ、こうやってこちらに耳を傾けようとしている魔王の方がマシだと言っているんだ」
「フフ……どうやらその使い魔共は、都合のいい事だけを囁いて娘を洗脳しようとしているようだな」
「それはっ……!」
テルミンがそこで言いよどむ。
これはもう、確実だろう。
「猫猫。こちらへ来い。何、すこし脅すようなことをして悪かったな。こちらも警戒していたのだよ」
「駄目だにゃ!」
「ただ少し、魔力を借りるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ああもう、テルミドールがしっかりと躾てないからガウ……」
「その言葉、そっくりそのままガウリンガルに帰すにゃ!」
こんな場面でも喧嘩とは、どんんだけ仲が悪いんだよこの使い魔共は……。
「まあ、悪いけど私もバカじゃない。流石に、そっちに歩み寄り過ぎるのは良くないことくらいは分かってる」
「ほう、なかなか堅実じゃないか」
まさか、やんわり拒否した相手に褒められるとは思っておらず、逆に私の心が揺らいでしまう。
だが、それも相手のやり口のうちだろう。
「多分、あなたは直接、私達に手出しが出来なかったんですよね? というか、この空間から出られなかったんじゃないですか?」
「……ほう?」
「だから、魔人とか悪霊とか、そのへんの眷属的な物に力を借りて、こちらの世界に干渉しようとした」
私は、自分の推測をゆっくりと話始める。
「そうやって自分の望む程度の魔力を持っている人間を探っていた。そして私達を見つけた」
「ほうほう」
「やめるにゃ。あんまり刺激しない様がいいにゃ」
「別に構わん。続けろ」
「そうやって見つけた私達を今回、こうやって取り込んだんですよね?」
続けろと言われたが、ぶっちゃけそれ以上の事は分からないので、なんか尻切れトンボになってしまった。
「ははっ! まあ、概ねそれで合っているな」
笑われてしまったが、どうやら私の憶測は会っていたらしい。
「でも、それだったら何で私達を殺そうとしたんです? ぶっちゃけ魔力を使うだけだったらそれでも良かったってこと?」
「ん? いや、死なれるのはあまり良くは無いな」
……あれ?
「いやでも、私は何度も死にかけましたよ? あ、今では無く、眷属の話です」
「……ふむ。どうやらこの世界は、放たれた魂をため込みやすいように出来てるようだな。だから、我がこの世界に干渉した事がどうやら、幽霊を活性化してしまったようだ」
やっぱり、結構干渉してんじゃねーか!
「だが、そこまで致命的になるような事にはならない筈だが? 我はあくまで、眷属を通して魔力を持つものを探っていただけだ」
「だとしてもやりすぎなんですよ。私が何体の強力な悪霊を相手にして来たと思ってるんです?」
「…………? いや、その事だと思ったのだが、やはり話が食い違っているな」
ん?
何だこの間は。
「我の放った眷属は二人だ。そのうち一人は我の力に耐えきれず、すぐに自壊して事切れた。だとすると、貴様が対峙した眷属はおそらく一人なのだが、あの男がそんなに何体もの幽霊を使役できるとは思えんのだが?」
「…………え?」
あれ、それって……。
「だったら、私が倒して来たあの幽霊どもは何だったんだ? マジでたまたまだったのか?」
「こーりゃ、猫猫。ファインプレーかもしれないにゃ」
「やはりそう言う事だったガウ」
「は?」
何を言ってるんだコイツは?
「魔王のせいじゃなかったとしたら、じゃああれは何だんだよ?」
「我が幽霊を眷属に使役させたのは、この魔法が自由に使えない世界の構造の中で、ある程度隠密な行動ができるからであるからな」
考えてみれば、ただ殺すのであれば、その辺の人間に干渉して通り魔的に攻撃してくればいいはずだ。
それがそもそも不可能だと言う可能性もあるが、何で事あるごとに幽霊なんだろうとは前々から思っていた。
「貴様らも、そう言う事情なのでは無いか?」
「それは魔法少女とは何も関係ないにゃ」
「いや、何でそこで魔法少女が……」
……待てよ?
魔王の言いたいことってまさか……。
「ハハっ! どうやら、貴様らの内部に敵が潜んでおるようだな!!」
「考えすぎにゃ」
「だとしても、それは魔法少女の運営では無いガウ」
どうやら、この使い魔二人間接的に私に対して言葉をかけているらしい。
「なるほどなるほど。そうやって強者の魂を回収して居るわけか。そしてその魂を、転生と称して我等の世界に送り込み、我等を侵略せしめんとするのだな!」
あっ!
なるほど!!
「はははっ! そうだろうなぁ! 転生するために表立って殺す事は、貴様らのルールの中では出来ないのだろう? と言う事は、事故に見せかけて殺すことになるが——」
「そうだったとして、それは僕達の組織の仕業ではないにゃ!」
これで腑に落ちた。
なぜ自分ばかりがこんな危険な目ばかりに合わなければならないのか。
その謎が解けた。
「あまり短絡的に考えない方がいいガウ。今の猫猫は、冷静な考えが出来てないガウ」
実際、細かい部分まで振り返れば不審な点はあるのかもしれない。
しかし、今の私にはそれが真実だとしか思えないのだ。
「猫猫っ!」
「いや、分かってる。別に、お前らが私を殺そうとしてるなんて思っていない」
「だが、心当たりがあるのではないか?」
あるとすれば、あとはローレル……いや、ローレル本人と言うよりローレルが所属する組織の方だろうか?
「てか、そもそもローレルは何をやってるんだ?」
「……ローレル?」
……あっ。
「ローレルとは何だ? 今回の話に、何の関係がある?」
これはマズった……。
「もしや、この我の領域に干渉して来ている人物か?」
その人物として思い当たるのは、ローレルかブッチャーさんであるが、あの状況的に一番濃厚なのはローレルだろう。
「んん? その様子、図星かぁ?」
まずい。
はっきりと決まった訳ではないが、ここでローレルの存在を悟られるのは非常に危険な気がする。
「この領域が私の通う中学校なのには、何か理由があるんですか?」
「ほう。この無機質な空間は、貴様の通う学び舎なのか。ということは、それは貴様かそのローレルとか言う物の意思を反映しているのだろうなぁ?」
まずーぅい!!
「猫猫、もうそろそろ本当に話さない方がいいにゃ」
今回ばかりは、おっしゃる通りです。




