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堪情の月⑤

「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「………………ひま」


「…………」


「………………………ひま」


「うん? 暇? まだ十分も経ってないガウ」


「ひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひま」


「…………」


「ひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまぁああああああ!!!!」


「ああああもうオマエは本当に、どうしようもないガキだなぁガウ!!」


「あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


「うるせぇええええ!!!!」


「出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ」


 全く、一体どうなってるガウ……。


 ここは異空間には違いないガウ。


 しかし、何やらオイラのデータにある異空間とは何かが違う様子ガウ。


「ぎゃぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」


 とりあえずサンは、ギャオっているものの健康状態に問題は無いガウ。


 そして、どうやらここはサンの部屋を模しているようなのだが、一つだけ決定的におかしい点が存在するガウ。


「なんなのこれぇええええええ!!!! ひまわりをここから出せぇえええええええええええ!!!!」


 なぜかサンの部屋の中に大きな鳥かごのような大きな檻が存在しており、オイラたちはそこに囚われているガウ。


 それだけなら、まあよくある異空間ではあるが(といっても、異空間に来ること自体がよくある事では無いガウ)なぜだか檻の外と中が別の空間で構成されているようなのガウ。


 なぜ、わざわざこんな手間のかかる事をしているのか。


 こんな高度な事が出来るのなら、ほかにもっと簡単なやり方があるはずガウ。


 術者の意図が読めなくて気持ちが悪いガウ。


「お前ぇ早く助け呼べや!!」


「だから無理だと言ったガウ」


「お前だったらこの(檻の)間から出れるだろ!!」


「だから無理なんだって言ってるガウ」


「オラァ!!」


「ガウッ!?」


 そしてサンはおもむろにガウを掴むと、檻の格子の間にオイラを突っ込もうとし始めたガウ!


「うごごごご……」


「あぁあああああ!!!! なんでぇえええええええ!!」


「この……この檻は檻の形をしているだけで、実際には空間の境界に過ぎない……ガウ……」


 そんな事を言っても、この娘に伝わるはずが無い。


「じゃあっ!! 魔法でぶっ壊してっ!!」


「それだけは止めるガウッ!!」


「えいっ!! ……あれ?」


 サンが拳を前に突き出すガウ。


「えいっ! えいえいえいっ!! えいぃいいい!!」


 サンは武装をしたい様だが、申しわけないがそれはロックさせてもらったガウ。


 どういうわけか、サンはこの異空間に実体として存在しているようだ。


 ただ、あまりこの狭い空間で魔法を使ってほしくないのと、下手な事をして何か良くない事が起きないとも限らないガウ。


「あぁああああああああ!!!! うぁああああああああああ!!!!」


 やかましぃいいいいいい!!!!


 ほっとけば疲れて黙るとはいえ、毎度毎度こんなことをされたんじゃハゲそうガウ!


 全く、オイラたちの設計者も、何で使い魔に自我を持たすようなことをしたガウ。


 感情が無ければ、こんなに嫌な気分になる事も無かったのにガウ!


――――――――――


――――――――――


 心地が良かった。


 ふわふわとぬるま湯の中を漂うような感覚。


 全ての悩みから解放されたような、すがすがしい気分だった。


 そもそも、悩みとは何だろう。


 自分は何に対して悩んでいたんだろう。


 そもそも、自分とは何なのだろう。


 まあ、もうどうでもいいか。


 このまま、波に溶けて消えてしまおうか。


「……イ」


 ?


 遠くで何か、声のような物が聞こえる。


「…………スイ」


 ……スイ?


 それは何だったか。


 知っているのだけど、知らない言葉。


「…………スイ」


 まあ、それもどうでもいい。


 思い出す必要はない。


「……スイ!」


 ああ、でもちょっとうるさいな。


 人がせっかく、心地よく寝ているのに。


「…………スイ!」


 でも大丈夫。


 これもすぐに、聞こえなくなるだろう。


「魔法少女・スイ!!」


――――――――――


――――――――――


 しばらく、使い魔に付いて異空間を歩き続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。


 おそらく、まだ十分も経っていないと思う。


 そもそもこの異空間がどの程度、空間の法則を反映しているのか分からない。


 だが今の所、いや予想通りと言うべきか、私の現実の学校とは、作りがまるで違っていた。


 教室であるはずのドアも屋上への階段も、全てが学校のどこかの廊下に繋がっていた。


 それに法則性があるとは思えず、私はただ無言で進んで行く使い魔の後を追い続けていた。


「なあテルみん?」


「……何にゃ?」


 反応がもらえるか分からなかったが、私が声をかけるとテルミンから返事が返って来た。


「黄色とスイクンがどうなってるか分からないのか?」


「残念ながら、分からないにゃ」


 それを聞いて、安心した。


 分からないと言う事は、気にしたところでどうしようもないと言う事と同義だ。


 自分でもあまり性格がいい考えだとは思わないが、「急いで二人を助けるにゃ!」とかいって急かされるよりは精神衛生上良いと思う。


「まあ、キミの言う黄色の方は、たぶん大丈夫だと思うにゃ」


「? なぜそう思う?」


「あれはキミと同様に色々と規格外だにゃ。あれだけ魂が強固なら、ちょっとやそっとじゃ揺るがないにゃ」


 あれが規格外に頭がおかしいのは理解している。


 しかしその言い方だと、もう一人の方に問題がある様に感じた。


「でもスイの方はだけどにゃ。正直、この空間で魂の形を保ててるかどうか分からないにゃ」


 そういえばさっき、ここでは魂がむき出しになっていると言っていたような気がする。


「外の満月が見えるにゃ?」


 そんな事を言われるが、あのでっかい満月が見えないわけがない。


「おそらくあれは、キミの魂の形を具現化したものだにゃ」


「……どうしてそう言える?」


「普通の人間なら、あんなでっかい月が真っ暗な空間に浮いていたら、恐怖を感じるはずにゃ」


 たしかに夜に一人で空を見上げて、あんな物が空にあったら恐ろしいだろう。


 実際、私は少し天体恐怖症の気があるので、あれを見て謎の安心感のような物を感じているのは不自然な感情な気がする。


「あれはキミの魂が、しっかりと君自身を照らしてくれている事の表れだと思うにゃ」


「お前、今日は妙に詩人じゃないか」


「まあ、知らんけどにゃ」


「……何なん、お前?」


 お前は私の友達かよと突っ込みたくなる。


 コイツと喋ってると、ここが異空間だと言う事を忘れそうだ。


「で、それとスイクンが何の関係があるんだ?」


「スイも、決して魂が弱い訳じゃないと思うんだけど、やっぱりキミとサンに比べると、かなり劣るのは間違い無いにゃ」


「魂の形が保てないって言うのは、私みたいに自我がはっきりした状態じゃなくて、謎の空間を夢でも見ながらふわふわと漂ってる感じって事か?」


「おおむねその解釈が妥当だにゃ。やっぱり、頭がすっきりしてると思考が冴えてるにゃ」


 その言い方だと、まるで普段の私が冴えていないみたいじゃないか。


 それに、いろんな作品でこういった題材は取り扱われているので、それに触れている現代人なら、そう連想するのが普通じゃないのか?


「猫猫はここから出れたら、一度しっかりと休んだ方がいいと思うにゃ」


 ゆっくり休ませてくれない元凶が、何か言っている。


「で、ここから出れる見込みはあるのか?」


「それは最初に言った通り、なんとも言えないにゃ」


「じゃあ、今やってるのは何だ? こうやって適当な部屋に入り続けるのは、何の意味がある?」


 この間もずっと、適当な教室を開いては廊下に出てを繰り返している分けだが、この行動に何の意味があるのか全く分からない。


「猫猫は、今こうやってる事にどう感じているにゃ?」


 ……どう感じている?


「もっと、具体的に聞いてくれないか?」


「何でもいいにゃ」


 何でもいいと言われるほど、困った事は無いと言う事を、この使い魔は知らないのだろうか?


「……じゃあ、何でそこのドアに入らなかったんだ?」


 私は今し方通り過ぎた、恐らく本来なら理科室に続くと思われる教室を指して言う。


「猫猫は、そこに入りたいと思ったにゃ?」


「……うーん」


 そういえば、さっきから何でここに入らないんだろうと思う事が度々ある気がする。


 考えてみると、なんとなく、そこに入った方がいい気がしているような、そうでないような……なんかやっぱりよく分からない。


「最初は、そっちに入った方がいいのかなと思って、ボクもそうしてたんにゃけどにゃ?」


 その発言をそのまま汲み取るなら、私と感覚を共有するテルみんが、私のその、ふわっとした感覚に従ってドアを開けていたと言う事だろうか。


「何か途中で、それじゃダメな気がしたにゃ」


「お前も何か、ふわっとしてんなぁ……」


「だから、今度は逆に、一番どうでも良さそうな所を進んでみたにゃ」


「どうせ、何かそっちの方が良さそうな気がしたとかいうんだろ?」


「やっぱり、今日は冴えてるにゃ」


 そんなんで褒められても嬉しくない。


「だけどそれって、そっちの方が良さそうな気がした方が本当は悪いかもしれないって事にならんか?」


「YO!YO! いいねぇ~! その考えとってもいいにゃYO!」


 ……うぜ~。


「って事で、感覚のすり合わせが出来たから、ちょっと急ぐにゃ?」


「……へ?」


 反応する間もなく、そう言った使い魔が家庭科室の扉を開けて、猛スピードでそこを突き進んで行った。

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