堪情の月①
懸念していたような問題は起きず、私達は黄色が落ち着くのを待ってから元の集合場所まで戻って来ていた。
「じゃあ、時間も押してるし、早速、新人戦のお勉強を始めようかしら~」
「サンのせいだガウ。反省するガウ」
「黙れっ!」
全く、せっかく落ち着いたと思ったら、またこれだ。
黄色も黄色なのだが、あの使い魔自身も一言多い事は問題だろう。
まあそれは置いて置いて、まずは新人戦のおさらいである。
・魔法少女新人戦には「団体戦」と「個人戦」がある。
・団体戦は四人以下、三人以上でパーティーを組んで参加する。
・条件付きで、新人以外の魔法少女も参加できる。
・個人戦は、原則二年目か三年目の魔法少女に出場資格があるが、例外もある。
・大会形式の戦闘は、スキルなどの仕様が実戦と異なる場合がある。
「こんなものだけど、ここまでで何か質問はあるかしら?」
「ええと、これって結局。今いるパーティー全員で組むことが前提って意味ですよね?」
「そうね。おそらくだけど、そもそも運営側がパーティーを決める際、ほぼ全員で新人戦に出場できるように組んであるんだと思うわ」
となると、この前の赤色のパーティーも……あれ?
「ちょっと待ってくれ、計算が合わない」
「猫猫殿?」
急にそんな事を言い題した私に、スイクンが疑問の目を向けて来る。
「だって、この前の赤色……アカイロさんのパーティーのアカイロさんが、一昨年新人戦に出たって言ってて、去年は先輩に押し切られて出たって言ってたから、明らかに合計で五年を超えてるんだよ!」
自分で言いながら訳が分からなくなりそうな説明だったが、ようするにアカイロ最低二年、もう一人の名前忘れた人二年、その先輩が最低三年でこの時点で七年と言う事になってしまう。
先輩魔法少女の出場資格が二人までの上、合計で五年のはずなので、計算が合わないのだ。
「よく覚えてたでゴザルね?」
「ワタシの知ってるアカイロちゃんのパーティーの事なら、去年時点では全員五年以内のはずだよ~?」
「えっ? そんなはずは……」
「確か、アカイロちゃんとリーダーの”ぽっぴん”ちゃんが二年目で、後の二人が新人だったはず。これなら合計四年で、おかしくないんじゃないかな?」
ブッチャーさんがそう言って、やさしい口調で私に伝えて来る。
……ああそうか。
私が勝手にリーダーをアカイロ先輩よりも先輩だと思っていたのと、もう一人の……そうだ、ガンコさんだ!
アカイロ先輩とガンコさんが同い年のせいで、二人が同期であると言う勘違いをしていたのだ。
「そもそも、最初に今は三週目と二周目だって自己紹介してたにゃ」
自分の使い魔に言われて、私は少しイラっとする。
「す、すみません……。早とちりでした」
「そんな事もあるさ。猫猫ちゃんは、すごく頭が回るのね~」
そのフォローが、妙に心に刺さる。
「猫猫殿っ! 拙者はそんな話覚えてもいなかったでゴザルよ!」
やめろ……別にそんな大したこと無い間違いで私がショックを受けている感じにするのは!
「ダッサ……」
思わず手が出そうになった。
「(失礼しました、では話の続きをお願いします)今すぐ殺してやろうかこのクソガキぃぃいい!!」
「キャァアアアア!!」
「また始まったガウ……」
「てめーもだぞこのポン〇ライオンがぁああ!!」
「はぁあ!? 何だコイツ、急にこっちにもキレ始めたガウっ!!」
「猫猫殿ぉ……」
「あははっ! こりゃあ今までに無いタイプのパーティーね~」
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――――――――――
「本当にスミマセンでした……」
「仲が良くて結構よ~」
ブッチャーさんはニコニコ笑っているが、それは彼女が優しいからであり、内心はどんどん時間が押されてイラついている事だろう。
少なくとも私が彼女の立場だったらそうだ。
「反省しろやクソババア!!」
「オレサマは最初からこんな女だと気づいてたガウ!!」
ああもうこいつ等、結局は似た者同士なんだな。
「猫猫は初対面の使い魔に殺虫剤を吹きかけるような人間にゃ。怒らせないように注意するにゃ」
「お前らは私を怒らせて遊んでるのか?」
「あはははははっ! 何この子たちっ! ホント面白いんだけどっ! あはははははっ!!」
うーん。
笑い事じゃないんだけどなー。
「ゴメンゴメンっ! 面白い子たちだとは聞いてたけど、まさかここまでとはおもわなかったのよぉ~」
「面白いって、一体どこのどいつが……」
……あれ?
「一応、普通の魔法少女が何で猫猫たちの事を知ってるにゃ?」
「あ、やっば……」
「失言だウッキー」
今までの経験から私は一瞬身構えたが、彼女達から敵意のような物は感じられない。
「ミッキーさんはかなり古参の使い魔ホエー。敵では無いと思うホエー」
「だとしても、初対面の魔法少女の情報を持っているのはおかしいにゃ」
「前々から思ってたんだけど、何でそこまで魔法少女の情報の共有がタブー視されてるんだ? 一応、新人戦みたいな大会以外では敵同士じゃないんだし、もう少し連携が出来てた方が仕事上、いいと思うんだが……」
「それ、前にちょっと説明しなかったにゃ?」
「おい、また私が忘れてるって事で攻めてくる気じゃないだろうな?」
「”闇落ち”の話は、猫猫ちゃんにはしてないの?」
……闇落ち?
なんだその物騒な単語は。
「良くないにゃ」
「……そう」
…………。
「じゃあ、新人戦の話の続きだけど――」
「ストーップ! そこ流せるわけないやろがいっ!!」
「失言だウッキー……」
この魔法少女、思ったよりきな臭いぞ……。
「察するに、恐らく、魔法少女が敵になることがあるって事だよな?」
「あー……。その解釈だと少し、語弊があるかもね~」
そう言いながら頬を書くブッチャーさんの目が、右上を向く。
人は嘘を吐くとき、右脳がある右上を向くと言う。
「まあ端的に言うと、魔法少女も一筋縄じゃないって事にゃ」
「何だよ、他にも魔法少女の運営をしてる組織があるって言いたいのか?」
そんな訳があるはず……。
「そう言う事にゃ」
あった。
「おい、まさか魔法少女同士で殺し合いしてるとか言うんじゃないだろうな?」
「無い無い無い! 魔法少女同士では殺し合い何て無いわ~」
「”では”って何ですかで”は”って! じゃあ魔女っ娘とか言い方を変えればいいんですか!?」
「ぷっ……魔女っ娘って昭和かよ」
例の如く黄色が余計なチャチャを入れて来るが、お前はお前でよく知ってたな!
「ちなみに、魔法少女は十年くらい前まで魔女っ娘って呼んでたホエー」
「嘘つけ、もっと前からあったはずだぞ!」
「いや、それは制度の話で、アニメとか語源の話じゃないにゃ」
「はぁ? じゃあもっと前は何て呼ばれてたんだよ! 巫女か!?」
「本当に猫猫はどうでもいいところに噛みつくにゃ……」
「実際、巫女だけどホエー」
いや本当に巫女なんかいっ!
「巫女時代は長かったらしいウッキー」
「今みたいに直接霊と戦うスタイルになったのは、近年の事だけどホエー」
へー。
…………。
「いやいやいやっ! そんな事はどうでもいいんだよっ!」
「自分で聞いておいてそれは無いんじゃないかガウ?」
「猫猫ちゃん。申し訳ないんだけど、先に新人戦の話を聞いてくれないかしら~?」
「ここで聞き分けられないなら、サンの事を言えないホエー?」
「……わかりました。取り乱してすみません」
あまりに腹が立って涙が出そうだったが、寸前の所で持ちこたえた。
「……え、今サニーの事なんか言った?」
「さてまず、みんなの四人目の仲間の事だけど~」
そうポンと手を叩いて、改まった感じでブッチャーさんが切り出す。
ここでお前が何でそんなこと知っとんねん、とかいうツッコミをしてしまうと、また大ひんしゅくを買いそうなので、ここはグッと堪える。
「残念ながら、来ないと思って欲しいの~」
「四人目決まったゆうとったやんけ~!」
しかし、それにはどうしても我慢できずに突っ込んでしまう。
まあここまで来て誰も来なかった事で薄々そんな気がしていたが……。
「てっきりブッディーが新メンバー何だと思ってたホエー」
「いやいやいやっ! そんな分け……」
いや、何故だかその可能性がすっぽり頭から抜けていただけで、普通に考えれば無い訳では無かったのか?
「よく見たら、連絡には”パーティーが確定した”としか書いて無いにゃ」
「ホエー……」
上述トリックかよっ!!
「ごめんなさいね~。とりあえず、この三人で新人戦に臨んでもらう事になるわ~。あ、でも。お仕事には暫く、先輩魔法使いがついてくれるから、そこは心配しなくていいわ」
いやもうそれすらも三人で良くね?
……とは思うが、何故かその規則だけは頑なに守ろうとする謎の意思を感じる。
「でも、新人だけで三人と言うのは少し不公平でゴザらんか?」
「そうだホエー! 四人じゃないのはおかしいホエー!」
ここで、珍しく不満を口にするスイクン。
と、まるで自分が間違えたのはその先入観からだと言いたげな使い魔。
「気持ちは分かるけど、ワタシ達にはどうしようも出来ないのよぉ~」
「魔法少女の情報がシークレットなのは、大会での公平性を保つためでもあるにゃ。公平でないと言うのなら、そこはボクらも運営に抗議させてもらうにゃ」
取ってつけたような魔法少女の情報の下りも、私に対してそれを誤魔化そうと思っているようにしか感じない。
「まあそこは使い魔たちに頑張って貰うとして、次は簡単な対人戦の戦い方を――」
――!!
「何、今の?」
それを口にしたのは黄色だったが、どうやらブッチャーさんも気づいているようだった。
「ど、どうしたでゴザルか?」
どうやら、何も感じていないのはスイクンだけのようだ。
「……みんな、そこから動かないで」
かなり真剣な様子で、ブッチャーさんが言う。
全員が首と目だけを動かして、キョロキョロと周囲の様子を伺う。
私は、いつでも結界を展開できるように、心の準備をしておく。
「おかしいと思ったガウ、この場所だけでは無く、周囲数キロに幽霊の反応が全く存在しないガウ」
「? それはさっきの結界のスキャンの時に見たのかしら?」
「何で早く言わないホエー」
そのスイクンの使い魔の問いかけに、黄色の使い魔は答えない。
「大チョンボだにゃ」
「つまり、どういう事なんだ?」
いろんな可能性を考えた結果、結局聞くのが早いと言う事で、私はそれを口にした。
「ほぼ間違いなく、人為的な物だにゃ」
結局、私達はこうなる運命なのか……。




