オトコと峠道②
この可能性が全く想像できなかったわけでは無いだろう。
しかし、思いつかなかったことが少し悔しかった。
「……一応、伺ってもいいですか?」
「ん? なんだい紫のお姉ちゃん?」
紫のお姉ちゃん……。
「あの、その……性別を教えてもらえますか?」
「お、言ったにゃ」
「勇気……いや、男気あるガウ」
そこを言い直す必要はあったかと問いたい。
「もちろん、女の子よぉ~」
え?
「え?」
「んもう冗談よ~。男よ男。生物学上は男よ~」
ああ良かった……。
……いや良かったか?
「でもぉワタシ。こう見えて心は女の子なの~」
まあ、やっぱりそういうことなんだろうな。
「だからぁ。みんなもワタシを年上のお姉さんとして扱ってくれたら嬉しいなぁ~?」
「もちろんでゴザル!」
「えあ、……承知しました」
まあこのご時世、色々あるよなぁ……。
と、それは良いのだが、ここで一つ懸念事項がある。
「…………」
それは、先ほどから私の後ろに隠れて様子を伺っている黄色である。
「おぉっとぉ~自己紹介が遅れたわね。ワタシは魔法少女”ブラッディー・メアー”。地獄の底からやって来た、冥界のお姫様よ♥」
地獄……ねぇ……。
「……カッコイイでゴザル」
……え。
「……カッコイイ」
えぇ……。
「良かったら”ブッティー”て呼んでちょうだい?」
「了解でゴザル! ブッティー殿!」
そして、地獄のお姉さんが私の方を向く。
にっこりと笑って……。
「あ、承知しました。……ブッティーさん」
なんとも、絶妙に発音しにくい名前である。
「あ、こちらこそ紹介が遅れたでゴザル。拙者は魔法少女”スイ”でゴザル。ポジションはシューターでゴザル」
「私は”猫猫”です。サポーターです」
あっさりとした自己紹介ではあるが、テンションを上げる気分では無い。
しかし彼女(?)は満足そうに笑うと、その目が、私の後方に向けられる。
「そちらの可愛いお嬢さんは何てお名前なのかしら~?」
声を掛けられ、私の後ろで硬直している黄色が容易に想像できる。
「そちらは、我々のパーティーの防御役である”サン”殿でゴザル! ただ、彼女は少しシャイなので、慣れるまでそっとして置いてほしいでゴザル」
そんな黄色の代わりに、スイクンがブッティーさんに彼女を紹介する。
どうやら、今日は私の代わりにスイクンがリーダーを買って出てくれているようだが、なんとも言えない不安感があるのは気のせいだろうか。
「サンちゃんって言うのね。そのイヤリング素敵ね? サンちゃんはオシャレさんなのねぇ~」
なんだか、ブッティーさんからは今までに無かった年上の余裕のような物を感じる。
今までに関わった先輩魔法少女達は、明らかに少女では無い人もいたが、ほとんどが年齢に比べて子どもっぽい印象だった。
「ええと、それで。今日の仕事と言うのは……」
そう言ってから、少し反省する。
どうも最近、私はコミュ障なのではないかと思う事が多い。
せっかくブッティーさんがアイスブレイクをしてくれているのに、私は本題を急かしてしまっている。
これでは、他の魔法少女に子どもっぽいとか言える立場では無いだろう。
「ええとね。今日はみんなと”魔法少女新人戦”の事をお勉強しようと思うの」
だが、いきなり思ったのと違う回答が返って来た。
「あれ、今日は調査任務と伺ったのでゴザルが……」
「それは大人の事情でね~。新人戦のお勉強は魔法少女のお仕事にはならないから、どうしても他のお仕事を済ませてからやらないといけないのよ~」
ようするに、仕事をとっとと終わらせて、その余った時間で新人戦について説明してくれると言う事らしい。
「私達は有難いんですが、それで大丈夫なんですか?」
「全然、大丈夫よ? むしろ、諸事情で大会の説明があまり出来てないパーティーには、毎年こうやって私達先輩魔法少女が教えてあげることになってるの」
私はチラリとテルみんを見る。
「助かるにゃ~」
白々しくそんな事を言うテルみん。
まあ、どこかで新人戦の事は聞かなければと思っていたので、良い機会である事には間違いない。
「という訳で、とっととお仕事の方、終わらせちゃいましょ~!」
おー!
という感じで、空に拳を突き上げるブッティーさん。
それにスイクンが続き、一応私もそれっぽいジェスチャーだけしておく。
黄色はお察しだ。
「じゃあみんな、お姉さんについて来て~」
そうやって颯爽と飛んで行くブッチャー……ブッティーさん。
それに、言われるままついて行く私達。
今までは最初から嫌な予感がしていたが、今回はなぜか謎の安心感があった。
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――――――――――
ブッチャーさんが何もない鬱蒼とした森の中に突っ込んで行って少し躊躇したが、私達の周りに展開されているシールドが自動で枝葉をかき分けて、魔法少女のシステムの便利さを目の当たりにする。
ただ、周囲はおそらく蜘蛛の巣まみれであることは想像に難くなく、これが暗い夜であったことに逆に感謝した。
「さあ、ついたわよ~」
そう言ってブッチャーさんが止まった場所に、私達も彼女に続く。
「……ここでゴザルか?」
怪訝そうにそう言うスイクン。
「これ、これがそうなのよ~」
そう言いながらバシバシと遠慮なくブッチャーさんに叩かれる木の幹。
それは何の変哲もない杉の木にしか見えない。
「木でゴザル」
「……地蔵じゃねぇのかよ」
私の後ろで、文句だけは達者な黄色のぼやきが放たれた。
「その木をどうすればいいんですか?」
「簡単よ? こうやって木に触れて、後は使い魔にお任せ☆」
バチコーンとウィンクをされて、思わず引きつった笑みを溢してしまう。
だが、使い魔に任せて済むのなら、何て簡単なミッションなんだろうかと思った。
「ミッキーさん! カモ~ン☆」
ブッチャーさんが、自身の使い魔の名前らしき物を呼ぶ。
少し遅れて、冷や汗がどっと出た。
「ウッキー! ウホホイだっキー!」
そして、猿をモチーフとした使い魔らしきものが飛び出して来て、ホッと無でをなでおろす。
だが、ミッキーの要素が何なのか全く予想がつかない。
「頼んだわー、ミッキーさ~ん」
「アチャァアアア!!」
!?
何か雄たけびを上げたミッキーさんが、その木の幹に対して手刀を差し込んだ。
「モンキィーマァジッック!!!!」
!!!!
ミッキーさんがそう叫ぶと、木全体が青白く光り始める。
「モンキィーマァジッック!! モンキィーマァジッック!!」
やっぱアカンはこれ……。
「……おかしいわね」
うん。
「どうしたでゴザルかブッティー殿?」
「周囲に霊が全然いないのよ」
「? それは良い事なのではゴザらんか?」
そうだ。
それは私も最初に感じた違和感。
「有名な心霊スポットに、浮遊霊すら全くいないなんて、ちょ~っと普通じゃないわ~」
どうやら私の感じた違和感は、正しかったようだ。
使い魔は大丈夫とか言っていた気がするが、本当に信用ならない奴らだ。
「結界には異常なしだウッキィィィ!!」
「オーケー。じゃあ早めにここから離脱して、新人戦のお勉強をしましょうね~」
「これだけで大丈夫なんでゴザルか?」
本当にとっとと終わってしまって、少し物足りなさそうなスイクン。
「本当はみんなにもやってほしかったんだけどぉ……。ちょっと嫌な感じがするから」
「君子、危うきに近寄らずだウッキィイイイ!!」
めちゃくちゃ喧しいなこの使い魔。
「じゃあみんな、ワタシに着いて来て~」
そう言うブッチャーさんに、私は再び付き従う。
「……サンちゃん? 行くわよ~!」
しかし、ここに来て黄色の問題児が発動してしまう。
「……サニー。これやりたい」
そんな事を呟きながら、先ほどウッキーが手刀を披露していた気に触れる黄色。
「サン。今日の所は止めとくガウ」
「…………」
「サンちゃん? それはまた今度出来るから、先にお姉さんと――」
「サニーこれやりたいぃいいいいいい!!!!」
ああ、こうなってしまった黄色は、力技以外では制御不能だ。
「あらあら、じゃあお姉さんと一緒に、一回やってみましょうか?」
それを理解しているのか、ブッチャーさんは彼女を嗜めるようなことをせず、好きにやらせる事を選んだようだ。
「あなた達は、そこで待っていてくれるかしら?」
そして、意図してかどうかは分からないが、暗に私達をそこに近付けたくないという雰囲気を感じた。
「サンちゃん。そのまま木に触れて置いてちょうだい」
「サン。もっと力を抜くガウ」
そんな事を言って、聞く黄色じゃない事はこの使い魔が一番分かっていそうな気がするのだが。
「あちょー!!」
案の定、全く聞いている様子は無い。
「じゃあ気がすんだだろうガウ。じゃあやるからそのままにしとくガウよ?」
そして、いつも以上に投げやりな黄色の使い魔。
「ガウゥウウウウウウ!!」
そう吠えて、黄色の使い魔が木の幹に向けて拳を放つ。
「ガルルルッ!! ガルルルッ!!」
ウッキーと同様に拳で木と対話を始めた使い魔。
どうやらそれは必要な行動だったらしいが、そもそもコイツってヒマワリモチーフだったよな?
何だその鳴き声は……。
「ちょっと出力がデカいわぁ……」
不安そうにそれを見守るブッチャーさんが、不穏な事を呟く。
「よし、このぐらいでかんべんしてやるガウ!」
「はぁああああ!? ヒマワリもアチョーするぅうううう!!」
「好きなだけやるガウ。…………!?!?」
「あ! ちょっと待つにゃ――」
「あちょぉおーーーー!!」
ドゴーン!!
やりやがったぞこのメスガキ……。
「あちょぉおーーーー!!」
「グェエエエッ」
なのを思ったか、武装して杉の木を殴り始めた黄色。
その間に咄嗟に割って入ったテルミンが、押しつぶされてカエルのような声を出す。
「何やってるガウゥウウウウウ!!??」
「好きなだけっていったじゃんかぁあああああ!!!!」
この女、絶対にやってはいけないと分かってやっている。
非常に悪質だ。
「なかなか、やんちゃな子ねぇ~」
「笑い事じゃないウッキー……」
まあ、保護者が落ち着いていると言う事は、多分大丈夫なのだろう。
……だよな?




