オトコと峠道①
一体どういう事だろうか。
「こ、ここでゴザルか?」
まず、あんなことがあってスイクンが普通に出勤してきた。
「K峠。県内で一番ゆーめいだと言っても過言(読み間違い)ではない有名な心霊スポット」
そう言っているのは、心霊オタク疑惑のある黄色。
そして、私は知らなかったのだ。
「K峠って……」
そう言って、スイクンが私の方を見る。
黄色もニヤつきながらこっちを見る。
「たまたまだよ……流石に」
「オマエ、その名前でこの場所の事を知らなかったのが驚きガウ」
霊的な物から逃げて来た弊害が、こんな所に出てしまった。
「……プッ」
そう言って、私を見ながら笑う黄色。
「何か言いたいことがあるなら言えよ」
「べっつにー??」
本当に腹の立つガキだ。
「で、なんで普段から徹底的に駆除してるここに、私達がいるんだ?」
有名な心霊スポットという物は本来、優先的にベテランの”お掃除”が入るため、半端な場所よりも寧ろ安全であるらしい。
「駆除なんて、元は生きてたものにそんな言い方をするもんじゃないホエー」
こんなふざけた格好で仕事をさせて置いて、今更である。
「しかし、今日はこの三人で任務にあたるでゴザルか?」
ほんの数時間前のの醜態を感じさせないスイクンは見事なものだが、まさか本当に気にしていないと言う事は無いだろう。
その一方、黄色の方は何を考えているのか分からないが、上空から峠をぼーっと見下ろしていた。
「いいえ。もちろんもう一人居るホエー」
どうやら何時ものようにもう一人、助っ人がいるらしい。
「そういえば遅いにゃ」
「とっくに時間を過ぎてるのに、一体何をやってるガウ?」
そう言って憤る使い魔たちだが、私には一つ気になることがある。
「なあ、ここが本当に今日の仕事場なのか?」
よく考えてみれば、今までは別の集合場所が用意されていて、全員がそろってから現場へと向かっていた。
今回ももしかしたらそうなのでは無いかと思い、尋ねてみたわけだ。
「そうにゃ」
残念ながら、ここが仕事場で間違いないらしい。
「さっきも聞いたけど、今回ここで何をするんだ?」
私はフィルターを外して感覚を研ぎ澄ますが、やはりこの場からは大した例の気配は感じられない。
むしろ、この場所よりも、その周囲に気になる反応がある気がする。
「今回は、調査任務のチュートリアルって事になってるにゃ」
「調査任務?」
まるで今までのは調査では無かったような言い方だ。
そして聞き返した私に対し、誰からも返事が返ってこない。
もう一度聞き返しても良かったが、どうせすぐに分かる事だろう。
「調査任務って、どういう事でゴザルか」
そう思ったのだが、スイクンの方がそれを尋ね返した。
「そのまんまホエー。幽霊の集合状況や、結界がちゃんと機能しているか確かめるホエー」
「結界? そんなことまで魔法少女がやるのか?」
そもそも、結界結界とは言葉では聞いていたが、それは魔法少女が展開する物であり、実際に設置されている結界がどのようになっているのか全く見当がつかなかった。
そんな物があるのだったら、最初から結界で心霊スポットの周囲を覆ってしまえばいいのではないだろうか。
「今、心霊スポットを結界で覆ってしまえばいいと思ったにゃ?」
「そうしないって事は、理由があるんだろう?」
「そんなことしたら、閉じ込めた瘴気が濃縮されて大変な事になるガウ」
まあ、何となく言わんとしている事は察しがつくのだが、どうやら瘴気というものは濃縮される物らしい。
しかし、掃除した結界の中に瘴気とか言う物がが発生する理屈が分からない。
思えば、心霊スポットが心霊スポットたる所以を聞いていなかった気がする。
なぜ、幽霊がそこに集まるのか。
はっきりした理由を知りたかった。
「猫猫は心理的瑕疵という言葉は知っているガウ?」
「? 心理的瑕疵ってあれだろう? 事故物件とかで使われる言葉で、なんか嫌な感じがするみたいな意味の……」
言葉で説明するのが難しいが、確か霊的なものに限らず人間が忌避する心理的何かに対して使われる言葉だったはずだ。
「一見オカルトではあるけど、実際にそれは存在するにゃ。多くの人が嫌だと思う場所には、良くない気が溜まるんだにゃ」
「それが瘴気だって?」
「瘴気って言葉は後付けで、人間が気分を害するあらゆる霊的魔法的要素に対して使われる言葉だにゃ」
「ひまわり、難しい事分からなーい!!」
今の所、私も分からない。
「実際、この辺は結構難しい話なんだにゃ」
この流れは結局、いつも通り何も分からずに終わる流れな気がする。
「もちろん、人間の負の印象や感情だけではなく、根本的に霊が集まりやすい場所と言うのが存在するホエー」
「いやそれって結局、卵が先か鶏が先かって話にならないか?」
「もう分かんないって言ってるじゃん!!」
「霊が集まるから嫌な感じがするのか、嫌な感じがするから霊が集まるのかって事でゴザルか?」
ちょっと違う気もするが、概ねそういうことだ。
やはり黄色と違って、スイクンは別に頭は悪くないように思う。
「近い表現の日本語があるガウ。霊道という幽霊の通り道的なのが――」
「ひまわりそれ知ってるー!!」
「最後まで聞くガウ。さっきの瘴気もそうなんだが、言葉が言葉通りの意味だとは思わない方がいいガウ」
「便宜上、元から存在する言葉を当ててるだけで、実際は言葉と意味がズレてることがあるって事?」
「賢いガウ。だが、ちょっと違うガウ。昔は今よりももっと――」
「あーもう! ひまわりわかんないつってんじゃん!!」
ああもう、本当に少しは静かに聞けないのかこのガキは……。
「そう言う言葉が存在すると言う事は、少なからず人間側もそう言う存在を察しているってことでもあるにゃー」
なるほど。
原理が分からなかった時代の言葉と、原理が分かっている現代で少し言葉の解釈にズレがあるということだろう。
「要約すると、霊の集まる要素は多分にあって一つに限定は出来ないガウ。そして、それを結界で封じたりすることは可能だが、適切に行わなければ事態を悪化させる事にもなりかねないガウ」
「前に話した通り、あまり大っぴらに”魔法”で結界を施す事自体にも問題があるにゃ」
「それに、強力な結界は人間の生活に悪影響を及ぼす可能性もあるガウ。霊の根幹は人間の魂なワケだから、それを持つ人間にも少なからず影響を及ぼすガウ」
魔法は存在しないと言う事になっていると言う話と、強すぎる魔法は周囲に影響を及ぼす的な話を、そう言えば聞いた気がする。
「強い悪霊を祠に封印するみたいなことは可能でゴザルが、広範囲をカバーするような結界を張るのは難しいという意味でゴザルか?」
「”何も通さない様な強力な結界を広範囲に張るのは現実的じゃない”、だにゃ。でも概ねその認識でいいと思うにゃ」
なるほどな…………ん?
「なあ、最初に言ってた濃縮された瘴気の話は何だったんだ? 閉じ込めたら濃縮されるって言う……」
「ああもう面倒くさいなガウ! そっちの方は実害の一例だから、話し始めたらもっと訳が分からなくなるガウ!!」
え、何だコイツ。
「自分で言っといて、それは――」
「ホエー! 来たみたいだホエー」
なんとも毎度、絶妙なタイミングで話の腰を折られる。
「やっと来たガウ。大遅刻ガウ」
ようやく、今日の先生役のお出ましのようだ。
さて、今日はどんなクセの強い魔法少女が来るのだろうか。
もはや、どんな人間が来ようとも驚かない自信がある。
何なら少し、楽しみですらある。
みんなが見守る先から、徐々に魔法少女のシルエットが露にな……。
!?
「おまたせ~! 待ったかしらん?」
「…………」
全員が全員、あまりの事態に硬直して、声が出せないでいる。
「……え?」
ようやく絞り出した声と共に、私はテルミンの方を見る。
「こ、これは……」
「……は?」
「ごめんねぇ~? びっくりしたでしょぉ~?」
「LGBTにゃ……」
「……男じゃん」
黄色がポツリと呟く。
そこに現れたのは、どう見ても筋骨隆々な、男の魔法少女だった。




