そして彼らは途方に暮れる
「うっわ……ひっでぇなぁ……」
「何があったの? ……これ?」
あれからほんの数分後……。
救援要請を受けてたどり着いた魔法少女管理課の男女は、その現場の光景を見て困惑していた。
「猫猫さんが頑張った証です」
ローレルの言葉に、二人はギョッとする。
その当人である猫猫は、固いタイルの床に横たえられ、そのタイルも殆どはひび割れて、所々激しく損傷していた。
二人にはこれが、魔法少女になりたての一人の少女がやった事には到底思えなかった。
しかし、それを認めざる負えない事実を、彼らは既に把握していた。
「おい使い魔。猫猫がオーバードライブしたみたいだが、それは事実か?」
男が声をかけたのは、サンの使い魔であるガウリンガル二号だった。
猫猫は既に魔法少女の姿ではなく、パーカーにスウェットと言う部屋着姿になっており、使い魔のテルミドール三世の姿も見えない。
これは、彼女が魔力を使い果たしてしまった事を意味しているのだろう。
「事実だガウ。今、オレとサンから見た観測ログを送るガウ」
「魔法少女のオーバードライブには上位権限が必要なはずよ? そんなわけ……まさか!?」
女性の職員が、半ば睨むようにローレルへと目を向ける。
そして、睨まれたローレルは微笑むと、
「私じゃないですよ? 決死機構を発動させたのは彼女の使い魔ですし、最終的に発動の判断をしたのは猫猫です。彼女が権限をパスしたのは、おそらく彼女が特別な魔法少女だからじゃないですか?」
と、まるで何か問題でも? と言いたげな様子で語った。
「そこまで分かってたんだったら、あなたなら止めれたんじゃないすか? これで猫猫ちゃんの身に何かあったら、どう責任を取るんです?」
「そうならないように監視してましたし、危険域に入る前に私が介入しました」
「わざわざそうなるまで見守る意味が私には理解できません……。まあ、あなたを理解するなんて、到底無理な話ではありますか……」
「いや、何で魔法少女が自分でオーバードライブ出来るようになんてんだよ?」
あくまで何事も無いと言いたげなローレルの口ぶりに、二人はこれ以上追及することを諦めた様子だった。
そして、彼らが次に目を向けたのは、この事態を引き落とすきっかけとなった人物、
「あれが、……魔人ですか?」
その場の全員の目が、猫猫から離れたところに雑に寝かされている、全裸の男だった。
「うへぇ……マジか。本物は初めて見る」
「これ、もう危険が無いって事でいいんですよね?」
「はい、完全に無力化していますので。でも、念のため触らないで下さいね?」
職員の二人は、恐る恐る男に近付き、それを興味深げに観察する。
「……今、ちっさって思ったろ?」
「は? ”狂化”すると肌が紫色になってるって本当なんだなって思っただけだけど?」
そんな二人を尻目に、ローレルは一人残された少女の元に、薄ら笑いを浮かべながら近づいて行く。
それに気づいたサンは、階段に座ったまま訝し気に彼女を上目遣いに見上げる。
「……何だよ? てか、あんた誰?」
「私はローレル。猫猫さんのお友達ですよ?」
胡散臭い物を見る目で彼女を観察する少女に、それに負けじとローレルも彼女の体をジロジロと舐めるように見る。
「…………キモっ」
「ウフフ……」
ローレルの不気味な笑い声に、サンの顔が引きつる。
「……おい……なっ……何だよ?」
彼女の問いには答えず、ローレルは屈みながら、ゆっくりとサンとの距離を詰めていく。
そして、その不気味な笑顔を称えながら近づいて来る少女に、サンは引きつった顔で大きく後ろに仰け反る。
「……く……来んなっ!」
ローレルはそれも無視して、右手で彼女の顎をクイッと持ち上げる。
そして、その笑顔を更に邪悪に歪めた。
「ふふっ……カワイイ……」
「ひぃいっ!?」
思わず目を閉じたサンに、彼女の顔が近づいて行く。
「おいオマエっ! サンに何をする気ガウっ!?」
ローレルは唇を尖らせると、サンの……。
「ちゅっ」
「……っ!?」
ほっぺたにキスをした。
「……何やってんすかあなた?」
その様子を遠巻きに眺めていた男性に突っ込まれると、ローレルはゆっくりと立ち上がり、今度は打って変わってさわやかな笑顔を彼に向ける。
「百合は大好物ですけど、それは流石に犯罪ですよね?」
「フフフ……だって、可愛い子にはキスしたくなっちゃうじゃない?」
流石の男性も、彼女のその言葉にどう答えるか迷っている様子だったが、背後から感じた視線に、言おうとした言葉をギリギリで飲み込んだ。
「もしかして、そうやって相手の能力を測ってるんですか?」
「あら、鋭いですね。正解です」
男性の後ろからやって来た女性に、ローレルが嬉しそうに微笑む。
「お……〇されるかと思った……」
「彼女が件のサンちゃんですか。情報通り、なかなか興味深い魔力をお持ちですねー」
「今更、何を言ってるんです? まさか彼女にも護衛を付けるつもりですか?」
ローレルの言葉に、鋭い目つきをした女性が嫌みとも取れる言葉を返す。
その女性の様子にもローレルは余裕の表情で、
「そんな敵視しないで下さいよー? 今はちょっと仲が悪いですが、元はと言えば同じ組織の一員だったわけじゃないですかー」
「ちょっと? それに、同じ組織って、一体何百年前の事を言ってるんですかね?」
「そんな、人をおばあちゃんみたいに。意地悪ですねー?」
彼女には何を言っても無駄だと思ったのか、ローレルから目を逸らした男性と女性は、それぞれ違う方向を向いて小さくため息をついた。
「で、魔人はどうするんですか?」
話を切り替えた女性が、後ろの魔人を顎で指しながら口にする。
「あれはウチで預かります。そもそも、それ以外に選択肢が無いでしょう?」
「ウチにも魔人対策部隊はありますよ。現に、それが今、ここに向かっています」
決めつけられたことに苛立ったのか、女性の口調は少し強い物だった。
「それが来るのはあと何時間後なんですか? 私が離れると魔人の崩壊が始まりますが、私も猫猫も、夜が明けるまでには家に戻らないといけないんですよー?」
嫌みとも取れるローレルの言葉に、女性は苦い顔をするが、逆に男性はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「魔人がいるって事は、あなたの所の管理不足なんじゃないですかぁ??」
ここぞとばかりにやり返す男性に、女性もはっとして、少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「はい、それについても調査をしなければならないと思っています」
「認めるんすか?」
「もちろん」
あっさり認めたローレルに、男性は少し物足りなさを感じたのか、消化不良気味に彼女から目を逸らした。
「では、そう言う事なので、私は魔人を送り届けてきます。それまで、猫猫さんをお願いしますね」
「そう言う事って、どういうことですか? 私達はまだ納得できていませんが?」
ローレルがそう言って魔族の方に歩いて行く。
それに、女性がすかさず食って掛かる。
「上司に報告が必要なら、私のせいにしてもいいですよ? それとも、あなた達が魔人の面倒をここで見ててくれるんですか?」
振り返らずに、そのまま、まっすぐ歩いて行くローレル。
「待って下さい。その言い方はずるいです」
「え? じゃあ私に、このままココで魔人を見てろって言うんですか? 猫猫の事をあなた達はこの後どうするつもりですか?? 私はもうそこまで考えて行動しようとしてるんですが、私の納得がいくように、すぐ説明してもらえます??」
急に振り返って、真顔でまくし立てるローレルの様子に、二人の男女はぎょっとして思わず顔を見合わせる。
その後、二人ともローレルの方向に向き直るが、そのまま何も言えず、呆然と彼女が魔族の元に歩いて行くのを見ていた。
「すぐに帰ってきますが、もし猫猫さんが目を覚ますようなことがあったら、すぐに眠らせて下さい」
そう言い残すと、二人が返事をする間もなく、見慣れない魔法少女の衣装を着た少女は、魔人を連れてフッと消えて行った。
しばらく、男女ともに無言で呆けていたが、男性の方が女性の方をチラリと見てゆっくり口を開く。
「……どう報告するんだよ? オレ、魔人対策課の連中何て会った事無いんだけど?」
「そんなの、私だって一緒よ……」
女性がそう返事を返すと、また二人して黙り込む。
「……全然意味分かんない」
置いてけぼりのサンがそう呟き、それからローレルが戻ってくるまでの間、誰も一言も発さなかった。
これにて五章が完結です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しの間、書きだめ期間に入りますので、しばしお待ちくださいませ。




