不足で面倒 3
千香良と母は店の裏口でパート2人と鉢合わせた。
手にはグリーンアップルがプリントされた麻袋を下げている。
「お疲れ様です」
千香良は挨拶だけして、すり抜ける。
乙葵の様子が気になって仕方がない。
「お疲れ様でした。それは、ひょっとして乙葵さんのお土産?」
しかし、母は立ち話し。
クロワッサンの土産が渡したいようだ。
「ええ、私達までお土産を頂いちゃって……蜂蜜とスナック菓子らしいです。オーストラリア大陸の形をしたベジマイトチーズ味だって、言っていたけど……謎で楽しみですよ」
「今日はお客さんの引きが早くて、ラストオーダー前には0で、調度、その頃に見えたから、片付けも手伝ってくれました……それ、じゃあ、帰りますね」
「やだ……私も急がなきゃ」
千香良は入り口付近で立ち止まると、話を聞いていた。
パートはどちらも主婦。
帰りはいつも急いでいる。
それでも少しは話したい。
大人の付き合いとは本当に厄介だ。
「そう、そう、これ、私からもお土産、そこに入るわよね」
すると、母が紙袋から小分け袋を取り出し、麻袋の入れようとする。
パートも口を開けて待っているのが可笑しい。
「やだ……ありがとうございます」
「この店のクロワッサン、有名ですよね、ありがとうございます」
「それじゃ、気をつけて帰ってよ」
母は暫くパートを見送ると、千香良の開けて待っているドアに小走りしてきた。
喜んで貰えて満足している。
母にとっては乙葵も他のパートも同じように大切らしい。
そして店に入るとソファに座る兄と乙葵。
どんよりと沈んで暗い。
しかも、乙葵は顔面蒼白。
溌剌とした姿が消えている。
龍太の名前が何故かマイナスに作用したようだ。
「お父さんは、厨房?」
母は先ず、父の居所を聞いてみる。
極力、いつも道理に振る舞うつもりのようだ。
「話を聞くと意見をしたくなるから俺は遠慮するって……」
父親らしい言い分だ。
責任の取れないことには口を挟まない。
「それで、千香良が帰って来たら、一緒に家に帰るって……千香良、どうした、その顔?」
兄が漸く千香良の変貌に気が付いたようだ。
フルメイクの顔に驚いている。
「綺麗……」
すると、乙葵が薄らと微笑んだ。
女性は否応無しに美には反応してしまう。
けれども、短時間で随分と憔悴している。
龍太に知れて何が悪いのだろう……
千香良は乙葵の思考が全く読めない、分からない。
「私、お父さんと家に戻るね」
千香良は無性に帰りたいと思った。
大人の話は現実的で、つまらないだけだ。
ロマンチックな話なんか絶対にしない。
そして千香良はもう一度、乙葵に視線を向けてみる。
少し幼く見えるのは錯覚だろうか……
怯えているのは無謀な16歳。
罪悪感は乙葵が嘘をついていたからだ。
「龍兄は怒っていないよ。ずっと ‘コッコ’ を忘れなかったって……現場でも有名な話だよ」
自然と言葉が口を衝く。
龍太を幸せにして欲しい。
千香良は号泣する乙葵を見届けてから厨房へ入って行った。




