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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
122/140

不足で面倒 2




最寄りに駅から車で5分。

『赤煉瓦』は気候次第で歩ける距離だが、夏場は到底無理だろう。

 

 それに、今日は自宅からのお出かけ。

 どちらにしても、駅に車が駐めてある。


 車は父と兼用で買った母の新車。

 三つ目が付いていて安全性が頗る(すこぶる)高い。

 両親も年齢的に不安要素が多々。

 思い切って買い替えたそうだ。


 そしてBGMは大御所女性シンガーソングライターのベストアルバム。

 母曰く、名曲揃いらしい……

 けれども、振られ女の濃密な恋慕の歌ばかり。

 千香良は聞いているだけで、胸焼けしそうだ。


「お兄ちゃんに龍兄が『三上整形外科』に行ったか、って聞かれたけど、私が龍兄から聞いたのは骨を見て貰うって、医者に行ったことだけなんだ……」


 千香良は運転席に母に逡巡を打明ける。


「骨?」


「親方に殴られたみたいで、顔が腫れていたの……目の周りは眼帯をしていて見えなかったけど、頬骨の所が赤紫で見るからに酷そう(ひどそう)だった」


「へぇ~」


「村岡さんでも手を挙げるのね……子供の件を打明けたのかしら……」


「だと思う。だって他の考えられないもん」


「それで、お兄ちゃんには?」


「【多分】、って送ったら【了解】って、それだけ……」


「お兄ちゃんは全く……千香良、ママのスマホはペアリングしてあるから、お兄ちゃんに電話して、ママが聞いてみるわ」

 

 母は最先端技術の活用に得意げだ。

 

 千香良は言われたとおりにアイコンをタップして電話を掛ける。

 同時にスピーカーもオンになる。


「母さん、よかった。俺と父さんじゃあ無理。乙葵(いつき)が……ほら……『三上整形外科』に行ったのが店の常連じゃないかって……」


 そしてスピーカーから兄の声。

 意外にも要領を得ない。


「そう、それで乙葵さんは怒っているの?」


 それでも母は、理解出来るらしい。

 母親常に偉大だ。


「否、笑っているから余計に困るんだ……何人かの名前を言っては聞いてくるんだ」


「龍太さんの名前は出していないわよね」


「勿論。乙葵が知らないんだ、乙葵のご両親が伏せているのに、言えないよ」


「ママでしょう……代わってよ……」


「もう、来るから……待てよ」


 向こうで、スマホを取り合っているようだ。

 小さいが乙葵の声が聞き取れた。


「分かった、今、店に着いたから……詳しいことは店で話を聞くわ」


 母が通話を止めて溜息をつく。

 後は車を駐めるだけ。

 バックモニターを見ながらハンドルを切り返す母には余裕がないようだ。


「龍太さんはやっぱり『三上整形外科』に行ったみたいね」


 それでも千香良に話し掛けてくる。


「だね……どうして内緒にしているのかな……乙葵さんは店の誰かだと思っているみたいだけど……」


「龍太さんって……ママ、どうして……その名前を知っているんですか!」


 するとスピーカーから乙葵の声が被された。

 どうやらスマホを兄から奪ったようだ

 けれども、明らかに動揺している。


 千香良と母は顔を見あわせて、絶句。

 冷や汗が吹き出る思いだ。


 通話は生きていようだ。

 やはり、母では最先端技術は使いこなせなかった……


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