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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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謙虚で現実的 5




 梓は丁寧にマスカラを塗ると、続いて頬骨にチークを叩く。

 そして、最後にリップを指して完成。

 満足げに頷いた。

 イメージしていた濃艶(のうえん)な仕上がりだ。


「はい、出来ました」


 梓が前髪のヘアクリップを外す。

 

 鏡の中には随分と大人びた千香良。

 手櫛で前髪を整えている顔が見る見るうちにニヤついていく。

 そして、首を右へ向けたり左へ向けたり……

 フルメイクされた顔に見入っていた。


「どう、終わったかしら」


 すると半個室の開口部から母の声が聞こえた。


「どうぞ、側で見て下さい」  


 梓が千香良の傍らから退く……

 と、同時に母の瞳が見開いた。


「やだ、千香ちゃん、やっぱり女の子だったんだね。良いじゃない」


 母ならではの誉め言葉なのだろう。

 否定と肯定がない交ぜだ。


 母を案内してきた美容部員は感服に開いた口を掌で隠している。

 

 千香良は気恥ずかしくて仕方がないが、反面では満更でもない。

 これほどまでに代わるとは本当に思っていなかった。


 そして感動のビターアフターが済むと、写真撮影。

 梓が千香良のスマホで撮ってくれた。


「これ、私のラインID、売り場でラインの交換は駄目だから……後で撮った写真を送って。お兄ちゃんに見せるから」


 買い求めた商品が入った真っ赤な手提げ袋を渡すのに紛れて、梓からメモを手渡された。

 千香良も梓とはお近づきに成りたかったので嬉しいばかりだ。

 

 それに、高城の評価も聞いてみたい気がする。


「こんなにも、綺麗にして頂いて、ありがとうございます」

 

 母がもう一度、梓に礼を言う。

 すると、母の隣で千香良は異変を感じる。


 通り過ぎる客達が振り返り千香良を二度見するのだ。

 遠くからも複数の視線を感じて、落ち着かない。


「綺麗にしすぎちゃったかな……」


 辺りの様子に気が付いた梓が、肩を竦めた。

 母も小首を傾げて笑っている。


「今度はお母様も是非、ご検討下さい。お待ちしております」

 

 そして梓が深々とお辞儀をする。

 千香良と母は見送られながら、エスカレーターを上がっていった。


「千香ちゃんを折角、綺麗にしてもらったから、お昼ご飯も贅沢しようか……」

 

「それなら12階だね」 


 千香良はポシェットからスマホを取り出して時刻を確認。

 AM11時半を過ぎている。


「もう、並んでいるかな……」


 すると、ラインのアイコンに円。

 午前中には珍しい。


「お兄ちゃん?」


 千香良はエスカレーターが上の階に到着すると柱の陰でラインを開いた。

 隣で母も心配そうだ。

 兄から千香良へのラインは緊急事態の可能性が濃い。


【お母さんに電話しても出ない 休憩時間に乙葵が来る 早く帰れる?】


 兄らしい。

 用件だけだ。


「お母さんどうする?」


「じゃあ、千香ちゃんの買い物をしてから、ベーカリーで軽くお茶して帰ろうか」


 母は少し考えてから答えた。

 緊急だったら質問系で言ってこない。

 それでも、連絡を貰った以上、帰るのが正解だろう。


「そうだね。人気の店は並ぶしね……」


【了解。PM3時までには帰る】


『赤煉瓦』も既に忙しい時間帯に入っている。

 千香良は返事だけを送った。


「でも、乙葵さん早く帰って来たんだね」


「初めから、オーストラリアからは、休みを少し残して帰って来るって言っていたから、予定道理だと思うけど。多分、お兄ちゃんの先輩の務めているホテルを予約しているんじゃないかしら……ほら、あそこは外国人に人気の観光地だから……」


「乙葵さんが面接の時に言ってた?」

 

「そう、皇室も泊まられたホテルらしいわ」


 千香良と母は降り立った階を話ながら歩いていく。

 目的は千香良のルームウェア。

 しかし、視線が付きまとう。


「誰?モデル……知っている?」


 擦れ違いざまにコソ、コソと呟かれたり……


「オーストラリアのお土産を持ってきてくれたのなら嬉しいな~蜂蜜かな?乙葵さん、住んでいたから、スーパーのお菓子だったりして……」


 千香良は聞こえないふりをして、母に話し掛ける。


「そういえば三上君も一緒かしら……」

 

 母が平然としているのは父のお陰だ。

 今もさることながら現役競輪選手の体格は規格外だったはず。

 視線を感じることは日常茶飯事だっただろう。


「多分、違うと思う。夏休中はオーストラリアだって言っていたから……」


「そう……医大生が遊べるのは1年の時だけって言うからね……」


 そして下着コーナーの手前、千香良の憧れのルームウェアの店舗。

 買う物はスマホで確認済み、決まっているので早い。

 大好きなスヌーピーの上下。

 これで、まだ仕事に励める。


 しかし販売員が千香良を凝視。


「失礼ですが、モデルさんですか?」


 隣で母が大笑いしている。


「この子は左官屋です。今、下でプロの方にメイクして貰ったから……」


 母は左官の千香良が誇らしいようだ。

 販売員も興味深げに再び千香良に見入っている。


「もう、いいから……お昼食べに行くよ」


 元が控えめな千香良は謙虚で現実的だ。

 早く化粧を落としたい。


 少しだけお腹を満たしたら、とっと、と帰ろうと思った……









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