謙虚で現実的 2
『プラスター工房ムラオカ』に戻った千香良は、撤収してきた材料の余りを土場に運んでいた。
三上からのラインは未だ見ていない。
「千香良、俺、骨を見てもらいに病院に行きたいから、後の片付け、いいか?」
龍太は馬や攪拌機といった重い工具を運終わっていた。
「いいけど……龍兄、病院、どうやって行くの?」
龍太は当然のようにバイクを指差す。
「腫れが酷くて人様には見せれないけど、眼帯を取れば目は見えているんだ」
千香良は納得するも唇を尖らせている。
心配で仕方がない。
「でも、ゆっくり走るんだよ……」
龍太は苦笑いを見せて頷くとバイクに向かった。
同時に千香良は作業ズボンの腿ポケットからスマホを取り出す。
やっと三上からのラインが見れる。
【そうか……心中複雑。でも、不確定なら聞かなかったことにしておく】
単純な思いなのか、考えた挙げ句の言葉なのか……
どちらにしても三上らしい。
そして、ワラビーとウォンバットに餌を与えている写真と、ワライカワセミの単体写真の添付。
どれも、自然の中で撮影されている。
撮影場所は記入されていないが野生公園にでも行ったのだろう。
三上のエンジョイぶりがよく分かった。
千香良は感情を押し殺してスマホを腿ポケットに戻す。
そして淡々と片付けを再開した。
恋人の楽しむ様子を喜べないなんて、気持ちが冷める前兆だろうか?
龍太と乙葵の事は、本当は三上に相談したかった……
(私のこと、ほったらかし……)
しかし、嫌いになったわけではないし、別れる理由も特に見つからない。
そもそも、千香良は深く物事を考えずに流されて行くタイプ。
自発的な行動が苦手だ。
左官の仕事に就いたのも成り行きに他ならない。
けれども今は、明確な意志も目標もある。
龍太との絆も、もっと強くなっていくだろう。
発端はともあれ、千香良は恋愛よりも仕事に魅力を感じる。
タイルを貼った後はゴム鏝で目地込み。
そして、はみ出した部分をそぎ取って、整えには目地鏝。
目地鏝にも種類があって、それだけで表情が変わる。
面白い作業だ。
そう……
千香良の今の境地は……
恋愛なんてどうでもいい。
それだけだ。
「あっ!」
三上への蟠りを塗りつぶしたら、急に龍太の話を思い出す。
(龍兄……骨を見て貰うって……整形外科じゃない?)
「やっぱり波乱だ……」
千香良は頭を抱えて呟いた。
潮時、節目、分岐点。
千香良をどこに辿り着くのだろう。




