複雑で難儀 5
汗臭い体を気にしながら、帰宅すると。
千香良は風呂場に直行。
入浴剤を湯船に落とすとライムの香りが清々しい。
そして、顔、髪、体と洗うと、湯船に浸かって1日を振り返る。
完全装備で臨んでも手の甲は薄らと焼けていた。
今日は昨日よりも更に、次から次へと目まぐるしかった。
そのせいか、龍太への思いも薄れた。
告白して玉砕したわけでもない。
ケロッとしたもので、今は龍太と乙葵のロマンチックな展開を期待しているぐらいだ。
だいたい、千香良には三上と言う恋人がいる。
ラインの返信が来ないのは不安だけれども、オーストラリアは開放的な国だ。
きっと、新しく知り合った人達と今を楽しんでいる。
千香良も、それは、それで良いと思う。
違うタイプを好きになると、以前どこかで聞いた……
龍太に欲情した後ろ暗さが千香良を寛大にさせている。
それと、考えてみれば三上は龍乙の父親が誰であろうと黙認するだろう。
友人関係も広く浅く。
他人に干渉しない。
多分、姉に対しても同じだ。
(そうだ!高城さんの車の中で聞いた歌だ……)
思い出した記憶が呼び水となり連鎖する。
(門前の小僧……)
千香良は今日の心残りを思い出す。
高城に聞きたいことが沢山あった。
けれども、どうしても上手く話を切り出せなくて、後悔していた。
高城は龍太と仕事に対するスタンスが違う。
『仕事は楽しくないとね……』
仕事の間に何度も聞いた。
高城は常時、千香良に冗談めいた話を振ってくる。
千香良も常に笑っていた気がする。
それなのに、いつもよりも仕事が捗った。
それに引き換え龍太はオンとオフのギャプが極端で、仕事中の無駄口を許さない。
千香良はどこか顔色を伺っている。
他人に気を遣わせるのは子供の証拠だ。
ほぼ1日、高城と一緒いたお陰で龍太が少し幼稚に思えた。
龍太に対する気持ちの変化にも影響があったに違いない。
千香良の乙女心は複雑で難儀だ。
そして、よくよく考えると、高城の話は現場での失敗談ばかりで、千香良は建物の出来るまでの工程を沢山覚えた。
ほぼ1日、高城と一緒いたお陰だろう。
龍太が幼稚に思えてきた。
(明日も、高城さんと来ないかな……)
千香良は高城と明日も会いたいと思った。




