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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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複雑で難儀 4



 

 午前中の作業を一段落させると、高城は慌ただしく出掛けていった。

 設主と打ち合わせがあるらしい。

 千香良は漠然と、大人は大変だと思う。

 優先事項が決められている。

 

 それに引き換え千香良は体の訴えに正直だ。

 唯々、涼みたい。

 高城を見送るとそそくさと現場事務所に向かった。

 

 けれども千香良は快適な現場事務所にいても冴えない。

 弁当も食べずにスマホを眺めていた。


 既読済みにも拘らず三上からの返信が来ていない。

 リアクションに困っていると考えるべきなのか……

 それとも、ラインは控える、と約束しているから?


 しかし千香良はどのみち待つだけ。

 返信が来ない相手に一方的にメッセージは送れない。


 考えるのを諦めて弁当に包みを広げた。

 

 千香良の夏の弁当は中学時代から丼風がお決まりだ。

 今日は牛肉の梅干し煮。

 甘辛の味付けに、梅干しの酸味が仄かに香る。

 牛蒡と人参、ネギにコンニャクも入ってバランスもいい。


 それに保冷剤で弁当箱は少し冷たいが、中は程よく常温を留めている。

 母の試行錯誤の賜物だ。

 

「美味そうだね」


 すると午前中にも話し掛けてきたカッコイイ職人が隣に座わってきた。

 千香良は無愛想に頷くと、黙々と箸を進める。

 現場事務所には他にも職人がいて安全だけど、警戒するに越したことはない。

 千香良は怖い経験をしている。

 

 それなのに、又もや心臓がドキ、ドキ。

 恐怖体ではなく、ときめいている。

 カッコイイ男を近くにすると条件反射でハートが反応するようだ。

 

「僕ね、こう言うものです。これからも現場で会うかも知れないから覚えておいて」


 千香良はテーブルの置かれた名刺に横目を流す。


『丸山建設(株)』代表取締役、円山錦


(職人じゃないんだ……)


「相葉さん、お疲れさまです。円山さん、相葉さんは彼氏がいるから口説いたら駄目だよ」


 すると、知った顔が……

 高城の設計した現場に榊が出没するのは必然だ。

 建具は『榊工務店』に頼むだろう。

 千香良はホッとする。


「そうなの……残念。でも、マジ好み、彼氏と別れたら連絡頂戴」


 丸山はそう言って、千香良のもっと近くに名刺を滑らした。


「じゃあ、会社に戻るわ」


「お疲れさま、でした」


 榊の態度から見ると悪い人ではなさそうだ。


「相葉さん、食事中なのにね。悪い人じゃないんだけど、円山さんはマイペースだから……アレ?でも、龍太さんは?」


 円山に代わり今度は榊が隣に座った。

 

「親方に呼ばれて……」


 千香良は返事を濁す。

 龍太の問題はトップシークレットだと思う。

 高城が手伝ってくれていることは言うべきだろうか……

 

「そう、忙しいんだね」


「美々は元気です?」


 千香良は咄嗟に話を代えた。

 美々とはラインで繫がっているのに、馬鹿だ。


 そけれども、それからドールの話で盛り上がって、千香良は1時間の昼休憩ですっかりリフレッシュ出来た。

 現実逃避にはもってこいの話題だ。


 そして、午後からは1階にトイレ。

 高城もPM2時には戻って来てくれた。


「それでね、名刺をくれたの」


 午後に小休憩で、千香良は円山の名刺を高城に見せた。

 榊に会ったことを話した序だ。


 お互いに暗黙の了解で龍太の話題は出さない。


「チッ……彼奴……馬鹿野郎……」


 それなのに高樋が悪態をついた。


 千香良は眉根を下げて不安げだ。

 悪者なのかも知れない。


「悪い、悪い、気にしないで。円は俺の悪友だから……チョッとね」


 高城にしては歯切れが悪い。

 

「弱みを握られているんだ」


 千香良は頭に浮かんだことを口にした。

 高城が相手だと気持ちが緩む。


「バレたか……」

  

 高樋が大いに笑っている。


 この所の千香良の憂いを消していった……


  

 

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