複雑で難儀 3
亜紀と入れ違いに数人の作業員が現場事務所に入ってきた。
高城から頼まれたこの現場は『プラスター工房ムラオカ』が通常は取引していない建設会社。
元請業者が違うと下請けも必然的に代わる。
千香良の知らない人ばかりだ。
8畳程の現場事務所では離れて座った所で知れている。
視線が気になる。
『プラスター工房ムラオカ』で働き出した最初の頃と同じだ。
けれども視線の種類が違う。
華やいだ気配がするのだ。
嫌悪感はしないが、千香良は落ち着かない。
「新しい左官屋さん?」
千香良は上目遣いで頷く。
年齢は龍太と同じぐらい。
ドキ、ドキするほどカッコイイ。
千香良は勢いよく席を立つ。
龍太も戻って来るか分からない。
千香良は逃げるように現場事務所を出て行った。
しかし、外の陽射しは少しの間で痛いくらいに強く。
カッコイイお兄さんに感じたドキ、ドキなんて、額に流れる汗と一緒に流れてしまった。
そして千香良は2階に戻ると、タイル下地の続きに取り掛る。
今日の段取りは午前中に2階、午後から1階のトイレ。
納期がないせいで、スケジュールが詰めている。
けれども30分経っても、龍太が戻って来ない。
面倒な案件だと話は長引く。
千香良は龍太にラインを送るか悩むところだ。
「千香ちゃん、お疲れ」
もう、声だけで分かってしまう。
振り向くとやはり、高城だ。
以外にも作業着を着ている。
「龍太は親父さんに呼ばれて家に帰ったから、俺が代わり。他の現場も工期がギリで職人は廻せないって言われたから……ここも、ヤバいんだよね」
千香良は何が何だか分からない。
高城から発せられた言葉の意味も理解不能。
中腰のまま固まっている。
それなのに、気持ちが憂える。
「千香ちゃん?」
高城は背後から千香良の両脇に手を入れると、確り立たせた。
「うん。じゃ、昨日と同じ所をお願いします」
千香良は心ここのあらず。
心情は複雑だろう。
それでもペコリと頭を下げた。
「ラジャー、親方」
高城は千香良の様子にふざけて見せる。
千香良は少し笑顔を見せる。
すると高城がトートバックから鏝を取り出した。
「マイ鏝?」
意外な物が意外なところから……
千香良は否応無しに食いついてしまう。
高城は本当に優しくて頼りになる。
龍太の優しさとは似ているようで違う。
千香良にだけ、分る優しさだ。
「そうだよ、ホームセンターで買ってきた。龍太が居なくても大丈夫、千香ちゃんの足を引っ張らないように、お兄さん頑張るから……」
沈んでいる場合じゃなかった。
そもそも、沈む理由がない。
「あぁ、そうだ忘れない内に……その、乙葵さんの休みはいつまでかな?」
「来月から……」
「じゃあ、ムラオカの親方と俺と梓で行くから……予約をしておいて」
「分かった」
千香良は毅然と応える。
需要な任務を承った。
乙葵を品定めに来るのだろう。
(愈々……)
「乙葵さんを品定めするんだ……」
「千香ちゃん、心も声が大き過ぎるよ」
千香良はバツの悪さに俯いた。
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