表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
109/140

呆然で寂々 4

 



 昨日に続き、豪勢な昼食を頂いた千香良は今晩も素麺にしてもらった。

 ショウガにミョウガ、ネギに紫蘇。

 爽やかな風味に食も進む。

しかし、物足りない。

 すると以心伝心。

 母が冷蔵庫から桃を出す。


「三上さんの家から送られてきたの。食べる?」


「へ~凄い……食べる、食べる。や、やっぱり、お医者さん家は違うね」


 三上の名前に、声が上擦る。

 母に話すのが得策なのに、言えないのは何故だろう。


「それで、乙葵さんのお休みはいつまでなの?」


 さり気なく聞いてみる。

 不自然な問い掛でもないのに、隠し事をしている千香良は後ろめたい。

 桃を剥く母が後ろ向きでよかったと思う。


「今月末までよ、お盆を過ぎると暇になるから返って有り難いわ」


 千香良は三上に聞くまで乙葵の子供の存在を知らなかった。

 相葉家で龍乙(たつくに)が話題に出たのは写真が送られて来たときが初めて。

 センセーショナルと捉えていないのだろうか……


 否、だからこそ騒がない。

 大人だからこそ出来る判断だ。


「でも、乙葵さんも16歳で未婚の母なんて、勇気あるね」


「そうね。でも……16歳だからこそ、何じゃないかしら。好きな人の子供を授かったら、後先なんか考えないで生めたのよ。でも、千香良は結婚してからにして欲しいわ。未婚の母なんて勘弁してね」 


 振り向いた母の顔は慈愛に満ちている。

 確かに授かった命は無下に出来ない。


 けれども千香良は乙葵が恨めしい。 

 1人で育てると決めて、相談もせずに産んだのは本当に凄いと思う。

 けれども、今となって、龍太は悩みを抱える羽目になっている。 


「当たり前だよ」 


「はい、召し上がれ」


 本当に立派な桃だ。

 つるりと剥かれた桃は幼児の頬を思わせる。


「子供には罪はない、もんな……」


 千香良は頬杖を付いて急に物憂げだ。

 けれども桃はペロリと平らげる。


 早く帰れたお陰で、風呂にもゆっくり浸かった。

 入浴剤の清々しい竹林の香りが、まだ少し、肌から香る。

 後は寝るだけだ。


 高城と龍太は今頃、飲んでいる。

 三級左官技能試験の勉強も、今日は手に付かないだろう。

 

 千香良はリビングのソファーに寝転ぶと、テレビを付ける。

 そしてザッピング。

 最近はお目当ての番組もない。


 千香良はグルメ情報番組で手を止めると、ぼんやりと天井を見上げていた。


 龍乙の存在を知った時から、千香良は膨れ続ける風船を抱いている。

 

 空気は混合気体。

 窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素……

 

 千香良も気持ちも同じだ。

 様々な感情が混合している。


 好奇心、懸念、羨望、苛立ち、そして嫉妬。


(乙葵さんは龍兄とはセックスをしたんだ……)


 脳裏に裸体で抱き合う男女の姿が浮かぶ。

 そして、絡み合う……

 千香良は生唾を飲み込むんだ。

 映像は龍太の逞しい胸板に抱かれる自分……

 

 すると、下着が湿り気を帯びる。

 明らかに、欲情していた。


 千香良はあらぬ現象に飛び起きると、慌てて階段を上がった。

 そして、部屋には入るとベッドの鎮座。

 下着に中に潜り込みたがる右手を理性で押さえ込む。

 罪悪感で死にそうだ。

 高城の濃厚なキスを思いだしても生理現象。

 性欲だなんて考えなかった。


 必死で否定し続けた、潜在意識が浮上してくる。

 もう、無理だ。

 千香良の風船の割れる音を聞く。

 押えていた欲望が溢れ出して、


(龍兄が好き……) 


 千香良は座ったままで枕に顔を埋めて嗚咽する。

 頭の中はグチャグチャだ。


 5分、10分、15分。

 一旦は落ち着いても、また直ぐに涙が溢れ出す。


 すると「チコン」


 若者の性なのか。

 千香良は泣いている最中でもスマホには手を伸ばす。


 三上からのラインだ。

 無視をするにも、時刻はPM9時前。

 まだ、早い。

 

【長距離バスで一人旅。ワーキングホリデーの人と意気投合、スキー場に来ています】


 添付された写真は確かにスキー場。

 オーストラリアを実感させる。

 

 千香良は長距離バスに至るまでの三上を推測してみる。

  

 折角のオーストラリア。

 いくら実姉の乙葵が一緒でも、初対面の人の家に居候して、子供のお守り。

 それに乙葵とも幼少期から8年も離れて暮らしている。


 三上の行動力なら当然と思われる。

 

 結局は千香良に泣き止む切掛け(きっかけ)をくれたのは、三上からのライン。

 意味はあるのだろうか?

 けれども、考えるのは止めた。

 千香良は何もかもリセットしたい。

 そして言い知れぬ背徳感。


『龍兄がお父さんかも……』


 黙っていては駄目だと思う。

 それでも、メッセージを入力してから暫しの逡巡。

 

 100パーセント確定を待つべきだろうか……

 

(真君はどう思うだろう……)

 

 でも、もう疲れた。

 そして千香良は紙飛行機のアイコンをタップした。


(終わった……)


 呆然で寂々(じゃくじゃく)とした気持ちだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ