呆然で寂々 3
壁を塗り出した千香良は無心を心がける。
(どうするんだろう……)
それでも、やはり思い浮かぶ。
「そうだ、千香良に確認したいんだけど」
すると、龍太がいきなり話し掛けてきた。
「えぇ?なにを……」
「あのラインの原文は彼氏からので間違えないよな?」
「そうだけど……」
千香良は戸惑う。
今は避けたい話だ。
「と、言うことは噂の美女か……」
深刻な問題なのに、やに下がっている。
「そうだよ。で、『三上整形外科』娘さんだよ」
千香良は意地悪な現実を言ってやった。
そして、同時に、弓から聞いた三上家の事情を思いだした。
「そうだな……」
龍太の声は沈痛だ。
(戯けた調子は気を紛らわす為だ……)
千香良は思い直す。
子供じみた態度が恥ずかしい。
高城が龍太を茶化していたのも同じ理由。
際どい冗談を言っていたが、高城は本当に優しい。
出来た人だ。
千香良も龍太の役に立ちたい。
「一昨日、キャンプ場でね……たま、たま弓ちゃんって、三上君の従兄弟に聞いたんだけど、三上家はお婆さんが封建的だったんだって。それでね、その、お婆さんが死んだから、乙葵さんが日本に帰って来たって」
龍太のリアクションはない。
けれども耳をそばだてていた。
千香良は話を続ける。
「後ね、三上の家ってお見合い結婚が普通なんだって。でも、乙葵さんのお父さんは恋愛結婚で、お母さんはお婆さんに虐められていたんだって。だから、乙葵さんが反抗的になったって……」
「そうか……」
「それでね、弓ちゃんのお母さんは、乙葵さんは好きな人が出来たから、お見合結婚したくなかったって、言ってたって……で、後は……何だっけ?」
千香良の記憶は曖昧だ。
それでも知っている話は吐き出したい。
「ありがとな……千香良。もう、お前は気に病むな」
「うん」
龍太の言葉に千香良は少しだけホッした。
けれども、それと同時に自分は部外者なのだと思い知る。
屋外の作業も一段落したようだ。
騒音が静まって、空調服の音が耳に付く。
今晩、龍太は高城と飲みに行くらしい。
千香良は蚊帳の外。
他人であることが淋しかった。
(早く帰れるなら、ゆっくりお風呂に入って……)
千香良は疎外感を掻き消すように帰宅後を思い浮かべる。
三上からのラインも今日は来ないと思う。
海外からは料金が掛かる。
それを踏まえて、お互いに控える約束をしていた。
残念な気持ちよりも、安堵が勝る。
三上は龍太と面識がない。
(真くんは、龍兄と面識がないのに……どうして、必要以上に意識するのかな?)
千香良は頭に浮かんだ思いに首を傾げる。
(えっ?また第六感)
千香良は辿り着いついた考えに鳥肌を立てた。
三上の大切な人を奪っていく相手……
それは、千香良ではなく、長年離れて暮らしていて再会した姉。
神秘は何時だって女の子を惹きつける。
千香良は、乙葵が龍太を奪っていくと覚悟した。




