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勇者はどこ

ぼんやり光る水晶が映し出したのはーー



「・・街中、というより」

「これは・・」


「とりあえず視点を回すよ」



ゆっくりと景色が移り変わる。周囲には此方を見つめる人々の顔があった。

それらは奇異や羨望の眼差しではなく、無機質なものだ。そこに在るべきものがあって、それを当たり前と感じているためだろう。


そして特に興味無さそうに通り過ぎていく者たちも沢山いる。



「少し下に・・あー、台座に刺さったままだね」


「なんで!?」



驚愕するレイラをジトーっと見つめるリンは、わざとらしく溜め息をつくと布団にくるまった。



「魔王様の勘(笑)」

「もうっリン! 思っても失礼なこと言わないの!」


「ちちち、違わいっ! ほんとに感じたんじゃ!」



無礼な部下達の暴言に顔を紅く染めて否定する魔王様。三人には確かな身分の違いはあれど、この位の軽口を言い合える程度には信頼関係ができていることが見てとれる。


そうした喧騒の中でピタっとレイラの動きが止まる。

何事かと思い、二人が見合わせると、



「・・まさかとは思うが、剣を抜いた後にすぐ戻したなどとは考えられぬか?」


「人間界で広まっているお伽噺を誰もが知っています。戻すとは考え難いかと」



お伽噺とは端的にすると、天から遣わされた勇者の剣は資格がある者が引き抜き悪しき者を討つ。剣に断てぬものなく、また折れることも欠けることもない。というものである。


これまで何度も襲撃に遭ったレイラは、当然ながらこの剣が人の手に渡らないように画策した。

がしかし、それらは全て失敗している。壊せないし封印もできない。いつの間にか元の台座に戻る始末。

レイラは最終的に諦めた、というかくるなら来い!と半ば楽しんでいる。



「・・そうとも限らないかも?」



ヒルデの否定に反論したのは布団から顔を出したリンだ。

頬をつき水晶玉を転がしながら他人事のように話す。



「何人か忘れたが、この剣引き下げて襲ってきた連中が全部返り討ちに遭っている訳で」


「我を畏れた訳じゃな。かッかッか!」


「まあ魔王様の勘(笑)の事だから分からないがね」


「なんじゃとこのっ!」


「あっあっ、布団引っ張らないで破ける破けるっ」



再び始まる騒ぎの中、ヒルデは今の話を反芻する。

確かに理屈は通っているように思える。思えるが、それは覚悟無き者が剣を抜いた場合ではなかろうか?


民衆にお伽噺が広まっているのだから、剣に触れる者は其なりに腕に覚えがあり死ぬ覚悟もあるだろう。


いやしかし、成り行きで抜いた場合もあるか?


物思いに耽るヒルデではあったが、布の破ける音に顔を上げた。



「「あっ」」



両者の鋭い爪に耐えきれなかった哀れな布団は、中身をぶちまけて四散した。

とにもかくにも掃除しないと。溜め息をつくと侍女は自らの仕事の準備を始めるのだった。

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