お前には、言わない。
今回、かなり長くなりました。
キャラのイメージイラストをラストに載せてます。
ボヤけてるので、よかったら3回ほどクリックして鮮明なものをご覧下さい。
因みに、蒼也・莉乃・小杉のイメージです。
その事件が初めて取り上げられたのは、ほんの一年前のこと。
『続いては、こちらのニュースです。政府が、現在世界中で不思議な現象が起こっていることを発表しました。米国政府が把握しているだけで既に死者は34人、負傷者は240人が確認されていますが、実際の人数は遥かに上回ると思われます。この現象について調べられている方にお越し頂きました。負傷された人々には共通点があったそうですね、本橋医師?』
『はい。負傷されて運ばれてくる患者さんは、皆揃ってこう言うんですよ。「夢で見ていた」と』
『夢、ですか?』
『そうなんです。夢で自分がこうなることを体験した、ただの悪い夢だと思っていた、と繰り返し繰り返し』
『じゃあ、予知夢ってことなんですかね?』
『残念ながら、そんな甘いものではないようです。詳しくはまだ分かっていないのですが、悪夢だけが現実になるんだとかで。皆、死亡された方の多くは“有り得ない状況下で”亡くなっています』
『夢が、現実に・・・・・?そんなこと、あるんでしょうか』
『わかりません。ですが、これは絶対の共通点です。他の科学者・医者の中で精神的なものが関与しているとの見解もあります。こちらとしましても、今後詳しく調べていきたいと考えており・・・・・・・』
調べても、調べても。
謎は解決するどころか、深まるばかりで。
夢が現実化する現象は、続いていた。
世界にこの現象が知れる前。
既に、蒼也は存在をひょんなことから正確に知っていた。
三年前、蒼也が公立中学に入学して暫くした頃。
彼は、ある男子生徒と出会った。
小杉大樹。
それが、腐れ縁となり高校まで共にすることになる人物だった。
「なーなー、真田!バスケしようぜ!」
小杉と、蒼也は違う小学校出身だ。
中学は、中学受験者を除き、小杉の通っていた学校と蒼也が通っていた学校の二校の生徒がそこに通うのが通例だった。
小杉と真田、苗字の頭文字が近い為、出席番号順だとどうしても近所になる。
元々ノーテンキな性格の小杉は、休み時間も読書に時間を割くインドア派の蒼也を引っ張り出そうとした。
「遠慮する」
サッカーに、野球に、バスケに。
散々嫌がりながら、終いには相手にすることの方が苦痛となるからと参加することになる。
インドア派ながら、スポーツが苦手な訳ではない蒼也は、大抵いい記録を残す。
だから尚更、小杉は連れ出したい衝動に駆られるのだ。
「なー、昼休み!時間あるだろーなあってばーっ」
腕を捕まれ、蒼也は眉間に皺を寄せて顔を上げる。
こういうタイプは苦手だった。
嫌いなのではなく、何て言うか、馬が合わないのだ。
振り払おうと、自分の腕を掴む小杉の腕に手をかけた。
その時。
何かの情景が見えた。
荒廃した世界で、ただひたすら逃げ続ける男の子が見える。
後ろを追うのは、謎の影。
鎌を持つその姿は、もしかしたら死神だったのかもしれない。
小杉の腕から手が無意識に離れると、その映像は消えてしまった。
「追われ・・・・てる・・・?」
思わず漏らしたその言葉に、小杉は過剰反応を示す。
「お前・・・・!真田にも見えてんの!?あいつ!」
訳が、分からない。
「は?何が」
「え?見えてるんじゃないのかよ。黒い影!」
見えたのは・・・・・見えたが。
「昨日さー、変わった夢見たんだよ。鎌持った黒い影に追われ続ける夢。そしたら昨日の夜、突然オレの前に現れたんだ。人が傍にいない時だけなんだけど、ずっと追いかけてくるんだよ。それにあいつのこと、誰も見えないみたいで」
不気味で、怖くて眠られないんだ、と小杉は溜息をついた。
それは確かに、あんなものが現れたら本気で怖い。
「ま、何でもいい。とにかく離せ」言って、再び手を離させようと小杉の腕に触れる。
そうするとまた、あの映像が流れる。
びくり、と蒼也は体を震わせ固まった。
幼い小杉が、泣きながら必死に走り続ける。
『――――あっ―――』
小さく声を上げて、小杉が石に躓いて転んだ。
すぐ後ろに迫る黒い影。
振り下ろされる漆黒の鎌。
蒼也は、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
夢の中で殺される小杉は、つまり、現実でもそうなる、という訳で。
この現象に逸早く気付いた彼には分かっていた。
これからどうなるのか。
「・・・・・・昇華」
目を閉じて呟けば、その世界がうねり始める。
次第に一点に収束し、光る球体となってそうやの元に飛んでくる。
胸の前まで来たそれを、そっと手で受け止める。
光がだんだんと消えていき、何か違うものに変わろうとしていたが・・・・・・それが何かを認める前に、真っ白になった世界が蒼也を拒絶するかのように弾け、意識が、元に戻る。
「おい、真田?お前どうした!?」
体がぐらりとフラつき、バランスを崩して床に崩れ落ちる。
座っていた椅子の倒れる音がカターンと大きく教室内に響き、教室内にいたクラスメイト達を振り向かせる。
倒れる蒼也を見て、悲鳴を上げる女子もいた。
ギリギリ小杉が支えた為、頭部を床に強打することはなかったが。
カランカラン、と掌からつい先程までは持っていなかった黄色の紐のついた小瓶が転がる。
意識が回復してくると、蒼也はぼんやりと辺りを見た。
かなり、人に囲まれていた。
「真田、保健室行くか?オレついて行ってやるよ」
「・・・・・・悪い。頼む」
ゆっくりと体を起こして手から溢れた小瓶を拾い上げ、小杉に支えられながら保健室に向かう。
一歩一歩出す足が、重い。
「まだ・・・・・慣れてないせいかな」
言って、自嘲すれば。
何のことかと小杉に問われると思っていた。
この至近距離にいれば、いくら小さな声でも聞こえてしまうだろうから。
「やっぱり」
返ってきた言葉に、蒼也は驚いて顔をバッと上げた。
「やっぱり。真田、お前がしたのか?」
「な・・・・・んのこと?」
「だってさ、お前が倒れるのと殆ど同じタイミングで、あいつオレが見てる目の前で消えたんだ。それに、急になんだかすっきりしたし。真田、お前やっぱり・・・・・・何か知ってるんじゃないのか?」
なかなか、鋭い。
誤魔化せる程度にしか、口に出さなかったのに。
それだけで断定の形を取ってくるとは。
そういえば、気になりだしたらコイツはシツコイやつだった。
それを思い出すと、体調の悪さに加えて疲れがどっと押し寄せる。
寧ろ、言ってしまったほうが逆に楽かもしれなかった。
「えーと」
でもやっぱり言えないよなーとどうにか誤魔化そうと策を練る蒼也の肩を、小杉ががっしり掴む。
その形相は、逃げさせないと訴えている。
「そーだよ、知ってるよ僕。この“夢が現実になる”現象についてを、さ。」
「夢が・・・・・・現実になる?」
「不思議そうな顔をするなよ。今の今まで、実際にお前体験してるだろ。アレだよ」
「じゃ、さ・・・・・オレ、最終的には・・・・」
「殺されてただろうね・・・・・“夢”に」
自分が夢の中でどうなったのかを、何故蒼也が知っているのか。
小杉は不思議そうな顔をして「何故それを、」と言った。
「見たから。僕さ、変な意味じゃなくて、人に触れたら“侵されている夢”を垣間見ることが出来るんだよ」
「待て待て!さっきからお前、何を言ってるんだ!?俺にはサッパリ・・・・・バカにも解る講座を頼む」
「はあ・・・・・」
蒼也は、保健室まで取り敢えず連れて行って欲しいと頼んだ。
立ち話はちょっとばかしキツい。
「んじゃ、ベッドに寝転んだら話してくれるんだな?」
「ああ、話す話す。もう結構話したし、今更隠さないよ」
「・・・・・・お、おう。それもそうだな」
保健室に着き、先生に気分が悪いことを伝え、ベッドに寝転ぶ。
先生に話が聞こえないように保健室の一番隅のベッドを選び、しっかりカーテンを閉めて。
先生がどうしているかも小杉に言って様子を覗わせた。
「じゃあ、話す。分からなかったら聞き返してくれたらいい」
「OK」
「僕がさっき言ってたことは、要するにだな・・・・・・」
簡単に纏めるとこういうこと。
三年前。
蒼也は、ある夢を見た。
自分が、事故で死ぬ夢。
ただの夢だと思っていたが、それは現実になった。
けれど、蒼也は死ななかった。
母・咲良が身を挺して守ってくれたお陰で。
そして身代わりとなった咲良は、命を落とした。
以来、蒼也には、夢を見なくなった代わりにいくつかの力が備わったという。
一つ目は、「共有」。
他人の悪夢を触れるだけで読み取る力。
二つ目は、「昇華」。
ある一定の条件下で現実化する悪夢を、無に返す力。
これはその夢の影響力に比例して蒼也の体力を奪うというデメリットがある。
無に返した夢は所謂気化状態として、目覚めた後現実世界にそれを閉じ込めた小瓶が出現する。
栓を取れば小瓶自体は消え、忽ち宿主に戻り即時性を持って現実化することだろう。
つまり、瓶自体も曖昧な存在ということになる。
そして三つ目は、「現像」。
昇華とは逆に、夢で見たことを現実化出来る。
昇華も現像も、夢を見ない己には使えない。
だからどんなに望んだことがあっても叶わないのだ。
「・・・・・・・って感じだよ」
「・・・・・」
「?ちょ、小杉?」
「真田!おまえ、スッゴイな!気に入った!」
静かに、と顔を覗かせた養護の先生に小杉が何度も頭を下げる。
振り返り、やっちまったと言わんばかりの顔で笑い掛けてくる様子に、思わず苦笑してしまう。
何やってるんだ、お前は。
「真田」
「もー。分かったでしょ?僕は力使ったからかなり疲れてるんで寝たいんだよ・・・・・」
「・・・・・ありがとな」
「え・・・・・?何、どうしたの?」
突然の礼に、蒼也は驚いて目を見開く。
「さっき言ってたけどな、現実化したことでリアルに死ぬ夢・・・・・“死夢”だっけか、あれどうにかするのは結構くるんだろ。なのに、力使ってくれてさ、ありがとうな」
「いいや。気にする・・・・な・・・」
すっと眠りに入る蒼也を残し、小杉は静かに保健室を出た。
教室に向かいながら、ふっと笑みが溢れた。
「たっくさん恩、作っちゃったな」
でも、悪くない。
クラスの中で、浮いている訳ではなかったけれど一人でいようとする蒼也と、仲良くしたかったから。
拒絶されても、でもスポーツ一緒にしようと粘って。
結局は仕方ないといった表情で参加してくれる。
その形が、成り立っていた。
悪くない。寧ろ、楽しい。
思い出すのは、先ほどの蒼也の話。
夢が・・・・・現実化するなんて、自分が経験しておきながら信じられない。
「でもいつかは、その現象のことも、蒼也の力のことも信じられる時が来るって――――てっ!痛ってェよ!」
仕事を放り出して、まるで和人のように仕事場のソファに寝転がる小杉に、蒼也がゴンと頭を殴る。
「何昔のこと語ってるんだよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって・・・・・!オレがお前と親友になった瞬間をだな――――」
「親友?それって、何のこと・・・・・?」
至極真面目な顔で言い放ち、小杉は顎が外れそうなほど口をあんぐりと開けた。
「うおおおおおおい!?オレ親友じゃねーのかよ!?」
「勿論違うよ」
そこまで否定する様は、逆に清々しかった。
だが、蒼也にはそれより気になることがあるのだが。
「ってか、お前だろ!?現像能力使ってお金稼ぎしようって言い出したの!堅悟さんに会社のビルの一室まで借りちゃってさあ」
「ちっこいビルだからいいの。条件の、堅兄の家族が“死夢”に遭ったら助けるってくらいだし。な?」
「な、じゃないよ!僕なんだよ、影響モロに受けるのは!」
「さーて、仕事仕事~」
素知らぬ顔で口笛を吹きながら立ち上がった小杉を、蒼也は睨みつける。
「こ~す~ぎ~~~~!!」
言ってなかったんだけどね。
まあ、今後も出来れば言いたくないんだけど。
この力のこと誰かに言ったのは、小杉が初めてなんだよ。
親友ってのも認めなくもないけど。
気恥ずかしいからさ。
小杉には、言わない




