7,愛玩動物は主人の心の癒しです
鉱山に行くことになりました。
昼食をとった後、二日ほどの行軍準備をして待ち合わせの正門へ。
正門には、すでに総隊長エラルド卿がいた。
カットゥーロと揉めている?
何か言い合っているように見えるわ。
……言い合っているというより、総隊長が食って掛かっている?
カットゥーロの方は、いつも通りに見えるけれど。
「……いつも冷静な総隊長が執事長に食って掛かってますね」
未だ声変わりしていない、少年期特有の声が、私の後ろから耳に届いた。
「……ニナにもそう見える?珍しい事もあるわね」
総隊長も、いつも冷静沈着なのにね。
一体どうしたのかしら。
「……そういえば、お嬢様のスイヤーフもいませんね。執事長さんならすでに準備完了のはずなのに」
そうよね。いつもなら私が正門前に着いた時には、すぐに出発できるようになっているものね。
私のお出かけ——魔獣討伐にも鉱山視察にも——には、スイヤーフはいつもいっしょだものね。
それをよく知っている執事長が準備をしていないなんて……普段ならありえないわね。
「お嬢様、確認してきますね、少しお側を離れます」
私の耳元に小さく声を落として、ニナは音もなくカットゥーロの所に移動した。
実は今日の視察は、従者たちの身体強化魔法の訓練も兼ねてたのよね。
流石にまだ警備隊には、我が家の従者たちが身体強化を使いこなせているなんて言えない。
我が家の戦力が、どこからか王家や侯爵家に漏れるわけにはいかないもの。
「……お嬢様……」
「……ニナ、早かったわね」
ニナが戻ってきたと同時に、ぐおおおおおおと唸り声が響き渡った。
「……スイヤーフもお嬢様の魔力を感知したようですね」
総隊長がその唸り声を聞いて剣柄を握りこんだ、のが見えた。
……ふーん。総隊長は魔獣討伐に出た事がないのかしら。
それとも、スイヤーフが気配を消すのが上手い?
「総隊長が、お嬢様の鉱山視察に魔道馬車をなぜ出さないのか?と執事長に食って掛かってました」
「……えっ、そうなの?」
身体強化の訓練もできないのに、スイヤーフを出さないなんて……。
それは、カットゥーロも困るわよね。
領地に帰ってきてからも、それほどスイヤーフとお出かけしていないのよね。
だから、スイヤーフもご機嫌斜めなのだ。
カットゥーロから久しぶりにお出かけできると話は聞いていたはず。
それが、馬車に変更したとなれば、大きな唸り声も当然だよね。
何とかしないと、スイヤーフの唸り声を魔獣の声と勘違いして、討伐隊を出すと言い出しそうね。
……鉱山に行けなくなってしまうわ。
しようがない、少々の情報は明かさないと収拾がつかないわね。
「……総隊長、そこまでにして」
剣柄を握りこみ、今にも抜刀しそうな総隊長に声をかけた。
「!お嬢様!」
「まず剣柄から手を放して。この声は魔獣ではないから」
「しかし!……お嬢様はまだ魔獣狩りに出てはいらっしゃらないでしょう。魔獣の声の聞き分けができないと思いますよ」
「……」
……今の私は、今年成人したばかりの小娘だから魔獣なんて見たこともない、と思われているんだろう。
学院の休みの度に魔獣討伐していたと教えてあげたら、どんな顔をするのかしら。
……ふふ。
カットゥーロを見ると、彼は一つ軽く頷き合図を送った。
馬房に続く扉が開かれて、大きな黒馬が一頭入ってきた。
黒馬は、前足を大きく振り上げて立ち上がり、吠えた。
その勢いのまま、前足で地を叩きつけ、頭を左右に二度振った。
「……彼、スイヤーフよ」
スイヤーフの口からは、吐き出す息と共に白い煙が漏れている。
総隊長は、まだ剣柄から手を放していないが、どこか茫然と立ち尽くしているように見えた。
「……でかっ」
無意識に口についたであろう総隊長の呟きが、私の耳にかろうじて届いた。
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