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5.少女と筋肉と花の様なる領主様

ようやくヒロイン始動です。







 「お嬢様、ようやく王都から出ました。……監視もいないようです」


 ほっ——と、肩から力が抜けた。


 「もう、大丈夫っすね!ここから、馬で一気に行きますか?お嬢」


 「いい加減に言葉遣いを改めろ、マルコ!」


 「無理っすよ、部隊長。傭兵時代が長かったっすからね」


 手袋を脱ぎ捨て、馬車の窓を開けた。


 鳥の巣のようだとよく言われる、おさまりの悪い赤髪が、窓の奥からのぞいた。


 「……私の前で『大丈夫』は今から禁止ね」


 もう「大丈夫」は、いい加減聞き飽きたのよね。


 王都では「大丈夫」は随分便利に使われていたわ。


 「大丈夫」は他者に都合の悪い事を押し付ける言葉だったもの。


 「それと、次の宿場町までこのまま行くわ」


 まだまだ、油断ならないもの。どこに人目があるかわからないし。


 第二王子も帰国されたらしいから、もたもたしていたら王都から出られなくなってしまうわ。


 権力争いに巻き込まれるのは勘弁よね。


 「……でも、少し速度は上げてね」


 「しかし、次の宿場までは道が悪うございます。魔道具を積んでいるとは言え、馬ならともかく馬車では……」


 部隊長のベニートが、馬車に近づき声を潜めた。


 「あの男……えっと名前なんて言ったっけ。あいつの事は問題ないけれど、侯爵家に、私が王都にいない事がばれない内に領地へ入ってしまわなければ」


 今回、私の護衛をしてくれているベニートは、馬車に並走する馬上でかすかに頷いた。


 「じゃ、急ぎましょう」


 これで、漸く家に帰れる。


 この馬車には衝撃吸収の魔道具を積んでいる。悪路でも平気。


 ドアに軽く背を預け、数か月前の下向を思い出していた。


 ……鉱山内で工夫による暴動を他国が先導したようだと、辺境伯より迎えが来たそうだ。


 後に執事から、辺境伯からの迎えは見知らぬ男だったと聞いた。


 私の両親は迎えの馬車に乗り、そのまま帰らぬ人となった。


 辺境伯に事情を訊けば、そのような使者は出していなかったとのこと。


 ……しかし、あの辺境伯も少々駆け引きのお好きな方ではあるのだけど。


 あの時は、すぐに侯爵家からの縁談が持ち込まれ、両親の死に関する調査を止めなければならなかった。


 けど、漸く領地に帰れる。また調査を再開できる。


 今回は必ず真相を暴くわ。





 ————


 

 冬の夜の訪れは早い。


 日が暮れてようやく馬車が予定していた宿場町に着いた。


 今夜はこの町で一泊し、明日馬に乗り換えて、一気に領地へ行く。


 警戒していた侯爵家の監視は、思っていたほどではなかったようだ。


 選民思想は強いし、用意周到そうに感じるのに、侯爵家ってどこか抜けてる?


 まあ、私の事はただの資産家の小娘と思っているのだろう。


 そう思われていた方が、私も助かるわ。


 当初の予定通りに、翌朝一気に馬で駆ける。


 今夜は明日に備えて、さっさと寝るに限るわね。


 漸くあの喧噪の日々から抜け出せそうだ。


 その安心感からか、今日はすぐに深い眠りに落ちた。

 



 まだ夜が明けきらぬ早朝。空が白み始めた頃、三頭の馬が軽装の旅人を乗せて宿場を後にした。


 防寒のマントを頭からかぶっていたので、容姿はわからない。


 旅装から冒険者のようでもあったが、頑丈そうな仕立てから豪商のお忍び旅行とも見える。


 あまり人々の記憶に残らないだろう三人組だったが、先頭を走る小柄な少年が「赤髪」だった事は記憶に鮮明だった。




 太陽が昇り切った昼近くになって、漸く子爵家の馬車が宿場を後にした。


 馬車に乗り込んだ令嬢は、おさまりよく巻かれた赤髪が白く縁どられたファーからのぞいていた。


 


 

 

 


 

 


 

いつもお読みいただきありがとうございます。

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