3,箱庭のコメディア・デッラリテ
今回は王家の話です。
「父上、何故ヴィードー侯爵に求められるまま、テュスクルーム子爵家に王命を出されたのですか?!」
母親の生家がある帝国へ留学していた第二王子が、二年ぶりに帰国した。
帰国後すぐに、自国の貴族学院の同窓であるテュスクルーム子爵家の婚姻を、実母である王妃から聞かされたのだ。
話を聞いた彼はびっくりし、帰国の挨拶もそこそこに、慌てて父親である国王の執務室に駆け込んだ。
開口一番、父王の執務机を叩きながら、冒頭の言葉を言い放っていた。
「……まずは、お帰り。元気な姿が見られて喜ばしいよ」
父王は、息子の剣幕にも動じることなく、穏やかに喜んだ。
「あちらの大学で優秀な成績を収めたと聞いたよ。二年で卒業するなんて、よく頑張ったね。自慢の息子だ」
父王の穏やかな声に、気勢をそがれた第二王子フラヴィアーノは大きく息をついた。
「……ただいま戻りました、父上。二年間の学びの時間を与えて頂きましたこと感謝申し上げます」
フラヴィアーノが落ち着くと、父王と二人きりの執務室は静寂に包まれた。
第二王子が執務室に駆け込んできたときに、側近たちを退室させていたからだ。
コツン、とひとつ。父王の左中指が、机を軽くはじいた。
「……父上……いえ、国王陛下。留学前にも奏上いたしました、ヴィ―ドー侯爵家をお調べください、と。何故手をこまぬいていらっしゃるのですか」
コツン、とまたひとつ。机をはじく音が響いた。
「国王陛下は、又従弟殿にお甘い!」
父王は第二王子の激高などどこ吹く風とばかりに、覇気のない笑顔で聞いていた。
ドン!とひとつ。第二王子が机に拳を振り落とした音。
「……ヴィ―ドー侯爵家は、わが国に唯一残った王家の血の保存庫だ。国王と王太子は体が弱いうえ、王太子にはまだ子供がいないからね」
コツン、と今日はみっつめ。
「ヴィ―ドー侯爵家には、盤石で居てもらわないと……ね」
「……私は、そんな生き方したくありません」
振り落とした拳を机の上で握りしめた。
「支えてくれる貴族や民たちを大事にするのと、ヴィ―ドー侯爵家を大事にするのは違います。」
第二王子は、唇をかみしめ父王から視線を外すと、何かを飲み込むように天井を見上げた。
「……私は……私ができる事から変えていきます。どんな困難があってもです」
第二王子は、静かに父王の執務室から退出した。
父王は、側近たちが戻るまで扉を見つづけていた。
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