2,井の中の王者の夢
「妻」が領地に下った翌日、「夫」であるウリオは黄味が強い金髪の、大胆に胸元まで開いたドレスを着た女性を、屋敷に連れてきた。
正面玄関に出てきたウリオ付の執事長とメイドたちに――今日から彼女がこの家の女主人だ――と告げた。
この屋敷の使用人達は、昨日自分たちの主人――ウリオ――の「妻」になった令嬢のことなどよく見ていなかった。
……だが、常時俯き加減だった小娘よりも、目の前の女の方がウリオに似合う美人だと、思った。
根暗で醜女だから、領地に下され鉱山の管理をさせられたのだろう。
あの気弱な小娘には、鉱山で働く荒くれた下衆どもの世話がお似合いなのだ。
この美しい若様――ご当主様にはふさわしくなかったのだ。
政略結婚なんてお可哀そうに。
……それが、執事長や侍女頭の本音だった。
「お金持ちとは聞いていたけど、鉱山持ちでしょ。もっと野暮ったいと思ってたけど、華やかな御屋敷ね。私達にお似合いよ」
資産家と言えども子爵位だが、この屋敷は数代前の当主が金に飽かせて揃えた調度品であふれていた。
黄色い笑い声を上げて、赤いドレスの女は屋敷の調度品をあれこれと値踏みしていた。
「この壺も、とてもいい物よね」
「この屋敷が気に入ったなら、お茶会でもすればいいさ」
「えっ!本当にいいの?!」
「ヴィ―ドー侯爵家の名前で招待すれば、公爵家だって来るぞ」
「いやん、ウリオ!素敵ね」
ウリオは、女――ジーナの背中から抱き着き彼女のうなじに口づけた。
「……詳しい事は後にして、昨夜の続きをしようぜ」
「……ふふ、ウリオったらせっかちね」
抱き合い、縺れあいながら二階にある「当主夫妻」の寝室へ消えていった。
「ねえ、新しいドレスが欲しいわ。マダム・ルチアの新作がいいわね」
一頻り満足した後、いつもジーナはおねだりをした。
ジーナのおねだりに、ウリオは一度として断った事がなかった。
彼には、潤沢な個人資産があったからだ。
しかし、マダム・ルチアは王族御用達の服飾デザイナーだ。
ウリオは少し考えた。マダム・ルチアへの伝手があるかどうか。
(……まあ、ヴィ―ドー侯爵家は王家の姻戚だ。伝手なんて探さなくても大丈夫だろ)
ウリオの人生に、今まで相手から拒絶された事などなかった。
失敗するなどの考えはない。
後でマダム・ルチアを屋敷まで呼び出せばいい、と思った。
そうすれば、ジーナはまた大げさに喜ぶのだ。
ウリオにとって、さほど難しくはない事でもだ。
何故なら、ウリオはこの人生で常に王様だったからだ。




