1,新婚初夜の幸福
「お前のようなあばたの醜女がこの美しくたくましい俺に釣り合うと思っているのか!?お前を抱くなど虫唾が走るわ。お前とは白い結婚だ。下位貴族のお前と結婚してやったのだから、俺を称えひれ伏せ!」
この寝室で声を張り上げている青年は、この日行われた式の主役の一人である。
テュスクルーム子爵家では、この日後継者の婚姻式が行われた。
テュスクルーム子爵家は、帝国との境目に領地があり、鉄鉱石などの鉱山を有している。
家格は下位貴族ではあるが、王国でも有数の資産を持っていた。
王族の覚えめでたい家である。
そんな家の後継者は、今年貴族学院を卒業し、成人したばかりだ。
片や婚姻の相手は、侯爵家であった。
ヴィ―ドー侯爵家は、領地を持たない文官貴族家である。
数代前の国王の娘が、自身の従者と恋仲になり、興した家だった。
侯爵家と子爵家の格差婚が実現したのは、王家の血が入っているヴィ―ドー侯爵家の財政状況を国王が憂慮したためである。
議会承認を経て王命を出されたのは、王国でも有数な資産家で先ごろ当主が急逝したテュスクルーム子爵家だった。
「……おい!聞こえているのか?!お前、顔だけでなく頭も悪いのか。こんな事も理解できないのか?!」
この日もう一人の主役である令嬢は、ベッドに腰かけ頭を下げたまま、一言も口を開いていなかった。
肩が震えているように見えるのは、幻なんかじゃない。
婚姻前に2度ほど会った時も、鳥のさえずりのような声で返事を返していた。
相変わらず臆病な女だ。
青年――ウリオ――は、気弱で男の言いなりになる女なのだと思った。
母からは、「貴方のような美しい男に甘い言葉をかけられれば、どんな女も言いなりよ。追い詰めるのではなく、時には優しい言葉をかけて貴方に夢中にさせなさいな」と、言われた。
まだ若い令嬢だから、扱いやすいわよ。との言葉が母親の声で脳内に再現された。
こいつと白い結婚をして、俺は好みの女と遊びたい放題すればいい。
潤沢な資産もある。
自身の満足する未来を想像して、ウリオは笑った。
「俺はこの王都に留まる。お前は領地に下って仕事をしろ。お前にはそれしか出来ないのだからな」
「……承知いたしました……」
ウリオは、醜悪な笑いのまま令嬢を傷つける言葉を続ける。
「後継者の事なら心配するな。俺にふさわしい女との間につくる。お前とは三年後に離婚だ」
ウリオは高笑いしたまま、当主の部屋を後にした。
翌朝、新婚初夜から堂々と家を出て行った「夫」は「妻」の見送りもしないまま、「妻」は領地へ下向していった。




