11,社交界の華です、私
一方王都では・・・
「……招待状は、ヴィードー侯爵家からでしたわよね」
「わたくしが頂いたものも、そうですわ」
「でも、この招待状にはテュスクルーム子爵家の別邸となっておりますわ」
年が明けたある冬の日。ヴィヴィアーナが領地で忙しなく過ごしている頃。
王都ではヴィードー侯爵家主催の夜会への招待状が、年末年始王都に滞在しているすべての貴族家に届いていた。
「テュスクルーム子爵家別邸でヴィードー侯爵家主催の夜会……噂通りヴィ―ドー侯爵家ご次男様が、やりたい放題されているのでしょうね」
数年前に王都に開店した人気のカフェで、貴族女性たちが社交に花を咲かせていた。
「……招待状、ヴィ―ドー侯爵家主催と書かれていましたが、封蝋に紋章印はありませんでしたね」
「ええ、おかしなことばかりよね」
ラヴィナーレ侯爵夫人フィオレッタは、紅茶を一口含み笑みを作った。
「王都中の貴族家に招待状を出したようだけれど、半数以上は欠席なさるわ。ましてや高位貴族家が参加するわけがないわね」
「さようでございますね」と、キアッピーニ伯爵夫人が続けた。
「テュスクルーム子爵を継承されたヴィヴィアーナ様の主催ならともかく、侯爵家のご次男と言えども『ただの入り婿』の署名では下位貴族家ですら招待には応じないでしょう」
「ええ、ヴィ―ドー侯爵家の寄子貴族家でさえどうなることか」と、こちらもラヴィナーレ侯爵家の寄子貴族家であるチッティ伯爵夫人が、口を開いた。
「……このホスト役のジーナ……嬢……をご存じの方いらっしゃる?」
「フィオレッタ様、文官貴族家のコッキ男爵家が先年引き取った市井育ちの娘ではないかしら?」
「……コッキ男爵……宰相府の下位貴族家よね。市井育ちということは庶子なの?」
「いいえ、どこかの商家に嫁いだ男爵の姉の子供だと聞きましたわ。養女にお迎えされて遠縁の男児と娶わせるとか……」
「あれまあ、それなのにヴィ―ドー侯爵家のご次男と出会われたのね」
このカフェの一階部分は、テーブルごとに衝立で仕切られているが、上得意様仕様の二階部分は個室になっており防音の魔道具が仕込まれている。
そのため内緒話にはうってつけの場所だった。
「ジーナ嬢が生んだ子供であれば、コッキ男爵家の血筋だということね」
まあいやだわ、ほほほ。と笑い声があがった。
テーブルには帝国で流行りの、フルーツがたっぷりと盛られたケーキが配膳されていた。
「ヴィヴィアーナ様は、すでに領地にいらっしゃるそうよ」
「……ええ聞きましたわ。なんでも結婚式の翌日に侯爵家のご次男から無理やり下向させられたとか」
「……私の娘と同じ学年なのですが、とても奥ゆかしい方のようで……」
「王命の婚姻でもありますし、ヴィードー侯爵家ですから入り婿と言えどもヴィヴィアーナ様が遠慮なさっておられるでしょうね」
「…………ヴィードー侯爵のご次男が『白い結婚』を声高に宣言されたとか……」
キアッピーニ伯爵夫人は、扇子を口元にかざして声を潜めた。
「……ヴィードー侯爵家は、テュスクルーム子爵家を乗っ取る気なのかしら。それとも、ご自身の血をテュスクルーム子爵家に入れなくてもいいとお考えなのかしらね」
くすくすと密やかな笑い声がどこからか空気を震わせた。
「あの、ご次男。そのようなことは考えていないかもしれませんね」
「あら、あの女狐も教育を間違えたのかしら?」
「よその子供(正室の嫡男)の教育には熱心ですのにね。ほほほ……」
そっと扉のそばに立っていた二人の給仕が動いた。
温くなっていたお茶を入れ替えるためだ。
それは、一幅の絵のような美しい男女だった。
金髪碧眼の美男美女、どこかの王族と名乗っても通用する美貌と優雅な所作だった。
この洗練された給仕も、カフェの人気の一つだった。
給仕は、客の指名でなされた。
しかし、彼らのサービスは酒場女のようではなく、王宮の上級侍女や侍従のそれであった。
個人的なお付き合いもない。
彼らはただ、カフェで最高のサーブをするだけなのだ。
「……相変わらず美しいわね。ヨルンとエルダ」
「フィオレッタ様のお誘いでなければ、彼らのサーブは受けられませんわ」
「ええ、フィオレッタ様のおかげですわ」
ラヴィナーレ侯爵夫人フィオレッタは、満面の笑みで答えた。
「ええ、是非次も皆さま、ご相伴してくださいな」
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