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人形ノ奇劇 ー白の章ー  作者: みつば


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1


「メア!」


 畑に向かっていれば、声を掛けれられた。振り返れば黒髪を揺らしながら走ってくる男の子。


「カイ」

「今から手伝いか?」


 快活に話す、同じくらいの身長の子。この子は私の幼馴染の一人で、カイという。


「うん。今日はピーマンの収穫期だから多めに貰えるかも」

「げ、ピーマン……」


 味を想像したのか、いつも笑顔のカイの顔が歪む。確かにこの位の年齢はまだ苦味が苦手だから、野菜の好き嫌いがあるのかもしれない。


 私には前世の記憶がある。といっても何かこの世界を大きく変える程のすごい知識はないし、元の世界の思い出もうっすらと残っている程度なので望郷の念は無い。ただこの体の実年齢より大人の考え方が出来る、という程度だ。


 また、この世界は地球ではない。いわゆる異世界というものだと思うのだが、魔法も剣もなかった。

 私はこの村から出た事がないのではっきりとは分からないが、中世くらいの文明だと考えている。たまに商家を営んでいる家族から珍しいものを見せてもらうが、その中に時計や簡単な仕掛けのあるおもちゃなどがあったからだ。

 しかし魔物が出たとか魔法がどうとか王都の騎士が……とかファンタジー溢れる用語を聞いたことが一切ないし、周りの生活は農具や普通の草木に囲まれた田舎の生活なので、元の世界と似て非なる世界だと認識している。


 ちなみになぜここが異世界かと判断したかというと、まあ知ってる国名が無いし、なにより夜空に浮かぶ月が異様に大きい。数は一つで同じだが、引力どうなってるの? と不思議に思う程大きいのだ。まあ綺麗なのでそこは良し。


 とにかく、そんなこんなで私はこの世界を地球とは似て非なる世界、異世界だと判断した。

 それでも、前世の記憶があるという話は聞いたことが無い。まああっても大変貴重な知識を持っている訳でもなく、精神が大人なので苦いピーマンが美味しく食べられる……という程度の特徴しかない。それにそんな事言ったら可笑しな目で見られるのはこの世界でも共通なので明言していない。


 別に変に子供っぽさを演じなくても、周りから見たら両親がいない環境で育った私は”六歳にしては大人びた子供”という程度の認識で見られているので、実年齢と精神年齢の乖離によって生まれる窮屈さは感じず、そう言う意味では大変楽ではあった。


「メアは大人だな……」

「あはは」


 そんな実情を知らず、カイは瞳に尊敬の念を乗せて私を見る。

 この体は確かに苦味を感じるが、記憶のおかげで苦味はおいしさに変換されるし、私の場合は貧しさもあるので贅沢言ってられないというのが正直ある。

 だけどそんな事情を馬鹿にせず、嫌味も言わず、ただ単にヒーローを見るみたいな目で見上げる子供は純粋で、大変可愛らしかった。







「メア、お疲れ様。これ今日の御駄賃」

「ありがとうございます!」


 夕方の少し前、私を雇ってくれているレナおばさんから鉄貨を貰う。子供の手伝い程度の金額ではあるが、この有無は大きい。それにこんな小さな子供を雇ってくれるのは稀有でとても有難いことだ。


「いつもありがとうね。メアみたいな働き者のおかげで助かるよ。これ今日取れたからおすそ分け。おばあちゃんと食べてね」

「! 卵! いいんですか?」

「ええ。いつも頑張ってくれているから」

「ありがとうございます!」


 この世界では豆以外のタンパク質は高級品だ。久しぶりの卵に嬉しくなる。祖母に食べさせてあげよう。私は卵が割れないよう、エブロンで大切に包んだ。


「本当はもっとお給与渡せればいいのだけど」

「いえ! 私のような子供を雇ってくれて感謝しています」


 卵を掲げて喜びのダンスを踊っている私の後ろから、レナおばさんがポツリと呟いたので慌てて首を振る。子供が働くことが珍しくない世界とはいえ、流石に六歳を雇ってくれるところは少ない。この世界では早ければ十歳位で家の仕事を手伝い始める子もいるが、それでも六歳はまだまだ我儘盛りなので働くといっても、せいぜい家の手伝いくらいだ。

 だから賃金は安いが妥当な額だし、時々こうして食べ物を分けてくれるので大切な貴重で恩ある就職先なのである。


「メアは本当に良い子ね。うちの子はメアよりずいぶん年上だけど、我儘ばかりで手伝いなんてしやしないわ」

「…………」


 まあそれは仕方ないのではないだろうか。私は貧乏と前世の記憶があるから成立しているだけで。


「私でよければお手伝いするので何でも言って下さい!」


 他所(雇い先)のお子さんに対して肯定も否定も出来ず、とりあえず無難な返事をする。するとレナおばさんは目をうるっとさせて私に抱き着いた。


「わ」

「本当に良い子ね! 何か困った事があったら私に相談するのよ! 私に出来る事は協力するから」

「う…うぶ……あり、がとうございます」


 ふくよかな肉体にきつく抱きしめられて息が上手くできないが、なんとか返事を返す。直ぐに気付いて離れた温もりに安心と少しの寂しさを覚えて見上げれば、優しく頭を撫でられた。







「ただいま」

「おかえり。夕飯できているよ」


 家に帰ると、祖母がリビングから出迎えてくれた。朝の残りのパンと具の少ないスープだが、毎日二食食べられるとは贅沢だ。


「これレナおばさんからもらった」

「まあ、こんなにピーマンとトマト……あと卵もくれたんだねえ」

「明日これでオムレツを作ろう」

「ええ。私からもお礼を言わないと」

「うん」

「メアも、いつもありがとうね」

「! えへへ」


 にっこりとしわしわの手で撫でられる。照れくさくてくすぐったい気持ちになりなるが、嬉しさではにかんだ。貧しい暮らしは決して楽ではないが、私は幸せだ。


「おばあちゃんも、いつもありがとう」


 そう言って、食事の前のお祈りをしてから温かいスープに口付けた。









――――そして次の日、世界は一変する。



『――あなた達は選ばれました』


『これから”人狼ゲーム”を開始します』

『”人狼”がこの村に侵入しました』


『”人狼”は村人に成りすましています』

『”人狼”は毎晩誰か一人を殺します』


『”人狼”が全滅するまでこのゲームは終わりません』

『”人狼”の数が村人と同数になった時点で村人の負けです』

『村人が敗北した場合、村は全滅します』



『――それでは、ゲーム進行プロトコルを開始します』








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