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人形ノ奇劇 ー白の章ー  作者: みつば


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2


――ピリリリリリリリリリリリリ!!


「っ?!」


 耳をつんざくような機械音で、私は飛び起きた。


「な、何の音……?!」

「メア!」


 祖母の声に弾かれるように、私は寝間着のまま階段を駆け下りる。

 けたたましい警報音は今も鳴り止まず、鼓膜を震わせる不快な高音に思わず耳を塞いだ。


「分からないよ……外から聞こえるみたいだねぇ」

「一緒に行こう」


 祖母は足が悪く、普段は手すりのある家の中で過ごすことが多い。

 けれど今は、そんなことを言っている場合ではなかった。


 一瞬、自分だけで様子を見に行くことも考える。

 だが、この異常な状況の中で、唯一の家族を一人置いていくという選択はどうしてもできなかった。







「…………なに、これ……」


 祖母を支えながら音のした広場へ辿り着くと、そこには既に大勢の村人が集まっていた。


 先程まで鳴り響いていた耳障りな警報音は止んでいる。

 けれど、その場に満ちる不穏さは消えていなかった。


 皆の視線の先――広場の中央には、一枚の板が宙に浮かんでいる。


 淡く発光するそれは、水色にも緑色にも見える奇妙な光を放っていた。

 薄く、平坦で、どこまでも無機質。


 なのに、妙に存在感だけがあった。


「あ、メア!」

「カイ!」


 呆然とそれを見上げていると、聞き慣れた声が私を呼ぶ。

 振り返れば、カイが息を切らせながらこちらへ駆けてきていた。


「あれ、何?」

「分からない。俺もあの音で起こされて、家族と一緒に来たんだ」


 促されるまま視線を向ければ、少し離れた場所にカイの家族の姿が見える。

 見渡せば、この村の住人はほとんど広場へ集まっているようだった。


「カイ!」

「うわっ」


 どん、と勢いよくカイへ飛びつく影。

 視線を戻せば、ツインテールの少女が彼へしがみついていた。


「ユナ……!」

「怖いわ! 一体何が起きてるの?」


 涙目でカイへ抱き着く幼い少女――ユナ。


「メア」

「あ、セイル」


 その後ろから落ち着いた足取りで歩いてきたのは、眼鏡を掛けた少年、セイルだった。

 私達四人は、幼い頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染だ。


「は、な、れ、ろ」

「嫌」


 ユナがカイへべったりなのは今に始まった話ではない。

 いつものやり取りに少しだけ肩の力を抜きつつ、私はセイルへ向き直った。


「一体何が起こってるの?」

「分からない。僕らもあの音でここに集まったんだ」


 セイルは浮遊する板へ視線を向ける。


「僕が来た時には、もうあれが浮かんでた。でも、それから何も起きてない」

「そう……」


 再び周囲を見回す。


 困惑。

 恐怖。

 戸惑い。


 広場にはざわめきが絶えず広がっていた。


「メア、私は向こうで話を聞いてくるよ」


 祖母はそう言って、杖をつきながら大人達の集まる方へ向かっていく。

 幼馴染達が側に来たことで、少し安心したのかもしれない。


「…………」


 私は改めて、広場の中央を見上げた。


 水色のような、緑色のような。

 幻想的な光を放っているのに、その形はひどく無機質で、どこか機械めいている。


 魔法も機械も存在しないこの世界で。

 それはあまりにも異質だった。


「……っ」


 理解の及ばないものを前にして、背筋を冷たいものが這い上がる。


「メア」

「!」


 不意に、手を包み込む温もり。

 はっとして顔を上げれば、セイルが静かにこちらを見つめていた。


「大丈夫」

「セイル……」

「きっと、大丈夫だよ」


 優しく頭を撫でられる。


 私達の中では一番年上のセイルは、まだ子供のはずなのに、時々妙に大人びて見える。

 本を読むのが好きで、物知りで、誰より落ち着いていて。


 その穏やかな声を聞いているだけで、張り詰めていた心が少しずつ解けていった。


「……うん」


「セイル! 離せ!」

「あ」

「カイ」


 カイがセイルの手をぺしりと叩き落とし、いつもの調子で睨みつける。

 その姿にほんの少しだけ、空気が和らぐ。



 ――――その時だった。



『――条件を満たしました。ゲームを起動します』


 聞いたことのない声が、広場全体へ響き渡った。



「?!」

「しゃ、喋った!?」

「げぇむって何だ?」

「駒遊びとか、カードの類のことか?」


 響いた声は奇妙だった。


 男のようにも、女のようにも聞こえる。

 一人の声にも思えるし、何人もの声が重なっているようにも聞こえた。


 感情のない、機械的な音声。


 そして声と同時に、宙へ浮かぶ板へ文字が刻まれていく。


──────────────────

『全参加者を認識』

『説明フェーズへ移行します』

──────────────────


 ざわつく村人達など意にも介さず、音声は淡々と言葉を続けた。


──────────────────

『進行は停止できません』

『退出は許可されていません』

『特殊役職は初日の夜に割り当てられます』

──────────────────


「……何の話だ?」

「状況が分かる奴いるか?!」


 不安と困惑が、広場全体へじわじわと広がっていく。


 ――その時。


──────────────────

『それでは、“人狼ゲーム”を開始します』

──────────────────


「――っ?!」


 その単語に、私は思わず目を見開いた。

 人狼ゲーム。

 それは前の世界で、聞いたことがあるゲームの名前。


──────────────────

『この村には、毎晩人を殺す“人狼”が紛れ込みました』

──────────────────


「……っ!!」

「は?」

「ころ、す……?」


 凍り付く空気。

 村人達がざわめく中、それでも音声は止まらない。


──────────────────

『“人狼”は全滅するまで、一夜ごとに必ず一人を襲撃します』

『村人は“人狼”を全滅させるまで、この村から出ることはできません』

『生き残りたければ、村人は“人狼”に勝利しなければなりません』

──────────────────


「……は……?」

「そんなの、意味分かんねぇよ……」


 “殺す”。


 最初は、その言葉への困惑だった。

 だが、次々と突きつけられる異常な内容に、村人達は徐々に言葉を失っていく。


 受け入れたわけではない。ただ、理解が追い付いていなかった。


──────────────────

『このゲームには“昼”と“夜”、二つのフェーズが存在します』

『夜は“人狼”と役職持ちのターン』

『“人狼”は夜のみ、村人を襲撃します』

『役職持ちの村人も夜にそれぞれ行動を行います』

『役職の詳細は後述します』

──────────────────


 誰かが疑問を叫んでも、音声は一切反応しない。

 まるでこちらの存在そのものを認識していないかのように、説明だけを続けていく。


 そして次の瞬間。


──────────────────

『昼は村人のターンです』

『人に紛れた“人狼”を見抜き、投票によって処刑してください』

──────────────────


「?!?!」

「人に紛れた……?」

「処刑だって?!」

「ゲームだとしてもふざけてる!」


 とうとう怒号が飛ぶ。けれど、それでも声は止まらない。


──────────────────

『なお、“人狼”の勝利条件は村人と同数になることです』

『これは同時に村人側の敗北条件でもあります』

『敗北した場合、生存者を含め全員死亡となります』

『対して村人の勝利条件は、“人狼”を全員処刑することです』

──────────────────


「っ……!!」


 それでも続く説明と文章に、誰も言葉を返せなかった。


──────────────────

『ゲームの公平性を考慮し、以下の行動を禁止します』

『一、投票による処刑以外の殺傷行為』

『二、対象地域からの離脱』

『三、夜間における指定区域外での行動』

『違反者には罰則(ペナルティ)を執行します』

──────────────────


 その瞬間。

 嫌な予感に駆られて、私は反射的に村の外を見る。


「……あれ」


 遠く、村全体を覆うように。薄い半球状の膜が張られていた。

 淡く光る紋様が、空気の中へ浮かび上がっている。


「な、なんだよ、あれ……」

「まさか……閉じ込められてるのか?」


 一人の青年が青ざめた顔で走り出す。それに続き、何人もの村人が村の出口へ向かって駆けていった。


 けれど、私は動けなかった。

 理解が追い付かない。足が、震える。


 混乱する村人達など意に介さないように、それでも音声は説明を続けていた。


──────────────────

『“人狼”側にもルールは存在します』

『一、一日に殺害できるのは一人まで』

『二、襲撃は夜のみ可能』

『三、“人狼”同士は互いの正体を認識しています』

──────────────────


「で、出られねぇ!!」

「駄目だ、壁みてぇなのがある!」

「力ある奴は農具持って来い! 壊すぞ!!」


 先程走って行った村人達が、顔を引き攣らせながら戻ってくる。その様子だけで、十分だった。

 本当に。本当に、閉じ込められている。


──────────────────

『なお、役職の詳細説明については省略します』

『情報はゲーム終了時までこちらの(ボード)に載っているので、各自確認しておいてください』

──────────────────


 誰ももう、軽口を叩かなかった。

 先程まで夢現のように聞いていた説明が、少しずつ現実味を帯び始める。

 喉の奥が、冷えていく。


──────────────────

『この村の構成は全員で三十名。村人陣営が二十六名、人狼陣営が四匹です』

『――それでは生き残りを賭けて、ご健闘ください』

──────────────────


 ――プツッ。


 小さなノイズと共に、声が途切れる。


 静寂。

 だが、広場中央へ浮かぶ板だけは消えない。

 無機質な光を放ちながら、ただ静かに文字を刻み続けていた。





――残り――

村人:26名

人狼:4名

合計:30名

登場人物メモ

・メア(メアリス):前世の記憶持ち(17歳)。現在6歳。白髪紫目。

・祖母:メアと住んでいる。足腰が弱い。小さい系おばあちゃん。

・カイ:7歳の男の子。黒髪黒目。活発な子。最近少しメアが気になる。

・セイル:12歳の男の子。灰髪緑目。眼鏡を掛けた大人しい子。家の仕事を手伝っているため頭が回る。

・ユナ:8歳の女の子。赤毛緑目。カイが大好き。よく後ろを付いて回る。セイルの妹。

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― 新着の感想 ―
人狼一人当たり一日一人殺さなきゃいけないのかそれとも人狼っていうグループで一人なのかによって難易度が全然違うな。ついでに人狼側の殺さなかった場合のデメリットがないのはどうなん
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