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「それでは、会議を始めます」
「…………」
連日家に引きこもるのは祖母に却下され、私は今、会議室の一角に座っていた。
カイが死んでからというもの、何をする気力も湧かない。ただぼんやりと床を見つめながら、その場に身を置いているだけだった。
「まずは、占い師の結果を教えてください」
「……?」
どうせまた硬直した空気の中、誰も口を開けないまま会議が始まるのだと思っていた。だが、聞こえてきた言葉に思わず顔を上げる。
「占い師……?」
「ああ……メアは知らないんだったね。一昨日【占い師】の役職の人が名乗り出たんだよ」
反応した私に、隣でユナを抱きしめていたセイルが小声で教えてくれた。
二日前、疑われて投票されそうになった人物が、自らを占い師だと明かしたらしい。
なぜ今まで黙っていたのかと責められたようだが、役職が露見すれば人狼に狙われる可能性が高いと泣き出してしまい、村人達もそれ以上強くは追及できなかったという。
また、他に占い師を名乗る者が現れなかったこともあり、連日の成果の見えない処刑に疲弊していた村人達は、貴重な情報源である占い師を処刑しない選択をしたのだった。
「……ふうん」
占い師の方へ視線を向けるが、深いローブを被っており顔は見えない。そこで私の興味は尽きる。今はそんな事よりも、私の中ではカイの死の方があまりにも大きかった。占い師が本物だろうと偽物だろうと、あまり関心が持てない。しかし大人達は当然そうではなかった。
「連日占い師は“村人”しか見つけられてないんだろう」
「もしかして偽物なんじゃないか?」
「だが、それなら対抗で人狼が騙るんのでは?」
どうやら占い師はまだ一度も人狼を見つけられていないらしい。そのせいで村人達の中にも疑念が広がっているようだった。
無理もない。グレンの件で役職者を処刑し、それで人狼を吊れたと思っている人間は多い。だからこそ、彼らは占い師にも疑いの目を向け始めていた。
しかし皆の予想とは裏腹に、占い師は声高らかに宣言する。
「いいえ皆さん! 今日、私は黒――人狼を引き当てました!!」
その力強い言葉に、疲れ切っていた村人達の瞳へ一気に希望が灯る。
「?!」
「本当か!!」
「誰なんだ!」
先程まで疑っていたことなど忘れたかのように、皆が占い師へ視線を向けた。
狼は誰なのか。どうか教えてくれと縋るように。
だが占い師は、そんな反応に優越感を覚えているのか妙にもったいぶっていた。
相変わらず姿はよく見えないが、声の高さから女性のようだ。
そして何故だろう。その声にはどこか聞き覚えがあった。
「ふふふ。そんなに焦らないでください。もちろん皆さんにも教えますとも」
妙に芝居がかった話し方だなと思いながら聞いていた、その時だった。
「か弱き村人達を蹂躙する狡猾で醜い人狼は――」
一拍。そして占い師は勢いよく腕を突き出した。
「お前だ!! ――セイル!!」
その瞬間、誰も予想していなかった名前に、部屋中の人間が一斉にこちらを振り向いた。
「!!!!」
「?!」
「!!」
まるで音が聞こえたのではないかと思うほど、揃って。大人達の視線が、セイルへ突き刺さる。
そして占い師の言葉を頭の中で反芻したのか、一拍遅れて全員の表情が変わった。
「………………ぇ?」
だが、当の本人は突然の出来事に呆然としていた。
無理もない。私にここ数日の経緯を説明していた最中、いきなり人狼だと名指しされたのだ。その上、子供達は今まで会議には同席しても、一度たりとも議論に参加したことはない。
それが突然、輪の中心へ放り込まれた。
まだ十二歳のセイルが。
「……ぇ、あ……。ち、違うよ! セイルが人狼のはずない!!」
ハッとして、私は慌ててセイルを背に庇った。
突然のことで固まってしまったが、この状況はまずい。
「だって……だって! 昨夜死んだのは、……っ、カイ、だったんだよ……?! 仮に人狼だったとしても、あんなに仲の良かった友達を襲うわけないじゃない!」
「……メア」
カイの名前を口にするだけで胸が痛む。それでも弁明しなければセイルが危ないと思った。感情を飲み込んで必死に言葉を絞り出す。
だが大人達の目は、あまりにも冷たかった。
もう子供だからと守る余裕はないのだろう。誰も口には出さない。それでも、その表情は雄弁だった。
――占い師が黒だと言った。
ならセイルを処刑したい。……そう、物語っていた。
「でも、人狼が勝てば村は全滅……村人は皆殺しになる」
「……そうだ。友人だとか家族だとか、関係ない」
「そもそも人を殺す化け物に、そんな感情ないだろう」
ストン、と。感情を失ったような顔で大人達が私達を見下ろしている。
その瞬間、理解した。感情論では駄目だ。もう彼らは占い師の言葉を信じている。……皆セイルに投票すると決めたのだ。
この空気を覆すには、彼ら自身が納得する理由を示すしかない。
「……っ」
出来るだろうか。私なんかに。
転生したと言っても、私は特別頭が良いわけじゃない。何かに秀でているわけでもない。同世代より少し精神年齢が高いだけの、普通の学生だ。
――でも。
「……そもそも、何故皆さんはその占い師が本物だと思っているんですか?」
「?!」
小さく息を吸い、背筋を伸ばす。
「……メア」
「メア」
背後ではセイルとユナが震えている。大人びているが、彼らはまだ十二歳と八歳の子供だ。
そして――私の勘だけれど、セイルは人狼じゃない。
「何の根拠があって……!」
「……グレンが呪術師だと名乗ったあの日……、皆さんは偽物の可能性を疑いましたよね」
私は占い師を真っ直ぐ見た。
「投票が行われたのはこのゲームが始まって六日目。そして彼女が占い師だと名乗ったのは四日目。つまりその時点で――ペナルティで亡くなった方も含めれば、既に十三人が亡くなっています」
意識的に数字的な根拠を出す。声は子供特有の高い声をなるべく低く調整し、努めて落ち着いたテンポでの会話を意識して。
するとそれまで熱くなっていた村人達が、少しずつ静かになっていく。
「三十人中、十三人です。三分の一以上が亡くなった後に名乗り出た占い師を、どうして皆さんは無条件に信じられるんですか?」
「…………」
冷静になったのか、それとも考えたくなかった可能性を突き付けたせいか、大人達が黙って耳を傾けているのが分かった。
「ちょっ、何で黙るんだい?! 私は本物の占い師だよ!」
黙り込む村人達に占い師を名乗る女は堪らなくなったのか、人込みを掻き分けて私の前に出てくる。そこで初めてその顔が見え、私は驚愕した。
「レナ、おばさん……」
思わず声が漏れる。彼女は両親のいない私を気に掛け、子供出来る仕事を回してくれた人だった。
本当は私なんか雇わなくてもいいのに、それどころか野菜や小麦を分けてくれることさえあった。
――そんな人が。
「メアか。まったく、今まで食べさせてやった恩を仇で返そうとしやがって」
いままで向けてくれた温かさはそこになく、今は私を忌々しそうに睨んでいる。
「そこをどきな。メアはそいつを庇いたくて適当なことを言ってるだけかもしれないが、セイルは人狼なんだ」
「……っ」
それが今、私を忌々しそうに見下ろしていた。
メアも村人も人狼ゲームをしたことが無いので勝ち筋とかは分かりません。
村の中に何人か頭が回る人がいる感じです。




