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「大体、私を偽占いと主張するが、そいつが人狼じゃないという根拠はあるのかい?」
「え……」
言葉に詰まる私を見て、レナは鼻で笑った。
「どうせ友達を守りたくて屁理屈をこねているのだろう。でも私を疑うなら、セイルが人狼じゃない根拠を提示して欲しいね!」
「そ、そうだな」
「レナの言う通りだ」
彼女の言い分は一理ある。だから必死に思考を巡らせるが、すぐに提示できる材料が私には思いつかない。
何も言えなくなる私と、自信満々のレナ。その対比を見て、村人達は再び彼女の意見に傾き始めた。
「セ、セイルの体格じゃ、今までの被害者の傷の大きさと合いません……!」
「人狼は四匹いるんだ。セイルはまだ手を下していないだけかもしれないじゃないか」
「セイルがカイを、友達を殺すわけないです……!!」
「そんなの、自分が『人狼じゃない』と主張する絶好の言い訳だろう」
突然の状況に放り出され、その場で必死に思いつく反論を絞り出す。カイの死すら理由にして、どうにかセイルが人狼ではない理由を言うが、その全てをレナにすげなく反論されてしまう。
それでも諦めるわけにはいかない。必死に考え続ける。投票までの時間は多くないのだ。
それまでに皆の意見を変えなければならない。
そうしないと。そうしないと、セイルが……!
「……っ、…………っ」
「へえ」
それでも、これだ! と状況をひっくり返せる情報がなく泣きそうになっていたところで、レナがニヤリと面白そうに笑った。
「……メア。随分、セイルを庇うじゃないか」
「!」
「そういえば、グレンの時もそうだったねえ?」
――ざわっ。
「…………っ!!」
レナの一言に、それまで静観していた大人達が騒めく。
「私の件はともかく、グレンの方は確実に偽呪術師だったよねえ? 真ならグレンが死んだ時にもう一人誰かが死んだはずだ。だけどそれは起こらなかった。つまりグレンは真の呪術師じゃなかった」
「…………」
「その後メア、お前は三日間寝込むほど酷く落ち込んでいたねぇ」
「……グレンさんは、死にたくなくて嘘を吐いていただけかもしれないじゃないですか。村人が役職を騙ることは、ルール違反じゃないです」
「でも村に利がないよね」
レナはすぐさま言い返した。
「もし本物の呪術師がいたら? まあ結果的に本物はもう死んでいそうだけど、もしグレンが開示した時点で本物も対抗に出ていたら? 仮にグレンが役職無しの普通の村人だったとしても、真呪術師と私達からしたら見分けがつかない。疑いがある限り、どちらか、あるいは両方を処刑しなければならなくなる。そうしたらその分、人狼の処刑が遅れる。夜の襲撃回数が増える。だって村同士で潰し合っているんだから。そういう理由があるから、村人が役職を騙るのは村側にとって利が無いんだよ」
「それは……」
「ねえ、メア」
ずい、とレナが腰を折って、私の顔を間近で覗き込む。
「あんたも、人狼なんじゃないのかい?」
「?!」
今度は、私に村人達の視線が突き刺さった。その圧迫感に息を呑む。
「グレンは残念ながら占っていなかったから人狼か村人かは分からないけど、セイルは間違いなく黒――人狼よ。メアは今日……私が占ってあげる。きっとセイルと同じ黒が出ると思うけど。ああ、狩人は私が夜に人狼から襲われないように守ってね」
「……! 違、私はっ……!!」
狩人は私。人狼なんかじゃない。
そう言おうと口を開く前に、自分へ針のように突き刺さる視線の多さに気付き、硬直した。
「…………」
「…………」
「…………っ」
お前が皆を殺したのかと言わんばかりの、大人達の殺気交じりの冷たい目。その視線は、私を刺し殺しそうなほど鋭かった。
あまりの殺意を前に、私は動けず言葉も出せなくなる。
「……ああ、もう人狼だと分かっている子に私の占いを使うのは勿体ないわね。今日は黒が確定しているセイルじゃなくて、メアを処刑しましょうか」
「!」
「セイルは明日にしましょう。そうしたらグレンとメア、セイルで三匹人狼が吊れたことになるわ。あとは残り一匹を私の占いで探せばいい」
投票先に自分の名が挙がり、目を見開いた。急展開過ぎて目が回る。
「だがメアは黒が確定していないのに……」
「逆に言えば、私の占いで白、村人と評価された人は絶対に村人なのよ。その人達に投票しなければ、今後、私達の勝率は上がるわ。占い先が一日一回だから全員は占えないけど、少なくとも絶対に村だと分かっている人が処刑されることは無くなるのだから」
「…………」
大人達の何人かは、まだ明確に黒だと出ていない六歳の子供に投票するのは気が引けるらしく、難色を示していた。しかしレナがそれ以上のメリットを提示したことで、黙り込む。
きっと連日の結果の分からない投票は、想像以上に精神を削っているのだろう。
レナが偽の占い師である可能性を示しても頑なに見ようとしないのは、彼らはもう限界なのだ。
だが、私は狩人だ。私は無能で、まだ一度も人狼の襲撃を防げていない。それでも私が生きている限り、夜の襲撃では誰かを守れる可能性がある。
空から降り注ぐ処刑の光から逃げられないように、夜の襲撃もまた、強制的に定位置で眠らされる私達には自力で逃れる術がない。
唯一防げるのは、狩人の力のみなのだ。この力は、自分のためには使えない。だが、その代わりに誰か一人を確実に守れる。
私は祖母に視線を向けた。今日は人の動きが多かったためか、祖母は杖を誰かに蹴られ、遠くへやってしまったようで立てないでいる。こちらにオロオロと視線を向けているのに、杖が無いせいで動けない。
でもそれでいい。今、祖母が私に駆け寄れば、疑いは彼女にも向かうだろう。
たった一人の私の家族。親のいないこの世界で、小さい頃からずっと大切に育ててくれた人。
私はずっと、彼女を狩人の力で守っている。そして、これからも祖母を守りたい。
――だけど。
「…………」
静かに瞳を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、カイの亡骸だった。
彼に掛けられた布は最後まで捲ることが出来なかったから、私が思い出すカイの姿は、昨日別れた時の笑顔のままだ。
そして私は、後ろに庇っているセイルとユナをそっと振り返る。
ユナは怒鳴り合う大人達を怖がっているのか、未だセイルの腕の中で震えていた。
セイルはじっと下を向いて動かない。
――ごめんね。
私の舌戦では、自分の潔白を証明できない。セイルの弁護も出来ない。
むしろ庇えば庇うほどレナの正当性が固まり、セイルが不利になっていってしまうような気がした。
……今日、私は死んでしまうけど、何とか一日だけ稼ぐから。
どうかセイルは、自分を守る理由を考えて。
彼は十二歳と幼いが、他の子と違ってかなり成熟していて賢い。私が考えるより、もっと有効な手を思いつくだろう。
……いや、それに賭けるしかない。
「…………」
おばあちゃん、ごめんなさい。
もう今日から守れないや。
終わりを受け入れて、最後ににっこりと祖母の方を向いて笑顔を浮かべると、彼女は目を見開いた。
「じゃあ少し早いけど投票を」
「――待って」
決着がついたような空気の流れる会議室でレナが言い切る前に、少年特有の高めの声が割って入った。
対抗…役職開示があった時にいや自分がその役職だ!と名乗り出ること。
黒…人狼
白…村人
村の役職騙りは状況とタイミングによってはありですね…。




