12
「……っ」
きゅ、と目を瞑る。いつかは崩れると思っていた。極限状態なのだから当然だ。それでも、生まれ育った村だからこそ信じてもいた。大人達はとうとう、命の天秤を、選択を。戸惑わなくなったのだ。
それでもなお、天は私達を試すのか。
投票で処刑が決まったグレンさんは外へ連れて行かれ、空から降り注いだ光に脳を貫かれて倒れたが……誰かが一緒に死ぬことはなかったという。
「つまり、グレンは【呪術師】じゃなかった。……おそらく、人狼ね」
「…………」
「役無しの村人が死にたくなくて自分を呪術師だと偽った可能性もあるけれど、人狼の可能性の方が遥かに高いわ」
グレンさんが呪術師だと開示した後、誰も自分が呪術師だとは名乗り出なかった。あの時は突然のことで、皆その瞬間は、呪術師であっても投票される可能性があるとまでは考えが及んでいなかったはずだ。だからもしグレンさんが偽物なら、本物の呪術師が出てきてもおかしくない。
けれど誰も出なかった。そのことから、グレンさんは本物の呪術師だと判断されたのだ。
だが実際には、グレンさんが死んでも誰も道連れにはならなかった。
……つまり、グレンさんが本物の呪術師ではなかったことだけは確定した。
ではなぜ、そんな嘘を吐いたのか。本物でもないのに自分を呪術師だと偽った。それは処刑を逃れるために役無しの村人が嘘を吐いた可能性もある。
だが、それよりも人狼が騙った可能性の方が……遥かに高い。
「……私を含めて、村の人達はみんなグレンは人狼だったと思っているわ」
「……グレン、さん」
投票が始まってから、今日までに既に十人以上が犠牲になっている。その中に本物の役職持ちがいても何もおかしくはない。実際、占い師も、霊媒師も、灯守も、誰一人名乗り出ていない。
そんな中、グレンの役職騙りを見て彼は人狼だったと言う人は多い。
……正直、私もそう思っている。
「あんなに、村の為に頑張っていてくれたのに……」
「メア……」
「全部、嘘だったの……? 私は騙されてた……??」
泥だらけになって、手に豆を作る私からスコップを取り上げ、日が暮れるまで一緒に出口を探してくれた。ずっとしゃがんで行う作業は想像以上の重労働で、グレンさんも汗を流していた。結果が出なくて申し訳なさそうに見上げる度に、私がが気にしないよう笑ってくれていた。
……とても、そんな人が人を殺す人狼には思えなくて。
でも状況的には、人狼の可能性の方が高いという結果がある。
「責めればいいのか、信じればいいのか……分からないの」
「メア……」
あの気遣いが、あの行動が。私には到底嘘だとは思えなくて、心の奥に淀みが溜まっていく。
「メア」
沈んでいく思考を止めるように、私の手を祖母のしわしわの、でも温かい手の平が包んだ。
「おばあちゃん」
「厳しいことを言うけれど、割り切りなさい」
「!」
いつも優しい祖母の、厳しい言葉に体が固まる。
「村の人達は今、ほとんど全員がグレンを人狼だと確信している」
「でも……占い師も霊媒師もいない今、グレンさんが人狼だと百パーセント確定したわけじゃない」
「それでも割り切りなさい」
「なんで……」
いつも無条件に私を受け入れてくれた祖母が、反論は許さないというように私を真っ直ぐ見つめている。
それが悲しくて、私は反抗した。
「それでも、グレンが嘘を吐いたのは確実よ」
「……っ」
「今、この状況でグレンを擁護したら、次はメア……あなたが疑われるわ」
「…………」
「まだ子供達は投票先から除外されている。けれど、このまま人狼を見つけられずに人数が減っていけば……きっとあなた達も参加せざるを得なくなると思うの」
「!」
ぎゅ、と祖母の手に力が籠る。
「新しい村長は昨日処刑されたわ」
子供達を処刑先から守っていた大人が、とうとう昨日選ばれた。
理由は、会議を先導しているのが怪しい――誰かがそう言った一言から疑念が広がり、票が集まったらしい。
「今の会議に、村長のようなリーダーはもういない。皆疑心暗鬼になっていて、変に目立てば疑われる。……きっと、そう遠くない内にあなた達子供も会議に参加させられることになるわ」
「おばあちゃん……」
「今、この村はまともじゃない。死への恐怖がそうさせるの。それに加えて毎日自分達の手で処刑する相手を選び続けるのだから、感覚も麻痺してくるでしょう。……とても理不尽だけど、仕方がないことなの。でも、私はあなたを死なせたくない」
「……うん」
「グレンは人狼だと皆が結論付けた。だからそれには反論はしないで。そうしたらあなたに疑念の目を向けることになる。人狼を庇うのは人狼ではないか、と」
「…………」
「まだメアは幼いから分からないかもしれない。でも聡いあなたなら、分かるでしょう?」
「…………」
「お願い。お願い、……私の宝物……」
「……おばあちゃん」
普段穏やかな祖母の声に、どこか懇願が混じっているように聞こえた。彼女の気持ちも理解出来る。けれど、まだこの状況を割り切れない私もいる。
それがどこか苦しくて、悲しくて。
そっと頭を祖母の胸に埋め、どくん、どくんと響く心音にしばらく耳を傾けた。
――けれど、このゲームは私達にどこまでも冷酷だった。
「………………うそ、…………でしょ……」
大人達が何かを話しているのに、何も聞こえない。
だけど不思議と、ユナの天を裂くような泣き声だけが頭の中に響いていた。
「カイが……しんだ…………?」
昨夜の犠牲者は――カイだった。
「メア……」
翌日、幼馴染達に励まされたのだからいつまでも引き込むのは止めようと家を出ると、冗談だと思うような……いや、冗談であってほしい内容を告げられた。
脳が現実を否定し、幼い体はその衝撃に耐え切れないのか、ふらふらと揺れる。
祖母が私の名を呼ぶが、返事が出来ない。
だって、なんで、どうしてカイが。
今まで一緒に笑った彼の顔を思い出す。
会う度に明るく笑って挨拶をするカイ。
無理矢理散歩に連れて行こうと悪だくみをしているいたずらな表情。
時々真っ赤になった後、照れ隠しのようにはにかむ顔。
信じられなくて、どこか現実味がなくて。
震える足で向かったのは、布を被せられた小さな膨らみだった。
「あ、あ、ああ……」
ふらふらと近付く。けれど、それ以上足が進まない。
とてもじゃないが、その布をめくって確認することなんて出来なかった。
――わぁあああぁぁああん!!
遠くから、未だ響くユナの慟哭。彼女はカイにとても懐いていた。多分、カイはユナの初恋。いつもカイの後ろを付いて回り、嬉しそうに笑っていた姿を思い出す。
普段は大声を上げないユナが、今は村中に響く声で悲痛に叫んでいた。
「……っ」
それにつられたのか。それとも、目の前の現実をようやく理解したのか。
とうとう私の瞳から涙が零れ落ちた。
亡骸を前にして、体が現実を理解してしまったのだろう。
一粒溢れた途端、堰を切ったように涙が流れていく。
「カイ、カイッ、……カイ!!」
大人達が囲む中心へ向かい、動かない布の塊にしがみつく。
声が枯れるまで。大人達に引き離されるまで。……私達は泣き続けた。
だが、このゲームは残酷だ。
どれだけ不条理でも、どれだけ救いの手を願っても。
決して逃がしてはくれない。
それはきっと。神にとってちっぽけな人間の願いなど、取るに足らないものだから。
――この日から、私は議論に参加することとなる。
なぜこんなことをさせられているのか。
なぜ自分達が選ばれたのか。
……理由など分からないまま、私達は。
――神に望まれたから、私達はただその舞台で踊り続けるだけなのだ。
――残り――
村人:??名
人狼:?名
合計:12名
メアは3日会議に行ってないので大幅に人数が減ってます。




