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人形ノ奇劇 ー白の章ー  作者: みつば


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10



「私は、グレンが怪しいと思います」

「なっ……!!」


 あの後グレンさんとルークスさんと別れ、それぞれ別行動を取った後、会議の時間となった。今や恒例となった村長宅に集まり、重苦しい空気の中で議論が始まる。

 そして誰もが口を閉ざす中、一人の女性がおずおずと手を上げて述べた言葉がそれだった。


「ちが……もごっ!?」


 反射的に声を上げようとした瞬間、近くにいた大人に口を塞がれた。『子供は黙っていろ』という意思がありありと伝わってくる。こんな時ばかりは、簡単に抑え込まれてしまう小さな体が恨めしい。


「ここ数日、壁際でこそこそ何かを企んでいるようでした」

「たくら……?! 俺はやましいことなんてしてない!」

「何かしていたというのは事実か?」

「それは……っ! 本当だけど!」


 事実だ。だが、それは脱出口がないか探すための行動だった。村のために、みんなが生き残るために。

 上手く弁解すればいいのに、グレンさんは昔からそういうことが苦手だ。言葉を飾らず、思ったことをそのまま口にしてしまう。だからこそ信用されてきた人なのに、今の村ではそれが裏目に出てしまった。


「まさか……あのグレンが?」

「いや、それは……ないだろう」

「でも他に怪しい人はいないよね……」


 昨日もそうだった。一度注目が集まってしまうと、人はその人物に疑念を抱いてしまう。恐怖に思考が支配されているからか。それとも、新しい容疑者を挙げる勇気がないからか。

 仲間内の処刑対象を決めるのは想像以上に苦しい。その証拠に、毎回最初の一言が出るまで長い沈黙が続く。


 誰も人の死の責任など負いたくないのだ。好き好んでこのゲームに参加しているわけではない。


 ただ生き残りたい。

 けれど、そのための生贄を自分の手で選びたくはない。


 だから一度誰かに疑いが向けば、人はそこへ流されてしまう。


「一つよろしいでしょうか」

「何だ? ルークス」


 疑念の輪が広がり、青い顔をしているグレンさんを弁護しようと、抱えられた腕から逃れようと滅茶苦茶に暴れていたところで、一人の青年が静かに手を挙げた。ルークスさんだ。


「グレンの不審な行動については俺も昨日聞いています。彼はどうやらこの村から脱出方法がないか探していたようです」

「……何?」


 この異様な状況の中でも冷静な態度で話す彼に、村長は先を促した。


「そこの子供、メアリスも一緒に確認しています」

「!」


 ルークスさんに視線を向けられ、私を抱えていた腕の力が緩む。その隙を逃さず飛び降りた。


「はい!」


 ほとんど叫ぶような勢いだった。


「ルークスさんの言う通りです! 私が昨日土を掘っていたらグレンさんが手伝ってくれたんです! グレンさんは私と村のために頑張ってくれていただけです!!」

「土を掘る……?」


 今度はグレンさんが口を開く。


「……村を囲っている壁って地上にしか見えないだろ。だから地面を掘り返せば、地下には続いてないかもしれないと思ったんだよ。だから地面に抜け穴がないか、メアと一緒に探してた」

「ということです。アマンダ、理解しましたか?」

「!」


 最後にルークスさんが悪い笑みを浮かべながら、最初にグレンさんへ疑いを向けた女性へ視線を向ける。

 

 その瞬間、場の空気が変わった。


 私はただ知っている事実を必死に話しただけだ。そこへグレンさん本人の説明と、ルークスさんの誘導が加わる。

 すると先程までグレンさんへ向いていた疑いの視線が、今度は女性へと向き始めた。


「……まさか、君か?」

「え?! な、違います!!」

「でもグレンは村のために動いてくれていたのだぞ? それを怪しいと言うということは、君にとって不都合だったのでは……?」

「そんな無茶苦茶な! こじつけです!!」


 途端に集まる彼女への疑いの視線。こうなれば今日の最多票は彼女になるだろう。弁明し、村の人たちを説得出来ない限り。


「あ……」


 グレンさんを助けるためとはいえ、その流れを作る一端を担ってしまった私は、顔を青くしながら思わず手を伸ばした。


「こっちにおいで」

「あ、や……!」


 しかしもうこれ以上会議に参加すべきでないと判断されたのか、子供たちの面倒を見ていた大人に再び抱き上げられた。


「子供たちは別室に行きましょう。村長、構いませんね?」

「ああ」


 軽い体は簡単に宙へ浮き、そのまま部屋の外へ運ばれる。隅で小さくなっていたカイ、セイル、ユナと共に別室へ押し込められ、扉には鍵まで掛けられる。


「そんなに私を責めるなら私も言いますけど……!!」

「子供たちは別室に行きましょうね。村長……よろしいですか?」

「構わん」


――バタン


「…………」

「……メア」


 心配そうにセイルが私の名を呼ぶが、それに応える余裕はなく、ただ茫然と閉じられた扉を見上げた。

 もう議論の続きは聞こえない。ただ静かな時間だけが流れていく。


 ……あの人、私のせいで選ばれてしまうのだろうか。


 罪悪感に押しつぶそうになりながら、その場に置かれていたぬいぐるみを抱きしめた。そして、ただ時間が過ぎるのを待つ。


 ――けれど、結論は私の想像していたものとは違った。





「……え、……………………グレンさんが、処刑された……?」



 その日選ばれたのは、あの女性ではなく……。

 ――グレンさんだった。







――残り――

村人:??名

人狼:?名

合計:19名

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