第五話 ギルドへようこそ?
「ソウマ!起きて!朝だよ!」
はっきりとしない意識の中で、聞き慣れない声が頭に突き刺さる。
誰が俺を起こしている?と思ったが、すぐに理解した。
ノアか。
そこで、俺は昨日のことを思い出す。
「記憶は戻らずじまいか」
寝て起きて記憶が戻ってたらよかったんだが、そんなうまい話はないらしい。
見慣れない部屋を、未だ目覚めない眼でぼーっと眺めていると、
「ソウマくん起きてる?」
「……うん」
「眠そうだねー。入るよー」
銀髪の美少女が部屋に入ってきた。
可愛い姉妹に起こされる日も悪くないな。
なんて、らしくないことを考える。
「イリア、おはよう」
「おはよ!ソウマくん、朝弱いんだね」
「あぁ……。まだ眠いよ」
「ノアが朝ごはん作ってくれたよ!食べよう!」
イリアが強引に俺の手を取ると、食卓まで連れていった。
台所に立つノア。ノアは制服だ。見たところ初等っぽいが。
「ノア、おはよう」
「おはよう、ソウマ。先座ってて」
「悪いな」
テーブルに並んだのは、バターロールと昨日の残りのシチュー。
そしてミルク。良い朝食だ。
3人で、いただきますを言う。
ノアはこの後学校だからか、どことなく食べる速度が速い。
「ノアは何歳なんだ」
「11だよ」
「今日は小学校か」
「そ。」
うーむ。一晩明けて、ノアの警戒心は少し戻ったらしい。
すこしそっけない。
「ノアは人見知りだから」
イリアがほほ笑むと、ノアが意地を張ったように
「違うよ。眠いだけ!」
ミルクを飲みほした。
ノアを玄関で見送ると、俺たちも朝の支度をする。
といっても、俺は役に立たないので、邪魔にならないようコーヒーを飲むだけだが。
洗濯物を干すイリアを眺める。
そういえば、イリアは今日も、昨日と同様に制服だ。
「イリアのその服は制服だろ? 学校はないのか?」
出会ってから気になっていたが、イリアはガンホルダーやそこかしこにベルトのついた制服──改造制服を着ている。
「今日は休むよー。ソウマくんをギルドに連れてかなきゃだめじゃん」
「そう言われるとなんも言えん」
あははー、とイリアは笑う。
「気にしないで。休むなんてしょっちゅうだからさ」
「じゃあなんで制服なんだ?」
学校に行かないなら、制服である必要はない。
自然な疑問のはずだ。
なんなら、改造する必要もないだろう。
イリアはきょとんとした顔をした。
「え、かわいいでしょ? 制服」
くるっとその場でターンをする。
スカートがひらりと円を描いた。
「まぁ、大事だな」
「ソウマくんは理解が早くて助かるよー」
イリアはガンホルダーに白銀の銃を収める。
そして昨日は装備していなかった刀も、制服のベルトに差した。
そこは疑問に思わない。
ハンターともなれば、それぐらいの武装はするのだろう。
緊張してきたな。
トレントを思い出す。
俺があんな魔物と戦うのか?
喧嘩もしたことない俺にそんなことが出来るのか、と思い始める。
けど……ここまできて俺は何を言っているんだ。
イリアをチラッと見る。
俺はあくまで手伝いだ。大船に乗った気持ちで行こう。
静かにそう意を決すると俺は立ち上がった。
街に出て、ギルドへと到着する。
イメージと違わぬ、酒場風の古めかしい建物だ。
「今日は快晴、狩日和ー!」
イリアが謎の歌を歌いながら元気よく扉を開ける。
中は活気づいていた。
十人ほどのハンターらしき人間がいる。
受付に依頼板、食事処、待合所。
ざっと見回した限り、そんな造りだ。
木造りの建物だが、照明は機械感。
相変わらずギャップがある。
何人かの視線がこちらへ向く。
聞き取れるのは、「イリアだ……」「イリアが男を連れてるぞ……」といった声だ。
「なあ、イリアはひょっとしてハンターの中じゃ有名なのか?」
たまらず俺は声をかけた。
「まーねー。私、結構強いんだよ」
特に気にした様子もなく答える。
囁き声は止まらない。
「なんだあのひょろそうなやつ」
「ソロのイリアが? 彼氏か?」
だんだん肩身が狭くなる感覚がした。
「登録が必要なんだろ?とりあえず受付に行ってくるよ」
「おっけー! まってるよー」
俺はなんとなくイリアから距離を取った方がいい気がして、受付へと足早に向かった。
「おはようございます!はじめましての方ですかね。エンテル中央ギルドへようこそ!私は受付のフェルリア・ノクティスと申します。ハンターの登録でよろしいですか?」
フェルリアと名乗った受付嬢が丁寧かつ元気よく挨拶をしてくれる。
ウェーブがかったブロンドの髪を肩までおろした綺麗な女性だ。
「はじめまして。ハンターの登録でお願いします」
「かしこまりました。……イリアさんのお連れさんなんですね」
そうですね、と俺は肯定する。
「あのイリアさんが仲間を連れてくるなんて思いませんでした」
ここまで言われるということは、おそらく、イリアはこのギルドじゃ有名なソロハンターということなのだろう。
しかも、今まで誰とも組んだことがないっぽい。
確証はないが、おそらく当たっている。
「さて、ハンター登録に際して、こちらの書面に目を通していただくことになります」
目の前に出されたのは異国の文字でつらつらと書かれた紙。
全てが意味不明。
文字なんだろうな、と判別できるものが並んでいるだけ。
教科書で初めてロゼッタストーンを見た時と同じ気持ちになった。
「どうされました?」
言葉に詰まる。
ここで悩んでいても仕方ないと思うが、なかなか踏み出せない。
喉の奥からかろうじて言葉を絞り出した。
「……文字が読めないんです」
「文字が読めない!?」
あまりの驚きに受付嬢が声をあげる。
しまった、とした顔つきになるが、手遅れ。
俺の背後からはどよめきが湧いた。
受付嬢が軽く咳払いをする。
「……失礼しました。では読み上げた方がよろしいですかね?」
「お手数ですが、お願いします……」
なんという恥。
後ろを振り向きたくなさすぎる。
一刻も早く文字の勉強をしなくては。
「ギルド。正式には魔導具企業及びハンターによる組合ですね。
ハンターは魔物を狩り、その遺体をギルドに納品することで、お金、もしくは企業から特別な武器を受け取ることができます。」
ここまではイリアから聞いた通りだな。
「魔物を討伐する理由ですが、未だ衰えることのない、人類への脅威の排除はもちろんです。しかし利用価値があります。それが『魔力器』です。『魔力器』はご存知ですよね?」
俺はもちろん即答できない。
常識を知らないことの社会での生きづらさを、ありありと感じる。
まあ今更だ。知らないことが一つや二つ増えたところで、もはや驚くこともないだろう。
「知らないですね」
受付嬢は一瞬だけ固まるが、さすがプロ。
では、と続ける。
「そうですか。『魔力器』というのは、魔物にのみ備わる特殊な生体機器です。魔力を持っており、魔導具の製造はもちろん、私たちの生活に必要な『灯り』や『熱』、『火』などは、この魔力器の模倣品である『変換器』によって成り立っています」
「つまり、私たちの暮らしには欠かせない貴重な資源となるわけです。分かりましたか?」
「分かりました」
この世界の構造が分かってきた。
俺の見立ては間違っていなかったらしい。
この世界の道具や機械は「魔力」で動いている。
しかし、俺たちのような非魔術師では魔力を生み出せない。
だから魔物が持つ「魔力器」から賄っているのだろう。
この建物の照明も、まさに「魔力器」(厳密には変換器だが)の賜物というわけだ。
「詳しくはイリアさんに聞いてみてください。彼女は魔力器を使用した特別な魔導武具をお持ちですから。さて……」
受付嬢はカウンターの下から紙を取り出す。
「ここに名前と年齢、その他必要事項を記入してください。ハンターライセンスの発行に必要ですから。まさか……文字も書けませんか……?」
受付嬢がさっきのことがあってか、気を遣って小声で聞いてくれる。
さすがに惨めになってきたな。
「代筆してもらうのは?」
「うーん。まあ、いいですよ。ハンターライセンスはそこまで公的な効力を持つわけではありません。単純に、魔物を狩る許可証であり、どこのギルド所属かを示すだけです」
「少し待っててください」
俺は紙を預かると、イリアの元へ向かう。
その間も、好奇の目は俺を離さない。
「イリア。すまん、頼みがある」
「なにー? なんでも言ってみなさい」
「いや、大したことじゃない。これを書いて欲しいだけだ」
俺はライセンス発行に必要な書面をイリアに渡す。
「なるほど!お姉さんに任せなさい!」
イリアは、近くのハイテーブルで書き始める。
この間、俺は手持無沙汰になるわけだが、相変わらず周囲の視線が痛い。
遂には声をかけられた。
「イリア、あんたまた学校さぼったの?留年するよ?んで、『これ』なに?」
背の低い金髪の少女が、俺を指差す。
イリアが顔も上げずに反応する。
「私の仲間をこれ呼ばわりしないでくれる?ミスティ」
「そうですよ!イリアさんには何か考えがあるんでしょう!きっとこの方には類まれな才能があるんですよ!」
新しい声。
金髪少女──ミスティの後ろにいた黒髪メガネの少年が早口でまくし立てた。
二人とも、俺とそう変わらない歳に見える。
特筆すべきは、ミスティは自分の背丈をゆうに超える大斧を背負っていることだ。
メガネの少年は特段変わったとこはない。逆に言えばメガネなだけだ。ミスティの隣でニコニコ笑っている。
「才能ぉ? あったとしても、読み書きもできない時点でたかが知れてるでしょ。あんたどうしたの?……そんな奴じゃなかったはずよ」
「よくも知らないくせにうるさいなあ」
「あんたも反論ぐらいしたら?なにからなにまでイリアの世話になってるの?」
ミスティは俺に呆れたような調子で言葉を投げる。
「……正直、反論の余地なんてないな」
まったくもってその通り。
多少の恥はあっても、俺にはその気持ちが強かった。
紙面に目を向けたままイリアが少し笑う。
「はぁ!?こいつ……!」
ミスティが何か言いかけた時、
「こいつの言うことには俺も同意だな」
「……!?ウィル……!」
「ウィルさん!おはようございます!」
またもや、新しい人物の声。
金髪少女とメガネ少年のわきから、長身の男がぬっとあらわれた。
茶髪を後ろに結った、三十前後に見える男だ。
「なぁイリア。そいつマジか? 文字も怪しい、見てくれはただのガキ。いくら焼きが回ったって、そんなやつ拾ってくることはねえだろ」
イリアは顔も上げない。
「だれ? 今忙しいんだけどー」
ウィルは肩をすくめる。
「男手が欲しいなら俺でもよかったじゃねえか。イリア、お前はハンターを舐めてるやつじゃなかっただろ。おかしくでもなったのか?」
ウィルが俺を睨みつける。
明らかな蔑みだ。
だが、今の俺がそう見えるのは仕方ない。
イリアは書き終えた紙を俺に返す。
「あんた達こそ舐めすぎだよ。私にはソウマくんがぴったりだと思ってるから」
そう言って依頼板へ視線を向けると、
「やっぱこれかなー」
さっきから目をつけていたらしい一枚を引き抜いた。
「ソウマくん! これ受付に持ってって! 今日これするから!」
俺は依頼書を反射的に覗き込む。
もちろん、見たところで分からない。
3人も同じように覗き込み、ウィルが苛立ちを隠さず声を上げた。
「はぁ? 魔鋼熊の討伐って上級中の上級じゃねえか。イリア、お前一人でも難しいやつをこいつと?」
「あんた達もだけど、こそこそ言ってる他の連中もさー」
イリアはくるりと振り返る。
「私たちがこれ倒せたら、ソウマくんのことちょっとは認めてくれるよね?」
いきなり発破をかけるやつがあるか。
穏便に目立たず日銭を稼ぐはずだったんだけどな。
俺は流されるまま受付へ持っていく。
「ありがとうございます。これにてハンターの登録は終了です。このまま依頼の受付にまいりますがよろしいですか?……聞いていましたが、魔鋼熊……かなり強いですよ。はっきり言いますが、イリアさんでも厳しい。まあ、イリアさんは危なくなったら逃げられるでしょうけど」
イリアは俺の力を信じすぎな節がある。
けど。
俺はこの力を試したい。その気持ちも少しあった。
それに、イリアが逃げられるならそれでいい。
「やってみます。俺もイリアを信じてるんで」
**********
ギルドを出発する。
魔物の出現場所は依頼書に書いてあるので、そこまで歩くだけだ。
もちろん、城壁を越える必要があるため、なかなかの距離になるが。
ふと、イリアが口を開いた。
「ミスティもフォルシオンも悪い人じゃないんだよ」
フォルシオン。
一瞬誰のことかと思ったが、あのメガネの少年のことだろう。
「ただ心配してるだけ。ソウマくんと……私を」
「変わった心配の仕方だな」
「あははー。しょうがないよー。ハンターって危険だからね」
下手をすれば命を落とす仕事だ。
きつい言い方になるのも、まあ分からなくはない。
「ま、無事狩り終えたら解決するってことだな」
イリアがニッと笑う。
「そ! 目にもの見せてやろう!」
街のはずれの、森の奥。
そこに魔鋼熊はいた。
一見、巨大な熊。
しかしその実態は、一本一本の体毛が強靭な金属で出来ていた。
俺たちは草葉の陰で観察する。
「いたね。やっとみつけた」
魔物。
トレントの時とは違い、今は討伐対象だ。
その邪悪を纏った風貌に、俺の心は浮き足立つ。
下手すりゃ死ぬ。
生々しい恐怖で手に汗を握った。
「ほんとに勝てるのか?」
「ソウマくん次第かなー」
「プレッシャーがすぎる」
「緊張してる?」
「するに決まってるさ。俺、戦ったことないんだぞ」
イリアは俺の肩に手を置いた。
「大丈夫。私がソウマくんを傷つけさせない。私の指示通り動けばきっと上手くいくよ」
その声には自信に溢れていた。
イリアの手の温もりが力をくれたように感じた。
おかげで、覚悟が決まった。
俺はゆっくりと息を吐くと、
「やってやるか」
「そうこなくちゃ。ソウマくんそこの石ころ思いっきりあいつに投げて」
俺は足元の拳大の石を手に掴むと、不恰好なフォームで投げた。
ビュンと風を切る音と共に、弾丸と見間違うほどの速度で魔物に一直線。
魔物の体毛に当たり、甲高い金属音が鳴り響いた。
石は砕け散り、奴は少しのけぞった。
「いくよ!」
イリアが飛び出し、俺もそれに続いた。
魔鋼熊が俺たちに振り向くが、イリアは左に旋回。
まずは石を投げた張本人の俺に真っ直ぐに向かってくる。
地響きを鳴らし巨体が猛スピードで突進してくる。
遮る木を爪の一振りで薙ぎ倒した。
咆哮が空気を震わせ、俺の体にビリビリと伝わる。
殺気に怖気付く。
しかし、俺はその四肢の動きが目で追えた。
まるで魔物の攻撃が俺に当たる未来は見えなかった。
……俺は多分全ての攻撃を避けられる。
この一瞬でそう確信した。
「ソウマくん右に避けて!」
イリアの声が届いた瞬間、俺は駆け出した。
魔物が俺を追従する。
振り返るが、追いつかれる気はしない。
すぐにイリアが後方から刀で奴の後ろ脚を斬った。
魔物が痛みに吠える。
「さあ、どんどんいくよ!」
そこからは指示通りに俺は動き、イリアが細かな攻撃を入れた。
当たり前だが、イリアは戦闘慣れしていた。
指示は的確、魔物の注意を逸らすのも一流だ。
銃と刀を器用に使い分け、衝撃と斬撃を繰り返す。
倉庫の時とは違い、イリアの銃は実弾を放っていた。
金属と金属がぶつかる音が鳴り響く。
主に魔物の気を引くために銃は用い、体毛の薄い箇所に太刀を入れていた。
魔鋼熊がイリアに爪を振りかぶる。
思わず俺は叫んだ。
「イリア!」
「だいじょーぶ」
イリアは軽やかなバク転でそれを避ける。
イリアの戦闘はアクロバティックだ。
素早さと手数の多さ、そして予想外の動きで翻弄し続ける。
俺はといえば、イリアの指示に従って石や薙ぎ倒された木を投げ、そして避けるだけ。
だが、俺は、その指示通りに動くことが驚くほど澱みなく可能だった。
反応、視線、一挙手一投足。
その全てが、イリアの声に寸分なく反応した。
イリアが刀で魔鋼熊の腕を両断する。
腕が転がり魔鋼熊が距離を取る。
突如、俺は固まってしまった。
切断面から骨が伸び、肉が湧き、毛が生えたのだ。
つまり、腕が再生した。
「え!?再生してるぞ!」
俺が声を上げると、イリアはさも当然かのように、
「再生するでしょー。魔物なんだから」
さっきから傷が治ってるのは見ていたが、魔物ってのは欠損すらも再生するのか?
「でも何回もは再生出来ないよ」
一回でも再生すれば厄介なものだとは思うが、この世界の魔物とはそういうものだと、無理矢理納得させた。
その後もイリアが攻撃を入れ、俺が注意を逸らす。
そして最後に、イリアが言った。
「ソウマくんの全力、出してみてよ」
最大の好機で下されたその言葉に従い、俺は右腕を振り抜いた。
感触は軽かった。
五人は並びそうな巨体のはずなのに、中身が空っぽのぬいぐるみを殴ったと錯覚するほどだった。
魔鋼熊は一撃で気絶した。
イリアが刀で頭を貫いた。
以上だ。
俺は自分の拳を見つめ、思わず呟いた。
「俺、ちょっと……やばいな……」
高揚感を背に、得も言われぬ恐怖を感じた。
分かっていたが、俺は異常だ。
なのに、身体に違和感はない。
この力は生まれた時からあるかのように感じてしまう。
拳は無傷。息すら上がっていない。
これが俺に与えられたチート能力だ。
もはや、そう信じるしかないのだ。
「さすがソウマくん! やっぱり最高だよ!」
現実離れした結果に放心状態の俺をよそにイリアは大喜びしている。
魔物を倒したことより、俺の強さの方が嬉しいらしい。
こんなに喜ばれるなら、いいのかもしれない。
俺は一息ついた。
地面に転がる魔鋼熊を見る。
「割と危なげなく終わったな。こんなこと言うのもアレだが本当に上級なのか?」
「おー、言うことがまるで最強ハンターだ」
イリアがからかってくる。
確かに俺の言い方は煽ってるように聞こえたか。
「いや……初討伐なんだ、基準が分からん」
「んー。避けてちまちま攻撃入れるなら私一人でもできるけど、火力が足りないんだよ。そこでソウマくん、ということ」
「協力プレイのなせる技ってことか?」
「そういうこと!いやー、でも想像以上にソウマくんは良いね!やり易すぎて最早気持ちよかったね!」
「最上の褒め言葉だ。光栄の限り」
「正直、ここまで一方的になるとは思ってなかったよ。ちょーっとだけやばいかな?とは思ってたから」
この言い方からしてちょっとでは無さそうだな。
結構無茶するなあ……。
「そういえば、これどうやってギルドまで運ぶんだ?」
「全部運ばなくていいんだよー。魔力器がある部分だけ解体して持ってけばいいの。それ以外はギルドに大体の場所を伝えれば回収してくれるからさ」
「へえ。なら解体しようか。ハンターは解体技術もいるんだな」
「そんな難しくないよ。魔力器がある場所は大体決まってるからね。頭か、首の後ろか、胸の辺り。そこをざっくり切り取って持ってけばいいの。だから、刃物ぐらいは持っておいた方がいいね」
けどさー、とイリアが続けた。
「せっかくならこのままギルドに持ってっちゃわない?」
「はあ?」
さすがに語気が強くなる。
「ソウマくん、どうせひょいって持てるでしょー?」
イリアめ。
俺が運んでるところをギルドで見せびらかしたいんだな。
力を込めれば、魔鋼熊は軽々と持ち上がった。
きっと本来はとんでもなく重いんだろう。
持ち上げる俺の姿は異質に映るはずだ。
「なあイリア。俺のことは、ちょっと力が強いぐらいにしといてくれ」
正直、俺は自分の力に恐れを感じているところがある。
できれば平穏に暮らしたい。
「もったいないなー、とは思うけど。ソウマくんが言うならそうするよ。まぁ他に取られても困るしねー」
「助かるよ」
「というか、これ相当お金になるよ!」
イリアは目を輝かせる。
「そんなにか。ギルドに帰るのが楽しみだな」
「うんうん! これでソウマくんは何の気兼ねもなく我が家に泊まれるねー」
俺は目を丸くした。
イリアは今日も泊めてくれるつもりだったのか。
「今日も泊まっていいのか」
「もう何日泊まっても一緒でしょ」
さすがに一緒ではないと思うが。
流石にその問答をもうするつもりもない。
「なんでそこまでよくしてくれるんだ」
んー、とイリアは人差し指を顎に当て、すこし答えに悩むと、
「なんか……一緒にいてすごく楽なんだ」
イリアは微笑んだ。
相変わらずストレートな言葉だ。
「そうか……」
少し考えてから答える。
「それは、俺もだな」
魔鋼熊を担いだまま、俺は空を見上げた。
青い空だ。俺の知る空と、何も変わらない。
それでも、ここは異世界。
けど……悪くないな。




