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第四話 君の街へ

 荒野を走るバイク。

 気づけばあたりはかなり暗い。

 太陽の姿はもう地平線から半分しか見えていなかった。

 夜になるまでは着くだろうか。

 そう思った矢先、俺は今日一番の問題に気づく。

 寝床問題だ。


「イリア」


「ん?どうしたの?」


「街に着いたら宿まで案内して欲しい」


「もちろん!と、言うつもりだったんだけど……」


「つもりだったんだけど?」


「んー、よかったらさ、私の家泊まる?」


「……は?」


 想定外の言葉に俺は意味のある言葉を返せない。


「いやさ、記憶ない人間、宿に1人にするのやばいかなって。あと、どうせ明日も一緒じゃん」


「そりゃそうかもしれんが……」


 俺は当たり前のことを聞く。


「そんなほいほい男を家に上げちゃダメだろ」


「ソウマくんなんかするのー?」


 イリアが悪戯っぽく言う。

 冗談を言っている場合ではないと思うが。


「いや、しないけどさ。てかそう聞かれたら、みんなしないって言うだろ」


 俺の返答にイリアがくすっと笑う。


「ソウマくんらしい返答だねー。まず、私一人暮らしじゃないから大丈夫だよ」


「それでも、俺がやばいやつだったらどうするんだ」


「そんときはそんときだよ。蹴り飛ばしてあげる。てか、追い出すよ流石に」


「まあそりゃそうだな。けどさ……」


「あーもーうるさいなー。信頼してるってことだよ。ソウマくんはそれに応えてくれる人でしょ?」


 ここまで言われて、逆に断る理由なんてあるだろうか。

 実際、泊めてくれるならそれに越したことはないのは事実だ。

 俺が黙っているとイリアは強い口調で締め括った。


「お金もかからないし、明日のこともある。迷える恩人を宿に放り込むなんて、それこそ「寝覚めが悪い」よ」


「……本当に何から何までありがとう。お世話になります」


「よろしい!」


 しばらくして、遠くにうっすらと建物が見えてきた。

 円形に城壁を構える、都市の姿だ。

 それなりに大きな街と見える。

 見張り塔が四方に建っているところから、やはり魔物を警戒しているのだろう。


「お、見えてきたねー。そろそろ着くよ!私の故郷、エンテルに!」


 ────


 城壁を通り、街中をバイクを押して歩く。

 街並みの様子は、ザヤと変わらず中世風だ。

 しかし、よくよく見れば、そこら中に違和感はあった。

 細長い金属のパイプが這っている建物。

 パイプの途中にはライトが点灯していた。

 大通りの街灯は一列に整備されている。

 極め付けは、その道にバスが走っていたことだ。

 もちろん、バスにはエンジン音などなかった。

 ただ静かに白い煙を吐き出し、多くの乗客を乗せていた。

 日が沈んでなお、街中は灯に照らされ、賑わいが衰える様子はなかった。


 行き交う人々をちらりと見てみる。

 服装のデザインは日本とは異なるが、それ以外、例えば、顔つきや体格にこれといって特異な部分はない。

 ただ、強烈な違和感はある。

 武器を携帯している人がちらほらいることだ。

 しかも、それは、大剣や斧、槍とかである。


「なあ、ああいう人はやっぱりハンターなのか?」


「そだね。でも大丈夫だよ。街で武器なんか振り回そうもんなら一発で捕まるからね」


「そうでないと困る」


 彼らが当たり前に街に溶け込んでるのなら、ちゃんと法整備はされているんだろう。

 街ゆく人たちが誰もハンターを警戒しないところからそれはよく分かった。


 イリアの家は街のはずれにあるようで、そこまでさらに歩いた。

 家に着く頃には完全に夜になっていた。

 木が生い茂る、林のような場所にポツンと建った家。

 暗闇を照らすかのように、窓から灯りが漏れている。


「あぁ家族がいるって言ってたな」


 俺は急に緊張した。

 イリアが良いとしても、家族が受け入れてくれるとは限らない。


「そうそう、妹と2人暮らしなんだ。もう夜だからねー、怒られるかもねー」


 てことは、妹とイリアだけ?

 何が大丈夫なんだ。してやられた。


「ここまで来て言うのもなんだが、本当に泊めてくれるのか?」


 イリアはポカンとした顔をする。


「ソウマくんは律儀すぎるねー。ここまできたら泊める以外ないでしょ」


「まぁそれもそうだが……。一応聞かないと、虫の居所が悪いだろ?」


「そうかなー。ソウマくんは私の命の恩人だよ。もっと恩着せがましくしてもいいんだよ」


 いまだにイリアは俺に助けられたと主張するが、もう十分によくしてもらっている。

 俺としては返してもらいすぎなぐらいだ。

 イリアは思い出したかのように、あ! と声をあげる。


「あの倉庫にいたことは妹に内緒にしてくれない? 今日は普通にハンターとして遠征してることになってるんだ」


 口元で人差し指を立てる。


「ん? あぁ、内緒ね。了解。あとな、助けられたというが、それは俺もそうで……」


「ありがとう! ただいまー!」


「おい!」


 イリアはわざとらしく会話を切り、扉を鍵で開けると、大きな声で挨拶をした。


「遅いよ! イリア姉!」


 玄関の奥、おそらくダイニングのあたりから怒声が飛ぶ。少し幼い女の子の声だ。

 ドタドタと感情のこもった足音を鳴らして出てきたのは、小柄で可愛らしい少女だった。

 黒髪のツインテール。猫目が特徴的だ。


「ごめんね、ノア。ちょっと時間かかっちゃってさー」


 たははーと頭をかく仕草で謝るイリア。


「まぁいいよ。ちょうどご飯できたよ。んで、誰その人」


 怪しいものを見るような目でこちらを見る。

 その反応は正しい。

 俺が何か口を開きかけた時、イリアが話し始めた。


「ソウマくんっていうの。ササキ・ソウマ。魔物に襲われてたところを助けてくれたんだ」


 イリアが目配せをしてくる。

 話を合わせろということだ。

 俺としてもノアの警戒心を解く必要がある。


「そうだな。イリアは危なっかしくてな。放っておけず助けたわけだ。ただ俺には問題があって……」


 イリアが俺から話のバトンを受け取る。


「そうなの!ソウマくんは、記憶がないんだって。それで帰る家がないの」


 イリアはあちゃーといった風に額に手を置く。

 俺も悩ましい顔をして頷いておく。

 イリアが続ける。


「ハンター手伝ってもらう代わりに泊めてあげようかなって。大丈夫!とってもいい人だよ!」


 ノアと呼ばれた少女は、眉間に皺を寄せている。

 今の話を整理しているようだ。


「ソウマはイリア姉の恩人で、記憶がなくて、だからイリア姉はソウマと一緒にハンターして……」


 ノアはしばらく考え込んでいたが、イリアの顔を見て、一言つぶやいた。


「イリア姉がいいって言うなら大丈夫かな」


 そして、


「理解した! 家に入ってもいいよ!」


 かっと目を見開き、胸を張って、そう声高らかに宣言した。


「ありがとう〜! さっすがノア! 我が妹〜!」


 イリアがすかさずノアに抱きつこうとするが、


「お風呂入ってからにして!」


 ノアに横へ跳ねられ、避けられていた。

 俺はそんなノアに、


「ありがとうな」


「んーん。ソウマはイリア姉を助けてくれたんでしょ? こちらこそありがとうだよ」


 ノアはぺこ、と頭を下げた。

 真面目な子だ。

 幼く見えるがしっかりしている。

 俺はイリアから紹介されただけに過ぎないことを思い出す。


「改めて。ササキ・ソウマ。よろしくたのむ」


「ノア・オルレア。こちらこそよろしくね」


 俺はノアに案内されるように、家の中へと入っていく。

 家は二人暮らしにしては広く、玄関から伸びる廊下は突き当たりでダイニングにつながっているようだ。

 天井から照らされる灯りに妙な違和感を覚える。

 それは火でもなく電気でもない。

「光」がそこにあるような感じがした。

 家の雰囲気と微妙にズレた白色光が屋内を照らしている。


「夜ご飯つくりすぎてさ、ちょーど一人分あまってるよ。よかったねソウマ」


 ノアはニコニコとこちらを振り向いた。


「おー、それは本当によかった。お腹ぺこぺこでさ。ありがとう、ご飯まで」


「味は保証しないけどね」


 ノアは得意げに語る。

 最近覚えた言葉なのだろうか。


「ソウマくん! ノアの料理は世界で一番美味しいから安心して!」


 イリアは姉バカすぎる。

 けど、このやりとりが一気に俺の力を抜いた。

 張り詰めていた肩が、ようやく落ちた。

 安堵。それに尽きた。


 俺とイリアは先にテーブルにつく。

 ノアは三人分の夕食をよそっている最中だ。

 手伝うと言ったが、ノアは一人でやると言って聞かなかった。


「お客さん来て、張り切ってるんだろうね」


 イリアはニコニコとノアを眺める。


 ふと、台所に目を向ける。

 コンロのようなものがあり、シンクもある。

 そこまではギリギリ理解できる。

 一番の驚きは、冷蔵庫のようなものがあることだ。


「お、ソウマくん気づいた? 冷蔵庫、気になるでしょー」


 イリアが自慢げな表情をしている。


「気になるな。やっぱり冷蔵庫なのか」


 気になるに決まっている。

 冷蔵技術というものは思ったより難しい。

 俺のいた世界でも、当たり前になるまでそれなりの時間がかかったはずだ。

 この世界観に対し、冷蔵庫はあまりにもちぐはぐである。


「これ高かったんだよー! でもね、冷蔵庫あるとさ、料理の幅が段違いでしょ? 欲しくてさー、奮発しちゃった!」


「イリア姉が買ってくれたんだ。急に大きな荷物がきたなって思ったら冷蔵庫でさ。食材が長持ちして、すごくいいよー」


 ノアも料理を運びながら嬉しそうに答えた。

 ちょうど三人分が食卓に並ぶ。


「ありがとう」


「じゃあ食べよー! お腹すいちゃった!」


 イリアは「いただきまーす」と元気よく言うと、早速食べ始めた。

 続けてノアも「いただきます」と呟く。


 二人が食事に手をつけたのを見て、俺も、


「いただきます」


 シチューを口に運ぶ。

 あたたかく優しい味が口に広がった。

 思わず息が抜ける。


 現実だ。

 美味しい。俺のよく知るシチューの味だ。

 ただ、この味や温度が、現実であることを改めて感じさせた。

 俺は異世界に来たのだ。

 俺はほんの一瞬、シチューを見つめたまま固まっていた。

 しかし、郷愁に浸る間もなく、イリアが俺に問いかける。


「ソウマくん、美味しいでしょ?」


 顔を上げると、目に入ったのはノアの緊張した面持ちだ。

 俺は思わず笑う。


「心配するな。まじでめちゃくちゃ美味しい」


「し、心配なんかしてない!」


 ノアが大声で反論する。

 その顔は安堵と喜びが入り混じっていた。


 しばらく食事を楽しんでいると、イリアは俺を見て何かに気づいたようで、


「ソウマくん!大事なこと忘れてた!」


「大事なこと?」


 俺のこの状況、大事なことが多すぎる。

 真剣に頭を整理していると、


「ソウマくんの着替えがない!」


「……大事だな」


 大事だが大袈裟だ。

 まあ、もうイリアのこういうノリには慣れたものだ。


「まぁ1日2日ぐらいいいだろ」


 すると、ノアが静かに言った。


「……大丈夫。大人用の服あるよ」


 ほんの一瞬だけ、間があった。

 ノアはすぐにいつもの顔に戻ったが、その僅かな沈黙が、妙に引っかかった。


「至れり尽せりだ。ありがとう」


 問題は解決した、はずだった。

 だが、イリアの様子が少し変だ。

 ノアに何か言いたげにしている。そして、


「ノア、ごめんね」


 その謝罪の意味が、俺には分からなかった。

 ノアはコップから水を一口飲む。

 少しだけ視線を落としてから、澄ました顔で言った。


「いいよ。イリア姉はバカだから」


「ひどーい!バカかもしれないけど言い過ぎだよー!」


 途端に、さっきまでの空気に戻る。

 ……誤魔化された気がした。

 けど、それ以上踏み込む理由もなかった。

 俺はそれ以上聞かないことにした。

 その「大人用の服」が、誰のものなのかも。


 ───


 客間を貸してもらった。

 今日、俺はここで寝ることになる。


 客間には姿見があった。

 なんとなく、その前に立つ。

 映ったのはちゃんと俺だった。


 不思議なことはない。

 ただ、なぜか、自分が存在してるかを確認したくなった。


 それとは別に、俺は一言つぶやく。


「これは予想以上にぶかぶかだな」


 ノアから借りた寝巻きはかなり大きかった。

 大人用というか、大人の「大男用」だった。


 ベッドに腰掛け、考える。

 夕食を終え、風呂も入り、今に至るのだが、奇妙な点だらけであった。


 風呂はまるで現代のようだった。

 シャワーがあり、蛇口一つでお湯が出る。

 脱衣所には洗濯機のようなものまであった。

 ただ、それは俺の知るものとは少し違い、回転機構を備えた無骨な造りに見えた。


 ひとつひとつ、生活における所作の中に、不便な点がほとんどない。

 では、これはどんな技術で成り立っているのか。

 俺はそれが気になった。


 考えた末に行き着いた違和感があった。

 コンセントやケーブルといったものが無い。

 やはり「電気」が無いのだ。


 異世界よろしく、なにか超常的な力でこの世界のインフラは成り立っているのだろう。


「魔術か……」


 俺はつぶやいた。

 魔術とは一体どんなものなのだろう。

 この世界には気になることが多い。


 少しメタ的なことを考える。

 こういう異世界なら、普通、俺に与えられるのは魔術の才能とか、そういうものじゃないのか、と。


 しかし、現実は違うみたいだ。

 俺に与えられたのは尋常ならざる力。

 あまりにもシンプルだ。


「なにもないよりかはましか」


 おかげで俺はハンターになれるらしい。

 ともかく、俺はこの世界で生きて行かねばならない。

 まずはお金ぐらい稼げないとな。


 横になると急激に眠気が来た。

 さすがに疲れたな。

 色々考える間も無く俺は眠りに落ちていった。


 

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