第16話:伝播する恐怖
ミーシャ達は、命からがら死界律の教会から撤退して観測塔へと来ていた。
「教授…あの黒いのはなんなんだ?」
「私にも分からない…今まであんなものは…」
アウレウスの問いに、教授は髭を撫でながら顔に皺をつくって唸っている。
「いや〜、危うく死ぬところだったね〜」
「貴女は気楽そうでいいですね」
エトラは手近にあった椅子に座り、小さい袋に詰められた菓子を食べながら話を聞いていた。ヴェスタは僅かに睨みながら嫌味をいうが、彼女は全く気にしていない。
「…アレの正体が分からない以上、考えるべきは何故今動き出したのかだ。誰か、心当たりはないか?例えば、何か大きな変化を起こした様なことは?」
「…カルスティナさんから、死界律の力を引き剥がしたとかですかね…?いやでも、それならブラディオさんの時に何かあっても…」
ヴェスタはその心当たりを口にするも、他の事例では当てはまらないため言葉を濁す。その時、ミーシャも会話に入る。
「あの、えっと…実は」
ミーシャは、ヴァトリーチェの開けた空間へ逃げる直前に、その黒いナニカから明確な敵意を持った言葉を掛けられたことを話した。
「それならば辻褄は合う。つまり、ブラディオ嬢とカルスティナ嬢と強い関係性を持つ者は“シクル嬢”と“オルゼア嬢”だが、二人にはあんな力はない。あとは…いや、まさか、あり得ない…」
「教授、何か知っているのですか?」
ヴァトリーチェの声に、教授は「これは根拠のない推測だが…」と断りを入れる。
「恐らく、アレは…」
………
……
…
ーーー【黴びた集落】ーーー
奇妙な苔のような植物に侵食された、かび臭い空気が漂う寂れた建物群の一つの家に、忘却律の面々が退避していた。
「あの獣女も面倒だったけど、あの黒いやつ何?僕聞いてないんだけど」
ソムナスは文句を垂れながら、疲れたのか床に腰を下ろしてへたり込む。
「え〜?私もまさかあの子が動き出すなんて思わなかったよ〜」
「あら、アレが何か知っているのですか?」
ラプスの意味ありげな言葉に、修道女の格好をした女性であるキブスはすぐに反応する。
「ん?あ〜、キブスちゃん達はあの場に居なかったもんね〜。あの黒いのは〜…」
「…恐らく、世界を救った大英雄にして世界を崩壊させた大罪人…」
「「異界の勇者”ミサ“だ」よ〜」




