第14話:夕刻より来たるは
ホンマすまん…
日が傾きかけ、空が僅かに赤く染まり始めた頃…ミーシャ達は崩れかけた教会に来ていた。とっくに時間切れであの女性は帰還している筈だが、ラプス達の追撃もなく、容易に目的地へ到達出来た。
両扉を開けると、中は大量の長い木製のベンチが散乱しており、更に真ん中に敷かれた赤い絨毯の先…ステンドガラス越しに差した陽の光を浴びたことにより、ボロ布の影に隠れた生気のない顔を覗かせる少女ーーーモルテがいた。
「…役に立たない者達だ…」
モルテはちらっとこちらを見て、無表情のまま僅かに怒りを含んだ声を上げる。
「まぁいい…ここで全員、始末すればいいだけだ」
「ヴェスタちゃんッ!!」
恐らく修復している途中であろう宙に浮く黒色の破片を手放し、一瞬で加速しミーシャへ距離を詰める。ヴェスタは呼び掛けに対して即座に反応し、二人の間に割り込んで氷樹の剣を振るう。
「私が相手だッ!!」
「…煩わしい」
氷樹の剣の薙ぎ払いと直後に迫る聖剣の突きを下がって躱し、エトラの放つ光の矢をショーテルで叩き落とす。
「…来たれ、【死の軍勢】」
モルテを中心に黒い霧が溢れ出して地を這い…そこから数多の亡者が姿を現す。それらはミーシャ達を視界に収めると同時に襲い掛かかった。
「奴から絶対に目を離すなよッ!?必ずこちらの隙をついて接近する筈だ!!!」
アウレウスの忠告通り、モルテは気配を消して亡者の群の中に潜り込む。ミーシャは黒いボロ布を追うが、襲い来る死体を血の剣で斬り伏せた一瞬、その姿を見失い…青白い手がミーシャの足首へと迫る。
「くっ…」
「辛そうだな?忘却律の者達も存外、役立っていたらしい…」
ミーシャは瞬時に血の波を周囲へ放ち、死者達と共にモルテを押し流して自身から引き剥がす。
冷や汗を流しながら苦悶の表情を浮かべるその姿を見て、理力の底が見え始めている事を察したモルテは、再び地を這うような体勢でミーシャへと飛び込む。
「はぁッ!!」
ヴェスタは瞬間的に【ホワイト・アウト】を発動する事で、モルテへ白い光の斬撃を飛ばす。
「遅いな」
だが、モルテは構わず突っ込んで直撃するも、その死を肩代わりして亡者の一体が黒い炎に包まれ焼失する。
「…それは先程見た」
亡者達の隙間を縫ってヴェスタを躱し、尚も接近する少女をもう一度押し戻す為に再度血の波を放つ…が、モルテは死者を踏み台にして空中へジャンプして回避する。獣耳の少女の頭上に到達した所で自由落下を始め、ミーシャへと黒いオーラに包まれた腕を伸ばす。
「…死ね」
「させるか!!」
警戒していたヴェスタが【ホワイト・アウト】を放つ直前…それが突如として出現した。
『』
ステンドガラスから差し込む夕日に照らされて、それでも尚黒く、漆黒よりも更に濃い…まるで、世界を直接塗り潰したかのような、吸い込まれそうなほどの闇ーーーそれが、人型となって存在していた。
ミーシャとヴェスタの間、まるで避けるようにして出来た空間に一切の気配や音もなく居た異質な存在に、ミーシャとヴェスタだけでなく、モルテさえも僅かな混乱を与え…
『ーーー』
「ガッ!?」
いつの間にか、モルテの首が黒いナニカに掴まれ、絞められていた。だが、黒いナニカはその場所から一切移動していない。モルテが一瞬…否、始めからそうであったかのように、黒い手の中に収まっていた…




