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魔法の便器  作者: 好月
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9/11

歴史に残る事件(後編)

 佐伯の運転する車は、宮ヶ瀬ダムへ向かっていた。


「水野、宮ヶ瀬ダムってのはどんなところなんだ?」


「ちょっと待ってください。LUNAに聞いてみます」


 水野は携帯端末を操作した。


「LUNA、宮ヶ瀬ダムについて基本情報を教えて」


『はい。宮ヶ瀬ダムは神奈川県愛甲郡のに位置する重力式コンクリートダムです。堤高は156メートル、堤頂長は375メートル。首都圏の水がめとして、重要な役割を担っています』


「かなり大きなダムなんだな」


 佐伯が感心したように言った。


『また、周辺は観光地としても知られています。特にクリスマスシーズンには、高さ約30メートルのジャンボクリスマスツリーが登場し、イルミネーションで多くの来訪者を楽しませています』


「へえ、そんなものがあるのか」


『周辺には飲食店もあり、観光客の口コミでは、もつ煮などの料理を評価する声も見られます』


「モツ煮! いいねえ!」


 佐伯が思わず声を弾ませた。


「佐伯さん、遊びじゃないですよ!」


「分かってるよ。ちょっと気になっただけだ」


 水野は小さくため息をついた。


 そんな会話をしているうちに、車の前方に宮ヶ瀬ダムが見えてきた。


「あれか!」


 佐伯が前方を指さした。


 遠くに見えるダムの周辺には、何やら茶色い巨大な物体が横たわっている。


 その上方の山肌には、広範囲に白いものが見えた。


「まだ雪が残っているんですね。綺麗!」


 水野は窓の外を眺めながら言った。


「そうだな。ずいぶん大きなものに見えるが……」


 二人を乗せた車は、現場へと近づいていった。


 現場周辺にはすでに地元警察による規制線が張られ、一般の立ち入りが制限されていた。


 国土交通省のダム管理職員や関係機関の調査員たちも集まり、現場の確認を進めている。


 しかし、彼らの表情はどこか複雑だった。


 真剣に調査をしている者もいれば、思わず苦笑いを浮かべている者もいる。


「何だか妙な雰囲気ですね」


「まあ、行ってみりゃ分かるだろ」


 二人は警察手帳を提示し、規制線の内側へ入った。


 そして、現場に近づいた瞬間。


「……何だ、この臭いは」


 佐伯が顔をしかめた。


「確かに……。まるで汚物のような臭いですね」


 水野も眉をひそめた。


 さらに数歩進む。


 二人の目の前に、巨大な茶色い物体の全貌が現れた。


 全長はおよそ300メートル。60階建てのマンションを横倒しにしたような大きさだった。


 葉巻のような形をした、異様な物体。


 そして、その周辺には白い紙が大量に散らばっていた。


 二人はしばらく黙っていた。


 やがて佐伯が口を開いた。


「これはあれだ! あれ! うんこだ!」


「うんこですね!」


 水野も思わず声を上げた。


「あの、雪みたいに見えたのは尻ふいた紙だ」


「…………」


 水野は言葉を失った。


「おまえ。さっき綺麗とか言ってなかったか?」


「うっ……! 綺麗に見えたんですよ!」


 水野は少し怒鳴るように言い返した。


「ははは! そうか、そうか!」


 佐伯は笑いをこらえきれない。


「ていうか、トイレットペーパー使い過ぎだろ!!!」


「そこかよ!」


 佐伯の声が、宮ヶ瀬ダムの静かな山あいに響いた。

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