捜査本部
宮ヶ瀬ダム。
巨大な謎の物体が発見された現場では、警察による捜査が続いていた。
水野と佐伯は、夜間の当直職員から聞き取りを行っていた。
「昨夜、何か異常な音を聞きませんでしたか?」
水野が尋ねる。
「ええ。夜中に突然、ドスンという大きな音がしました」
当直職員は、昨夜の出来事を思い出すように答えた。
「その他には何か聞こえませんでしたか?」
佐伯が続けて尋ねる。
「そういえば……落下音が聞こえる前に変な音がしましたね」
「変な音?」
「ええ。なんというか、おならのような……」
「おなら?」
「はい。ぶびぃびぃー、みたいな音でした」
佐伯と水野は顔を見合わせた。
その後も複数の職員から聞き取りを行ったが、驚いたことに、ほぼ全員が同じような証言をした。
落下音の直前に聞こえた、奇妙な音。
それは偶然の聞き間違いとは思えなかった。
一方、鑑識課は巨大な物体と、雪のように見えていた紙の一部を採取し、持ち帰って鑑定することになった。
水野と佐伯は現場での一般的な捜査を一通り終えると、車に乗り込んだ。
「今日はこれくらいにしておくか」
佐伯がエンジンをかける。
「そうですね。鑑識の結果も待たないといけませんし」
「報告は明日の朝だな」
二人は警察署へ戻っていった。
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翌朝。
捜査報告のために集まった会議室。
そこに現れた水野を見て、佐伯は思わず声をかけた。
「おい、水野。どうした、その顔?」
水野の目は真っ赤だった。
どう見ても一睡もしていない様子である。
「一睡もしていません」
「何だって?」
「昨夜からずっと事件のことを考えていたんですが、全く理解できませんでした」
佐伯は苦笑した。
「そりゃそうだろう。俺だって分からんよ」
会議室には、佐伯と水野のほかに刑事部長、捜査課長らが並んで座っていた。
佐伯は刑事部長の姿を見て、少し驚いた。
(部長まで出席するとは……。それだけ重大な事件ということか)
まずは佐伯から、当直職員への聞き取り結果が報告された。
落下音の直前に、複数の職員が奇妙な音を聞いていたこと。
そして、その後に大きな落下音が響いたこと。
続いて鑑識課からの報告が行われた。
巨大な物体は、人間の排泄物で間違いないとのことだった。
また、周囲に散乱していた紙もトイレットペーパーであることが判明した。
ただし、トイレットペーパーの種類やメーカーの特定には、数日かかる見込みだった。
報告を聞き終えた刑事部長は、両手で頭を抱えた。
「じゃあ、何か……突然、宮ヶ瀬ダムに300メートルのうんこをしたやつが現れたってことか!!」
そして、吐き捨てるように続けた。
「しかもしっかり尻まで拭いてやがる!」
会議室が静まり返る。
その沈黙を破ったのは水野だった。
「しかも、凄い使用量です!」
刑事部長が水野を睨みつけた。
水野は口を閉じた。
刑事部長は、ふーっと大きく息を吐いた。
「この件は、現時点をもって極秘とする。明後日、捜査本部を立ち上げる!」
一同が顔を上げる。
「警視庁からも応援が来るぞ」
佐伯が驚いて尋ねた。
「東京からですか? 捜査の権限は警視庁に?」
「いや、それは我々だ。今はな!」
「なるほど……」
佐伯は小さくうなずいた。
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二日後。
宮ヶ瀬ダム巨大物体落下事件の捜査本部が正式に立ち上げられた。
捜査員は神奈川県警から20名、警視庁から30名。
総勢50名という大規模な体制となった。
半数以上が東京からの派遣である。
「ずいぶん東京から来ましたね。数名程度かと思っていました」
水野が佐伯に話しかけた。
「そのうち警視庁が捜査権を握るつもりだろう」
「なるほど」
やがて、全捜査員が会議室に集められ、捜査本部の決起ミーティングが始まった。
刑事部長の挨拶に続き、これまでの事件の経緯が説明された。
その後、鑑識課から新たな報告があった。
トイレットペーパーのメーカーが判明したという。
メーカーは皇女製紙。
製品はシングルロールで、一般家庭にも広く流通している、ごく一般的なものだった。
「以上が鑑識からの報告です」
その後、今後の捜査体制や各班の役割分担などについて説明が続いた。
会議は二時間にも及んだ。
ようやく終了し、捜査員たちが席を立ち始めたころ、佐伯が水野に声をかけた。
「しかし、捜査っていったって、何をどうするんだ?」
水野も同じ思いだった。
少し考え込んだあと、水野は顔を上げた。
「まずは、発生時刻と落下地点の関係を調べましょう!」




