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魔法の便器  作者: 好月
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10/11

捜査本部

宮ヶ瀬ダム。


巨大な謎の物体が発見された現場では、警察による捜査が続いていた。


水野と佐伯は、夜間の当直職員から聞き取りを行っていた。


「昨夜、何か異常な音を聞きませんでしたか?」


水野が尋ねる。


「ええ。夜中に突然、ドスンという大きな音がしました」


当直職員は、昨夜の出来事を思い出すように答えた。


「その他には何か聞こえませんでしたか?」


佐伯が続けて尋ねる。


「そういえば……落下音が聞こえる前に変な音がしましたね」


「変な音?」


「ええ。なんというか、おならのような……」


「おなら?」


「はい。ぶびぃびぃー、みたいな音でした」


佐伯と水野は顔を見合わせた。


その後も複数の職員から聞き取りを行ったが、驚いたことに、ほぼ全員が同じような証言をした。


落下音の直前に聞こえた、奇妙な音。


それは偶然の聞き間違いとは思えなかった。


一方、鑑識課は巨大な物体と、雪のように見えていた紙の一部を採取し、持ち帰って鑑定することになった。


水野と佐伯は現場での一般的な捜査を一通り終えると、車に乗り込んだ。


「今日はこれくらいにしておくか」


佐伯がエンジンをかける。


「そうですね。鑑識の結果も待たないといけませんし」


「報告は明日の朝だな」


二人は警察署へ戻っていった。


---


翌朝。


捜査報告のために集まった会議室。


そこに現れた水野を見て、佐伯は思わず声をかけた。


「おい、水野。どうした、その顔?」


水野の目は真っ赤だった。


どう見ても一睡もしていない様子である。


「一睡もしていません」


「何だって?」


「昨夜からずっと事件のことを考えていたんですが、全く理解できませんでした」


佐伯は苦笑した。


「そりゃそうだろう。俺だって分からんよ」


会議室には、佐伯と水野のほかに刑事部長、捜査課長らが並んで座っていた。


佐伯は刑事部長の姿を見て、少し驚いた。


(部長まで出席するとは……。それだけ重大な事件ということか)


まずは佐伯から、当直職員への聞き取り結果が報告された。


落下音の直前に、複数の職員が奇妙な音を聞いていたこと。


そして、その後に大きな落下音が響いたこと。


続いて鑑識課からの報告が行われた。


巨大な物体は、人間の排泄物で間違いないとのことだった。


また、周囲に散乱していた紙もトイレットペーパーであることが判明した。


ただし、トイレットペーパーの種類やメーカーの特定には、数日かかる見込みだった。


報告を聞き終えた刑事部長は、両手で頭を抱えた。


「じゃあ、何か……突然、宮ヶ瀬ダムに300メートルのうんこをしたやつが現れたってことか!!」


そして、吐き捨てるように続けた。


「しかもしっかり尻まで拭いてやがる!」


会議室が静まり返る。


その沈黙を破ったのは水野だった。


「しかも、凄い使用量です!」


刑事部長が水野を睨みつけた。


水野は口を閉じた。


刑事部長は、ふーっと大きく息を吐いた。


「この件は、現時点をもって極秘とする。明後日、捜査本部を立ち上げる!」


一同が顔を上げる。


「警視庁からも応援が来るぞ」


佐伯が驚いて尋ねた。


「東京からですか? 捜査の権限は警視庁に?」


「いや、それは我々だ。今はな!」


「なるほど……」


佐伯は小さくうなずいた。


---


二日後。


宮ヶ瀬ダム巨大物体落下事件の捜査本部が正式に立ち上げられた。


捜査員は神奈川県警から20名、警視庁から30名。


総勢50名という大規模な体制となった。


半数以上が東京からの派遣である。


「ずいぶん東京から来ましたね。数名程度かと思っていました」


水野が佐伯に話しかけた。


「そのうち警視庁が捜査権を握るつもりだろう」


「なるほど」


やがて、全捜査員が会議室に集められ、捜査本部の決起ミーティングが始まった。


刑事部長の挨拶に続き、これまでの事件の経緯が説明された。


その後、鑑識課から新たな報告があった。


トイレットペーパーのメーカーが判明したという。


メーカーは皇女製紙。


製品はシングルロールで、一般家庭にも広く流通している、ごく一般的なものだった。


「以上が鑑識からの報告です」


その後、今後の捜査体制や各班の役割分担などについて説明が続いた。


会議は二時間にも及んだ。


ようやく終了し、捜査員たちが席を立ち始めたころ、佐伯が水野に声をかけた。


「しかし、捜査っていったって、何をどうするんだ?」


水野も同じ思いだった。


少し考え込んだあと、水野は顔を上げた。


「まずは、発生時刻と落下地点の関係を調べましょう!」

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