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魔法の便器  作者: 好月
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8/11

歴史に残る事件(前編)

 深夜。


 静まり返った宮ヶ瀬ダムに、突然、大きな音が響き渡った。


 ――ドスン!


 地面を揺らすような衝撃音だった。


「今の音は何だ?」


 当直職員はすぐに現場の確認に向かった。


 しかし、周囲は暗く、照明の届かない場所の様子までは正確に把握できない。


 音の大きさから、山肌の一部が崩落した可能性が考えられた。


 職員たちは設備や施設に異常がないか、慎重に確認を進めた。


 幸い、設備への被害は確認されなかった。


「土砂崩れか……。ひとまず設備に異常がなくてよかった」


 職員たちは安堵し、夜はそのまま過ぎていった。


 だが、翌朝。


 明るくなった現場を確認した職員たちは、思わず言葉を失った。


「……何だ、あれは?」


 そこにあったのは、土砂の崩落などではなかった。


 山肌にまたがるように横たわる、正体不明の巨大な物体。


 その異様な光景を前に、職員たちは慌てて関係各所へ通報した。


 その中には、警察も含まれていた。


     *


 一方、その頃。


 神奈川県警の水野と佐伯は、連続食い逃げ事件の捜査をしていた。


 飲食店を次々と訪れ、食事を済ませたあとに代金を支払わず立ち去る犯人。


 被害店舗は増えているものの、決定的な手掛かりはまだつかめていなかった。


「まったく、食い逃げとはなあ。もっとこう、歴史に残るような事件を捜査してみたいもんだ」


 佐伯がぼやいた。


「佐伯さん、不謹慎ですよ。事件で被害に遭われている方がいるんですから」


 水野はたしなめた。


「分かってるよ。ちょっとした愚痴だ」


「……でも、私もその気持ちは少し分かります」


「おっ、そうか?」


「はい。刑事になったからには、いつか自分の能力を存分に発揮できるような事件を担当してみたいです」


「だろう? やっぱり刑事なら一度くらいはなあ……」


 その時、佐伯の携帯電話が鳴った。


 画面には刑事課長の名前が表示されている。


「はい、佐伯です」


『佐伯、すぐに水野と宮ヶ瀬ダムへ向かえ』


「宮ヶ瀬ダムですか? 何があったんです?」


『詳しいことはLUNAに確認しろ。現地に関係者も集まっている。急いでくれ』


「はあ……。分かりました」


 電話が切れた。


「LUNA? 誰だそりゃ?」


 佐伯が首をかしげる。


「佐伯さん、警察に導入された最新のAIですよ。携帯端末から捜査情報を確認できるんです」


「そんなもんが導入されてたのか?」


「以前、説明があったと思いますけど……」


「そうだったかなあ」


 水野は携帯端末を操作した。


「LUNA、宮ヶ瀬ダムで何が起きたのか教えて」


『はい、水野刑事』


 落ち着いた女性の声が端末から聞こえてきた。


『本日早朝、宮ヶ瀬ダムにおいて、正体不明の巨大物体が発見されました。昨夜、現地で大きな衝撃音が確認されており、その原因である可能性が高いと考えられます』


「巨大物体? それは何なの?」


『現時点では正体不明です。現地からの報告によると、かなり大きな物体とのことです』


「なるほど……」


 水野は画面を見つめた。


「佐伯さん、どうやら普通の事件ではなさそうです」


「正体不明の巨大物体ねえ……」


 佐伯は携帯端末をのぞき込んだ。


「よく分からねえが、とりあえず行くか!」


 二人は急いで車に乗り込んだ。


 宮ヶ瀬ダムで待ち受けているものが、歴史に残る事件であることは間違いなかった。


 ただし、それが二人の想像していたものとは、ずいぶん違っていたのだが。

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