突然の合コン
その日の夜、田中は自宅でくつろいでいた。
テーブルの上にはいつものスーパーマーケットで買ってきた弁当。いつもと変わらない、特に予定のない休日の夜だった。
そのとき、スマートフォンが鳴った。
「もしもし?」
『おう、田中!元気か?』
電話の相手は、昔からの友人だった。
「ああ、どうした?」
『今度の土曜日、空いてるか?』
「土曜日? 特に予定はないけど」
『よし!じゃあ合コン行こうぜ!』
「……合コン?」
『そう、男女三対三。ちょうど人数が足りなくてさ。お前にも来てほしいんだよ』
「いやいや、俺なんか行っても仕方ないだろ」
『何言ってんだよ。たまには外に出てこいって!』
「でもなぁ……」
『いいから!もう一人もお前のこと知ってるし、気楽に来いよ』
田中は少し考えた。
女性と話すのが苦手というわけではない。ただ、自分から積極的に話しかけるタイプでもない。
そもそも、合コンなど何年ぶりだろう。
「まあ……せっかくだから行ってみるか」
『おっ!その調子だ!じゃあ土曜日な!』
電話は勢いよく切れた。
「……何着ていけばいいんだ?」
田中はスマートフォンを置き、しばらく考え込んだ。
そして土曜日。
田中は待ち合わせ場所へ向かっていた。
指定された店は、街の中心部にある高級レストランだった。
建物の外観からして、普段田中が利用する店とは雰囲気が違う。
「うわっ、高そう……」
思わず声が漏れた。
入口の前で一度立ち止まり、店の看板を見上げる。
「ここで合ってるよな……」
少し緊張しながら店内へ入ると、奥のテーブルに見覚えのある二人の姿があった。
「おーい!田中!」
一人が大きく手を振る。
声の主は、学生時代からの友人だった。
短く整えられた髪に、清潔感のあるジャケット。背筋の伸びた姿勢と自信に満ちた表情。人目を引く整った顔立ちに、初対面の相手でも自然と会話を弾ませる話術を持っている。
現在は自分で会社を経営しており、仕事も順調。昔から行動力があり、何事にも物怖じしない男だった。
その隣に座っているのは、もう一人の友人。
こちらは経営者の友人とは対照的に、落ち着いた雰囲気の男だった。柔らかな笑顔に、穏やかな口調。派手さはないが、端正な顔立ちと知的な雰囲気が印象的だ。
医師として働いており、相手の話をじっくり聞くのが得意だった。
二人とも女性からの人気は高く、学生時代から何かと目立つ存在だった。
そんな二人に挟まれると、田中はどうしても自分が場違いに思えてしまう。
それでも、二人は昔と変わらず田中を迎えてくれた。
「おう、久しぶり!」
田中は少し照れくさそうに笑いながら、二人のもとへ歩いていった。
「いやあ、ここすごいな」
田中は店内を見回した。
「だろ?ちょっと奮発したんだよ」
「なあ、ここっていくらくらいするの?」
田中が小声で尋ねると、経営者の友人は笑った。
「気にするなよ。足りなかったら出してやるって!」
「いや、それは悪いよ」
「いいからいいから。今日は楽しもうぜ」
医師の友人も笑顔でうなずいた。
「せっかくなんだから、田中も楽しんでいってよ」
「うん。ありがとう」
田中は少し肩の力が抜けた。
やっぱり、こいつらはいい奴らだ。
昔から何かと自分を気にかけてくれる。仕事も生活も違うけれど、会えば昔と変わらない。
そんな二人と話しているうちに、田中の緊張も少しずつほぐれていった。
やがて、店員がテーブルへ近づいてきた。
「お連れ様がお見えになりました」
「おっ、来たか!」
友人たちが入口の方へ目を向ける。
田中もつられて振り返った。
女性が三人、こちらへ歩いてくる。
それぞれ雰囲気の違う女性たちだった。
その中の一人に、田中の視線が止まった。
落ち着いた雰囲気に、上品な立ち姿。整った顔立ちと、柔らかな表情。
周囲の景色が、ほんの一瞬だけ遠のいたような気がした。
「……」
田中は言葉を失った。
女性が近づいてくる。
そして、彼女と目が合った。
彼女はにこりと微笑んだ。
田中の胸が、どきりと鳴った。
――きれいな人だ。
それが、田中の第一印象だった。




