↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の便器  作者: 好月
PR
2/11

厄介者コンビ

川沿いの遊歩道には、朝から何人もの警察官が集まっていた。


 原因は、ここ数日、この川で相次いで目撃されているという一匹のワニだった。


 目撃者の話によれば、その大きさはおよそ二メートル。種類はメガネカイマンらしい。


 もちろん、日本の川にワニがいるなど普通ではない。


 近隣住民からの通報が相次ぎ、交番勤務の警察官だけでは手が回らなくなっていた。そこで警察署は、刑事課からも応援を派遣することにした。


 その応援要員として、真っ先に名前が挙がったのが佐伯と水野だった。


 周囲からは、ひそかに「厄介者コンビ」と呼ばれている二人である。


 水野は二十四歳。刑事課に配属されたばかりの新人刑事だ。


 大きな瞳に、整った顔立ち。しなやかな黒髪は後頭部でひとつに束ねられ、すらりとした身長は百六十五センチほど。凛とした立ち姿も相まって、誰もが振り返るような美しい女性だった。


 その容姿だけでも十分に目を引くが、彼女が周囲から注目される理由はほかにもあった。


 海外の名門大学を卒業した才女であり、噂では在学中にFBIからスカウトの話まであったという。


 もっとも、本人はそうした噂に興味を示すこともなく、常に冷静で、理論とデータを重視する真面目な性格だった。


 一方の佐伯は、身長百七十五センチほどの中肉中背。髪はまだ十分に残っているものの、すっかり貫禄のついた中年男性である。


 若い頃はそれなりに女性にもてたのだろうが、今では立派なおじさんだ。


 タバコは吸わず、酒も特別好きというわけではない。


 ただし、スーツには並々ならぬこだわりを持っている。


 愛用するのはグレーのスーツ。ズボンの裾は三センチ幅のダブル仕上げ。ジャケットの袖口は手首より一センチ上、シャツの袖は手首より一センチ下にくるよう仕立てられている。


 そのこだわりは相当なものだったが、なぜかネクタイにはまったく興味がない。どれを締めても同じだと思っているらしい。


 そんな二人は、川岸に並んで立っていた。


「メガネカイマンは、もともと南米の淡水域に生息するワニの一種です」


 水野は川を見つめたまま、よどみなく話し始めた。


「比較的温暖な気候を好み、水辺の草むらや水中に身を潜める習性があります。目撃情報と周辺環境を照合すれば、潜んでいる場所をある程度絞り込めるはずです」


「へえ。ずいぶん詳しいねえ」


 佐伯は川を眺めながら、気のない返事をした。


「それで、その知識は役に立つのかね?」


「もちろんです。動物には習性があります。行動範囲や気温、水辺との距離などを分析すれば、行動パターンを予測できます。おそらく、この近辺の水辺の草むらに潜んでいるはずです」


「そーかねー」


 佐伯はあくびをひとつした。


「俺がカイマンなら、腹が減ったら上流にある養鶏場を狙うけどな」


「養鶏場は水辺から離れています。警戒心の強いカイマンが、わざわざそこまで移動するとは考えにくいです」


「なるほど!」


 佐伯は妙に納得したようにうなずいた。


 水野は小さく息をつき、再び川の方へ視線を戻した。


 この人は本当に捜査をする気があるのだろうか。


 そんな疑問が頭をよぎったが、口には出さなかった。


 それからしばらくして、二人の無線機が鳴った。


『上流の養鶏場より連絡。敷地内で大型のワニを発見。現在、専門業者とともに捕獲作業を行っています』


「えっ……」


 水野は思わず無線機を見つめた。


 まもなく、カイマンが無事に捕獲されたとの続報が入った。


「そんな……!」


 水野は信じられないといった表情で佐伯を見た。


 佐伯は少しだけ得意げに口元を緩めた。


「生き物ってのはな、追い詰められると常識外れな行動をするもんだよ」


 佐伯は川の向こうを眺めながら続けた。


「カイマンも慣れない日本で追い詰められてたんだろうなあ。かわいそうに」


 そして、何かを思い出したように水野の方を振り向いた。


「あっ、ちなみにこれ、人間にも当てはまるから!」


「……そうですか」


 水野は素っ気なく答えた。


 佐伯はそんな反応を気にする様子もなく、ズボンの裾を軽く整えた。


「さて、帰ろうか」


「まだ報告書が残っています」


「そうだったなあ……」


 佐伯は面倒くさそうに肩を落とした。


 こうして、厄介者コンビの一日は終わった。


 もっとも、この二人が本当に力を発揮するのは、こんな平和なワニ騒動などではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。