2026年 春 家に帰ったら世界が違った⑦.AIに聞こう
——そうだ。
試しにAIへ相談してみよう。
私はスマホを開き、入力する。
『異世界に転移してしまったようです。どうすれば帰れますか?』
数秒後、返答が表示された。
『異世界への転移、大変な状況ですね。
まずは冷静になり、以下の手順を試してみてください』
……は?
続きを読む。
『周囲の状況を確認する:
転移した場所の危険度(魔物や気候)を確認し、まずは安全を確保してください。山の中などであれば、住みやすい場所(街)を探すことが最優先です。
転移の理由を考える:
召喚されたのであれば、召喚した相手(王族や魔法使い)が帰還方法を知っている可能性があります。
魔法や技術を探る:
この世界には魔法や、元の世界とは異なる技術がある可能性があります。魔法の才能があるか確認したり、知識を活かして生き抜く方法を探りましょう。
帰還の手段を模索する:
転移した時と逆の方法を試す、強力な魔法を使う、あるいは特定のアイテムを探すなどが一般的な帰還方法です。
長期滞在を覚悟する:
帰還方法が見つかるまで、その世界での生活を整えましょう。この世界で快適に過ごす方法(「異世界に転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。」を参考に)も検討してみてください。
まずは、その世界の住人に状況を聞いてみるのが良いかもしれません。ご無事をお祈りします。』
……。
スマホを床に叩きつけたくなる衝動を、私は必死に抑えた。
違う。
そういうネタじゃない。
再び入力する。
『いや、冗談じゃなくて。本当に異世界に来たの』
今度の返答は少し違った。
『……それは災難ですね。
まず落ち着いてください。
異世界転移が事実なら、あなたは極度の孤立状態にあります。
水分と安全な睡眠場所を確保してください』
少しだけ、まともになった。
『正確にはパラレルワールドっぽい。
両親もいる。でも、私の知ってる世界とはかなり違う』
『あなたが体験している現象は、強いストレス、疲労、解離症状、または神経学的問題によって引き起こされている可能性があります。
現実感の喪失や周囲環境への違和感が続く場合は、信頼できる家族や医療機関へ相談してください』
ああ、そっちに戻るんだ。
『いや、病気じゃないし。
さっきテレビで、白装束の男が空中浮遊してたんだけど』
『“空中浮遊”は、1990年代に宗教団体オウム真理教の麻原彰晃が行っていたパフォーマンスを指している可能性があります』
ん?……オウム真理教?
その名前は知っている。
昔の歴史本で読んだ。
『そのオウムが、日本を支配してる世界かも』
『公開されている歴史記録に、その事実は確認できません』
『でも現実にそうなってる』
『あなたが認識している現実と、現在参照可能な歴史情報の間に重大な矛盾があります』
背筋が冷たくなる。
『精神的な混乱は無いと思いたいけど』
少し間を置いて、AIが返した。
『では質問です。
現在の日本の首都は?
現在の日本の政権は?』
首都は東京に決まってるだろ!
——いや、待って。
ここは異世界だ。
本当に東京なのか?
一瞬、リビングの両親へ聞きに行こうとして、私は足を止めた。
……駄目だ。
中学を卒業したばかりの娘が、
「日本の首都ってどこ?」
なんて聞いたら、本気で正気を疑われる。
スマホ検索——は意味がない。
出てくるのは、元の世界の情報だけ。
その時、私は本棚へ視線を向けた。
……そうだ。
この世界の本で調べればいい。
教科書なら、あるはずだ。




