2026年 春 家に帰ったら世界が違った④ 空中浮揚する男
ふと顔を上げた父の視線が、私のところで止まった。
「……最近は、そういう服が流行ってるのか?」
「え?いや、別に」
自分でも、何と答えればいいのか分からない。
父はしばらく私を見つめていた。
何かを考えているようにも見えたが、
「そうか」
とだけ言って、再びノートパソコンへ視線を戻す。
使い込まれた古い機械。
白黒の液晶画面だけが、ぼんやり光っていた。
テレビでは、白装束の男が座布団の上に座っていた。
胡坐——いや、違う。
座禅のような姿勢。
男は真顔のまま「フーッ、フーッ」と呼吸を整え、その姿勢のまま、ぴょん、と飛び跳ねた。
また跳ねる。
ぴょん、ぴょん、と。
周囲の観客がどよめく。
「おお……!」
中には涙ぐんでいる人までいた。
……なにこれ。
ただのジャンプじゃないの?
脚力と背筋を使えば、わりと誰でも出来そうに見える。
私は、自分で試そうとは思わないが。
かくし芸だとしても、他人に自慢できるような芸ではないだろう。
少なくとも、命を懸けて感動するような芸には思えない。
番組では「空中浮揚」って言ってるような。これが空中浮揚?
背筋が寒くなった。おかしいのは、この家だけじゃない。
世界そのものが、変わっている。
さっきまで私がいた世界とは、どう考えても違う。
ブラウン管テレビならアナログ放送してるって事だよね?
タイムスリップ…したようで、全然違う。
信じたくはない。
でも——。
これって、マンガやSFでよくある“異世界転移”というやつじゃないのか?
いや。
どちらかと言えば、パラレルワールド。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
「ねえ…今年って、何年だっけ」
父は再び私の方を見た。
「今年は、せいれき32年だろ」
「え!1932年?」
タイムスリップした??
でも西暦1932年て、戦前。それどころか昭和の初期だ。
逆に、おかしくない?
「何言ってるんだよ、違うよ。ほら、そこにあるカレンダー見てみな」
壁に貼ってあるカレンダーを見ると、そこには、
『聖歴32年 西暦2026年』
と印刷されていた。
『聖歴』?聞いた事ないけど、年号?




