2026年 春 私の、使命……?③
「……おまえ、こっちの世界の人間じゃないだろ」
は?
いきなり核心?
心臓が、一瞬止まった気がした。
「……え?」
思わず聞き返す。
「なんで、そう思うの?」
しらを切るべきか、と一瞬考えた。
でも、やめた。
改古堂のおじさんの時みたいに、一から説明して信じてもらうより、最初から気付いてくれている相手の方が話は早い。
それよりも。
どうして分かった?
お父さんは静かに答えた。
「春休みの外出から帰ってきた日だよ。」
「え?」
「帰ってきた澪は、別人だった。」
……
え?
「いや、それだけならさ。」
私は思わず身を乗り出した。
「普通は『娘が別人になった』って考えるでしょ?
なんでそこで『異世界から来た』なんて話になるの?」
お父さんは小さく笑った。
「普通なら、そう思う。
でも、冬月家は普通じゃないんだ。」
部屋の空気が少し変わった。
「昔から、うちの一族には言い伝えがある。
異世界へ渡る者が、ときどき現れるって。」
「……は?」
初耳だ。
そんな話、一度も聞いたことがない。
「そして、その人たちは──」
お父さんは少し言葉を選ぶように間を置いた。
「誤った歴史を正すために現れる、と。」
私は思わず吹き出しそうになった。
「いやいやいや。
そんな昔話、本気で信じてるの?」
「昔は信じてなかったよ。」
お父さんは苦笑した。
「子どもの頃まではね。」
そう言うと、机の一点を見つめながら話し始めた。
「日本が、まだ豊かだった頃の話だ。
お父さんには、年の離れた兄さんがいた。
つまり、おまえから見れば叔父さんだ。」
私は黙って聞いていた。
「ある日、その兄さんが帰ってきた。
……別人になって。」
「別人?」
「見た目は同じだ。
でも、中身が違った。」
父はそこで首を横に振る。
「いや……違うな。
今なら分かる。
あれは、中身だけじゃなかった。
まるで、別の世界で長い間生きてきた人間みたいだった。」
部屋が静まり返る。
「骨と皮だけに痩せていてね。
ずっと栄養失調だったみたいな身体だった。
体調は戻らなかった。
そして、そのまま亡くなった。」
私は何も言えなかった。
父は続ける。
「祖父も曽祖父も言っていた。
本物の兄さんは、別の世界へ渡った。
誤った歴史を修正するために。
ここで亡くなったのは、入れ替わりで来た別世界の兄さんだったんじゃないか、と。」
……
いや。
待て。
待て待て。
「だから、おまえを見た時、思ったんだ。
また来たんだな、って。
冬月の人間が。
今度は、この世界を正すために。」
私は思わず頭を抱えた。
突っ込みどころが、多すぎる。
でも。
冷静に考えてみる。
……いや、冷静じゃないな。
私は実際に、別世界へ飛ばされている。
その時点で十分、非常識なんだった。
だったら。
冬月家の人間が昔から世界を渡っていた、と言われても──
「……いやいや。
やっぱり、おかしいでしょ。」
思わず、そう口にしてしまった。




