第38話 2026年 春 私の、使命…?④ 私に何が出来るっていうんだ
「え……ちょっと待って」
私は思わず父の話を遮った。
「何から何まで、おかしいでしょ」
父は何も言わず、続きを待っている。
「世界を救う?
歴史を修正?
私が?」
一つずつ口にしてみる。
……やっぱり意味が分からない。
「だって私、昨日まで普通の高校生だよ?
勉強も運動も普通。特別な才能なんて何にもない。
そんな人間に、世界を救えって?」
父は静かに笑った。
「それにさ」
私は畳みかける。
「昔から冬月の人がそんなことしてたって言うけど、歴史上に冬月なんて人物、いたっけ?
歴史好きの私が知らないって、おかしくない?」
「歴史を変えた人間が、歴史に名前を残すとは限らないからね」
「……いや、それっぽいこと言われても」
納得できない。
「そもそも異世界に転移するって現象自体、まだ受け入れられてないんだけど」
私は天井を見上げた。
「これって、本当は壮大なドッキリじゃないよね?
家族も友達も同じ人で、町もちゃんと存在してて。
みんな私を騙すために演技してるとか。
この辺だけ映画のセットで、私が信じた瞬間に、
『ドッキリでしたー!』
ってスタッフが飛び出してきたりしないよね?」
父は苦笑した。
「その方が、よっぽど現実的に思えるか」
「うん。その方が、まだ科学的」
スマホが普通に使えてる時点で、この世界は説明が付かないことだらけなのだ。
そのことは、まだ黙っておく。
「信じないのも無理はないよ」
父は穏やかな口調で続けた。
「お父さんだって、兄が入れ替わるまでは信じていなかった」
「……叔父さん」
「ああ」
父は少し遠くを見る。
「あの人は優秀だった。
農学を学びながら、機械いじりも得意でね。
何でも自分で作ってしまうような人だった」
そんな人が、突然別人になった。
「入れ替わって来た人は、自分の世界の話をしてくれた。
この世界とは違うところも沢山あった。
どうも、太平洋戦争の後の歴史が違うようで、
食べ物にも苦労していたらしい」
「……じゃあ、本物の叔父さんは?」
「別の"誤った世界"へ行ったんだろう。
そして、そのまま帰ってこなかった」
部屋が静まり返る。
そんな話、信じられるわけがない。
でも。
私自身が、今まさに別世界へ飛ばされている。
完全に否定することもできなかった。
「……でもさ」
私は小さくため息をついた。
「やっぱり分からないよ。
その叔父さんは優秀だったんでしょ?
私は違う。
高校に入ったばっかりだし、取り柄なんて何にもない。
世界なんて救えないよ」
父は静かに首を振る。
「誰も、お前一人で救えとは言ってない」
「え?」
「何かを成し遂げる人もいれば、その切っ掛けになる人もいる。
お前がこの世界へ来たこと自体に、意味があるんじゃないか。
お父さんは、そう思う」
……意味。
そんなもの、本当にあるんだろうか。
しばらく黙って考えたあと、私は顔を上げた。
「だったらさ」
父を見る。
「私以外にも、冬月の誰かが入れ替わってたりしない?」
父は静かにうなずいた。
「その通りだ」
「え?」
「実はな。澪が変わったあと、親戚中に連絡を取ってみたんだ」
そんなことまでしてたのか。
「みんな、昔から伝わる話は知っているからね」
父は一度言葉を切る。
「その結果、お父さんは確信した」
まっすぐ私を見た。
「お前は、この世界の澪じゃない」
その目には、迷いがなかった。
「そして――もう一つ、分かった事がある」
「……もうひとつ?」
父は小さくうなずく。




