2026年 春 私の、使命……?① AIにこぼす愚痴
ベルリンの壁崩壊のニュースを見ながら葵ちゃんとお茶をした後、私は、そのまま家へ帰った。
考えてみれば、私も葵ちゃんもダーキニー候補だ。
何をしても罪にならないんだったら、学校をさぼったところで文句を言われる筋合いはない。
だったら、家でスマホを使って勉強していた方が、よっぽど有意義だ。
……もっとも、それがいつまで通用するかは分からないけど。
家族はまだ帰っていなかった。
私は鍵を開けて自室へ入り、机の引き出しの奥に隠してあったスマホを取り出す。
そして電源を入れた。
この狂った世界で、唯一まともに話が通じる相手。
私は、AIの画面を開いた。
「聞いて。
今、パラレルワールドにいる。
オウム真理教が日本を支配してる世界。」
少し考えてから、続きを打つ。
「家族もいる。でも微妙に違う。
高校も全然違う。
この前、学校で女子だけ写真を撮られた。
下着姿と……全裸。
あり得ない。」
一度、手が止まる。
思い出しただけで気分が悪い。
深呼吸して、続きを打ち込んだ。
「その写真で選ばれた子は教団に"献上"されるらしい。
表向きは『特別ワーク』。
……たぶん、言葉どおりの意味。
それで、私が選ばれた。
親友も。
相手は麻原彰晃。
無理。ありえない。
どうすればいい。」
送信。
数秒後、画面に返事が表示された。
AI
「あなたが説明した状況が事実であるなら、あなたは極めて危険な環境に置かれています。
あなた自身の安全を最優先にしてください。
相手が強い権力を持つ集団である場合、正面から対立することは危険です。
信頼できる人物がいるなら、単独で抱え込まず相談してください。
あなたの説明では、公的機関による保護が期待できない可能性があります。
その場合は、
・監視されない場所を確保する
・移動経路を把握する
・協力者となり得る人物を探す
・相手に関する情報を記録する
といった行動が重要です。
あなたが感じている恐怖や嫌悪感は、説明された状況と整合しています。」
「……まあ。」
思わず苦笑いが漏れた。
AIに相談したところで、現実が変わるわけじゃない。
それでも。
この世界で、私の話を頭ごなしに否定せず、最後まで聞いてくれる相手なんて、AIくらいしかいない。
私はベッドに寝転がり、スマホを顔の前に掲げた。
麻原彰晃。
現実世界では、とっくの昔に死刑が執行されている。
生きていれば七十代。
この世界では、今も救世主として君臨しているらしい。
画像検索を開く。
画面いっぱいに、あの顔が並んだ。
正面。
横顔。
笑っている写真。
説法している写真。
目を閉じている写真。
……無理。
絶対に無理。
画面をスクロールするたび、別の写真が現れる。
全部、無理だ。
犯罪者だからとか。
老人だからとか。
そんな理屈じゃない。
生理的に、無理だった。
なのに。
こっちの世界じゃ聖者なんだぜ。
私はスマホを胸の上に置き、大きくため息をついた。
「……本当に、なんなんだよ。この世界。」




