2026年 春 地獄の高校生活① あなたは選ばれました
胸糞悪い写真撮影から、数日が過ぎた。
まったく、なんて世界だ。
朝、目が覚めるたびに思う。
今日こそ元の世界へ戻っているかもしれない――そんな期待は、毎朝あっさり裏切られる。
せっかく入学した高校も、ちっとも楽しくない。
別のクラスのくせに、パッパラ……いや、ウッパラナントカこと神谷さんは、休み時間になるたび現れるし。
まったく、なんて世界だ。
授業も相変わらずだ。
宗教の実習はもちろん、普通の教科までどこかおかしい。
歴史では、鎌倉幕府の成立が「いい国作ろう鎌倉幕府」の1192年のまま。
いやいや、「いい箱作ろう」の1185年でしょうが。
この世界、学問まで止まってるの?
このまま元の世界へ戻れたとしても、授業についていけなくなるんじゃないか。
そう思って、毎晩こっそりスマホで勉強している。
動画はいくらでも見られるし、分からないところはAIに聞けばいい。
……学校の授業より、ずっと分かりやすい。
ひょっとして私、学校へ行かずに家で勉強してた方が成績上がるんじゃない?
もっとも、この世界で不登校なんてやったら、どんな目に遭うか分かったものじゃないけど。
それにしても、不思議なのはスマホだ。
元の世界では、今もお父さんたちが料金を払い続けてくれているんだろうか。
そんなことまで考えてしまう。
学校では、あのロクデナシの上級信者が相変わらず威張り散らしている。
先生たちより偉そうに廊下を歩き、生徒も教師も、すれ違えば頭を下げる。
なのに本人は、軽く顎を動かすだけ。
私?
もちろん無視。
誰が頭なんか下げてやるもんか。
先日の宗教の授業では、こんな話までしていた。
「……例えばね、誰かから殴られたとする。そうすればカルマが落ちるんだよ。
私も選挙の時、通りすがりの中学生に殴られたことがあったけど、その時は感謝の気持ちでいっぱいになったものだ」
ほう。
あの伝説の選挙のことか。
武勇伝でも語るつもりなのだろうか。
腹が立ったので、手を挙げた。
「じゃあ、殴った人のカルマはどうなるんですか?」
「もちろん、殴った方はカルマを背負う。罪を犯すことになるからね」
「じゃあ、その人は救われないんですね。修行者なら、自分がカルマを引き受けてあげるのが献身じゃないんですか?」
教室が静まり返る。
上級信者は、私をじっと見つめた。
数秒。
やがて何事もなかったように視線を外し、最初から用意していた説法を再開する。
私の質問は、この世に存在しなかったことになったらしい。
そんなある朝だった。
登校すると、校門で担任の先生が待っていた。
「冬月さん。ちょっと職員室へ来てください」
「今ですか?」
「ええ。鞄も持ったままで」
何だろう。
先生の表情は硬い。
私は訳も分からないまま、職員室へ向かった。
扉が開く。
その瞬間だった。
パチ。
パチパチ。
パチパチパチパチ――。
職員室中の先生たちが、一斉に拍手を始めた。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
誰一人、笑っていない。
目だけが、死んでいた。
……何これ。
でも、この光景。
どこかで見たことがある。
そうだ。
戦争映画だ。
赤紙が届き、出征する若者を村中が拍手で送り出す、あの場面。
――いや。
違う。
違わないのか。
あの写真撮影。
まさか……
あれは、徴兵検査だったのか?
そう思った瞬間、背筋を冷たいものが走った。
その中で、あの上級信者だけが、満面の笑みを浮かべていた。




